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別人になるということ


「あー、今日は新しい仲間と戻ってきた仲間がいる」


唐突なナラツの宣言に教室が沸く、戻ってきた仲間というのは察しがつくが授業参観も終わってからの新しい仲間というのはよっぽどの事情があるということに他ならない。


公にできない王族か貴族の子、もしくはそれ以上の何かがあると思って間違いないのである。


「まずはフリュウ」


決まりが悪そうに入ってくるが皆の視線は別の方を向いていた。


「あーそうだよね……そっちの方が気になるよね……」


特異な視線を向けられなかったことに安堵と少しだけの寂しさを抱えながら空いているかつての己の席に座った。


「……次は【貴不死人】の推薦で編入が決まった特例中の特例だ。入ってこいギフト」


扉を開けて入ってきたのは金の髪を腰のあたりでゆるく縛った超のつく美人だった。


髪と同じ色の瞳は星が散るかのごとく輝き、高い鼻は均完璧な均整を誇っている。胸はほぼないが長い手足は人形のごとく華奢ながらもしなやかさを失わない。神にデザインされたかのような無駄の一切ない完璧なバランスを持っていた。


「ギフトだ……」


見た目にそぐわぬ低い声は他の生徒を困惑させた。性別が釈然としない。皆が心の中でどっちなのかを測りかねていた。


「よろしく頼む」


「てことだ、ブレスを失った埋め合わせってわけじゃねえがコイツもここの仲間だ。仲良くな?」


「あの……先生」


機人の少女がおずおずと言う。


「なんだ?質問なら本人にしろよ?」


「答えられることなら答えよう」


「ほらな?」


意を決したように少女は言い放った。


「あの……男の子ですか?女の子ですか?」


好奇心に負けて言ってしまったのである、少女は真っ赤になったが周りの心情的には喝采ものであった。


『(よくぞ言った!!)』


これが大多数の心の声である。


「あら?そんなことでいいのかしら?」


可憐な声、もちろんギフトから発せられたものである。先ほどまでの低い声とは似ても似つかぬ見た目通りの声だった。


「そうは言ってもなあ……俺にも」


低い声に戻る


「私にも」


高い声


『どっちにもなれるっていうのが答えかな』


両方を混ぜ合わせたような奇妙な声で答えを返した。【貴不死人】が推薦したという特異性に違わない異常さだった。


「だそうだ。質問なら今のうちにしておけよ四六時中質問責めじゃあ休めもしないからな」


「はいっ!!」


鬼の少年が手を挙げた


「【貴不死人】の誰の推薦で入ってきたんだ?」


「強いて言えば全員だ」


「それじゃあ全員に会ったことあるのか!!」


「もちろん、親みたいなものだからな」


「スッゲー!!」


その時だった。


黒塗りのナイフがギフトめがけて一直線に飛来した。


「……なんのつもりだ?」


指でナイフを摘みながら飛んできた方向を見ると、そこにはひどくやつれたエルフがいた。


「……ろ……おし……おし……えろ」


かすれきった声は声量の関係もあってほとんど聞き取れない。しかしギフトはそれを理解していた。


「無理だ。今の俺じゃあの人たちのところへは行けない。行き方を教えることもできない」


「……ら……えを……る……!」


人よりも大きな黒い鶏が出現する。ところどころ崩れかけた鶏であるが殺意だけは強烈に放っていた。


「それも無理だ。お前じゃ俺を人質にはできない」


「……!!!」


声にならぬ叫びをあげると黒鶏はギフトへ向かって走り出した。


「……仕方ない」


踏み込み


破裂音


吹き飛ぶ黒鶏


他の者に見えたのはそれだけだった。


「思ったより軽いな……鳥だからか」


崩れ落ちるエルフの肩を支える鬼人の少女がいた、エルフの方と同じくらいやつれていたがその瞳はまだ理性が残っていた。


「友が迷惑をかけた……大事な者を亡くしたのだ……許して欲しい」


「あの人たちも恨みを買いやすい、俺には怪我もない。許そう」


「かたじけない、だが後で話は聞かせてもらうぞ」


鬼人の少女がエルフの少女を連れて教室を出て行った。


「もういいな?」


先ほどのを見た後で何か質問しようという者はいなかった。



「大丈夫か……?」


ぐったりとするカームに肩を貸しながらムケンは尋ねる。


「……(大丈夫、久しぶりに喋ったから)」


「そうか……しかしいきなり襲いかかるのはやりすぎだぞ」


「……(でも、収穫があった)」


「さっきのでか?」


「……(そう)」


カームがにこりと笑う、ここ半年で一度も見せなかった表情である。


「……(ギフトって奴は私の言うことが分かっていた)」


「……心を読む能力持ちかもしれない」


「……(それにあの表情に喋り方、グレイスに似ている)」


ムケンの顔が驚愕に歪む


「まさか……そんなことあるわけないだろう!?」


「……(試してみる価値はある、あいつはブレス君の欠片かもしれない)」


「欠片……?」


カームは挑戦者の顔をしていた、今までの亡霊のような顔ではない。


「……(そう、砕けたブレス君の欠片。それを集めればブレス君は……!)」


「復活するとでも言うのか?人はそんな風にはできていない。失われた命は失われたままだ」


カームの動きが止まる


「……(今何か言った?)」


「聞こえていないか……いや聞きたくないのだろうな……私だって信じたくはない……ブレスが死んだなどと、だが見ただろう。崩れ落ちていく様を」


「……?(さっきからなにいっているの?)」


カームの耳には聞こえない、凪のごとく受け付けない、音は入ってきてもノイズになってしまう。


理解を拒む。


理解すれば、割り切ってしまえばそれで終わってしまうのだから。


「ダメか……それでも諦めないぞ。お前のこんな姿はブレスは望んじゃいないだろうからな」


救護室の扉の前に到達する。アガペが誰かと話す声が聞こえてくる。


「ええ、大丈夫ですよ。あんなの誰が見破れるものですか。双星様と匠様のはじめての合作なんですよ?加えてあの演技力なら誰だって気付いたりなんてしません。たとえ全身を調べられたっておかしなところは一つもないんですから。そもそもあんなおおっぴらにやっておいて今更蒸し返す者もいませんよ」


カームとムケンの息が止まる。


心臓だけがその存在を主張している。


「ご子息のことは大丈夫ですって、そんなに心配なさるなんてお変わりになりましたね。もう2度とあんなことは起こりませんから。それでは私は生徒の相手をしなくてはなりませんので」


アガペが扉を開ける、そこには硬直したムケンとカーム。


「あいっかわらずひっどい顔ねえ。ろくに寝てもいないし食べてもいないって顔よ〜?」


ようやく自体を飲み込んだムケンがアガペに詰め寄った。


「今の……今の話は……!?」


「ん?ああ聞いてたの。ダメよー?レディの内緒話を盗み聞きしちゃ」


ウインクをしてムケンをたしなめるアガペ、実にあざとい。


「あの……ご子息っていうのは……」


「個人情報は勝手に漏らすと解雇されちゃうの。だから言えないわ」


「……!!(お願いします、お願いします、おねがいします)」


アガペにすがりつくカーム、奇しくもそれはブレスの為に校長にすがったグレイスと同じ姿だった。


「だから、だーめだってば」


そこに救護室にやってくる人影


「アガペ先生、ちょっと手首を診てくれませんか?」


手首を押さえながら現れたのはギフトであった。


「……取り込み中ですね、失礼します」






















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