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金の龍・風の龍


突然襲いかかった重量にカームは倒れた。


「……!?(全然動けない……ハネはこれで動けたの……ありえない)」


エルフは肉体的な強さという点では蟲人には及ばない、ましてや比較対象が轟来族である。そこには隔絶した差が存在しているのだが。それでも今の重量で鈍いながらも動けていたハネに対して驚きを禁じ得ない。


「……(まずい、こんなところで倒れていたら的になるだけ)」


腹ばいになりながら全身の力を振り絞って身体を前に進めていく。


「……(早く……誰かと合流しなきゃ……!!)」


必死の力でもゆっくりとしか進めない状況は酷くもどかしく、精神的な苦痛は計り知れない。


「あら、誰かと思いましたら。あなたはララちゃんのお仲間ですわね」


絶望的な状況であった。


カームはまともに動けず孤立無援、それに対する相手は【黄金】のドラゴニュートであるタラスだ。万全の状態で挑んだとて勝てる確率は低いだろう相手である。


「……(最悪……でもまだ終わりじゃない)」


カームのそばに黒鶏が出現した。


奥の手の一つである【恋人】の鳴き声のことをタラスは知らないはずである、ゆえに一矢報いることを諦めていなかった。


「だめですわ。今はあなたに手が出せません、だから【恋人】をしまってくださる?闘う気なんてこれっぽっちもないんですのよ」


タラスが両手を挙げてお手上げのポーズをとった。しかしカームは黒鶏をしまわない。発言を信じる理由が一つも無い以上従うことなどできないのは当然だろう。


「信用できないという顔ですわね?ではもっと簡潔に言いますわ。あなたはこれから【黄金】の貯金箱ですわ。貯金箱を壊すのは貯まりきってから、常識ですわ」


「……?(貯金箱……?)」


貯金箱という発言はカームには上手く飲み込めなかった、疑問に顔が歪む。


「分かりませんか、つまりは【黄金】が他の組を全部つぶすまでその重みを肩代わりしていただくと言っているのです。そうですわね手始めにわたくしに新たにのし掛かった重さをあなたに差し上げますわ」


タラスのコインがカームの背に置かれる。


「……っ!?(おも……い……!?)」


加算された重みにカームの身体が軋む、ただでさえ立ち上がれない重さだったのだ。これ以上の加算は命に関わる。


「ごめんなさいね、わたくし達も負けられないんですわ。恨んで貰って構いませんわ、それでも私たちは【貴不死人】に会わなくてはなりませんのよ」


「……(どうして……【貴不死人】に……)」


「不思議そうな顔をしていますわ、でもそれは言えません。言ってしまえばそれは呪いとなる、巻き込まれるのは【黄金】だけで良いんですわ」


悲しげな顔はよほど重大なことを抱えてしまっているのを感じさせる、これまでの目的や夢を塗りつぶして未来を決定づけるような何かを知ってしまったのだろう。


「安心してくださっていいですわ、今の【黄金】には遊びはありません。マッドとジュハが倒れたようですが問題ないですわ。レオーマもホウも、何よりハジメがいますもの。すぐにその重さからは解放されますわ」


絶対的な信頼。


確かなそれを感じさせる言葉だった、カームには【黄金】の中でいったい何があったのかそれを知ることはできないが固い決意と絆は十分すぎるほどに伝わっていた。


「ですから……」


タラスがおもむろに腕を大きく払う。形成された金の壁が迫ってきていた風の槍を防いだ。


「ララちゃんと言えども譲れませんわ」


「カームさんを解放してください」


「無理ですわ」


「私の頼みでもですの?」


「ララちゃんの頼みでも、ですわ」


ララシィが悲しげに目を伏せる。


「では仕方ありませんの……」


「ええ、仕方ないですわ。そして二度は同じ手は通じませんわ!!」


タラスの周囲に大量の金粉が舞いタラスの身体を覆い尽くした


「これはっ!?」


陰に潜んでいたブレスが驚きに目を開く


「あなたの干渉は自分が見えているものだけでしょう?ならば見えないほどの物量で覆ってしまえば良いのです!!」


ブレスが散らすよりも多く、早く金粉は形を作りあげる。


その姿はドラゴニュートの祖と伝わる伝説の模倣、名高き龍の神そのものだった。


「これが、わたくしの、黄金龍神バハムートですわぁあああああ!!!」


金の龍と化したタラスの姿は視認できない、位置も分からないとなればブレスにできることは多くない。精々がララシィの逃走のアシストくらいである。


「ターちゃん……本気ですのね」


「逃げて!!時間は稼ぐから!!」


「いいえ、ここからはドラゴニュートの闘争の時間ですの。ブレス様は他の【黄金】組の警戒をお願いしますの」


風が逆巻きララシィにまとわりつく、小規模の竜巻が手足に装着されていく。


「頼りないと思われていますか?」


「そんなことは……」


過去にララシィはタラスに完膚なきまでに敗北している、それを知ってなお信頼できるほどの楽観をブレスはできなかった。


「ふふ、良いんですの。それを今から払拭してご覧に入れますの」


「準備はできました?大丈夫、痛みを得る前に終わりますわ」


金の龍が息を深く吸い込む


「手加減は抜きですわ。黄金の奔流で飲み込んで差し上げます」


「できるものなら……ね」


龍の眼前でララシィは構えた。


それに合わせて金の龍の口腔が光り輝く。


黄金咆哮バハムートブレイリア!!」


古代竜巻ファブニールサイフルード!!」


金の閃光がララシィめがけて殺到するがそれを両腕の風で受け止める。


しかし出力の差は歴然であり明らかに押し負けている。ララシィが飲み込まれて脱落するのも時間の問題であろう。


「くぅうううううう……!!」


「悲しいけれどこれが力の差ですわ!!さあ力を抜いて身を委ねなさい。そうすればあっという間に終わりますわ」


タラスの降伏勧告はララシィに届く、この状況を見ればその言葉がただの脅しなどではないということが分かる。


しかし


しかしだ


古代龍の系譜に連なるドラゴニュートであるララシィの力はこの程度なのだろうか?


【黄金】に蹂躙される有象無象と同じなのだろうか?



古代龍は風と共にあり、向かい風もまた古代龍の友である。


逆境さえも古代龍にとっては日常となんら変わりはない。


ただ風を読み、風を操り、追い風に変えるまでのことである。


「わたし、は、ふぁ、古代龍(ファブニール)、古代龍のララシィですの!!」


遥か天上から降りし暴風がララシィへと集う。


「ララちゃん……!?」


「ぁあああああああああああああああ!!」


風の爆発と言って相応しい現象は金の閃光を打ち消した。


飛び散った金が晴れた時ララシィの様子は大きく変わっていた。


大きく湾曲した角、太く大きくなった尻尾、力強くなった大翼、そしてそれらを包み輝く翡翠の鱗。


「そんな……その姿は……!?」


ドラゴニュートの姿よりもより龍に近いそれは龍態(ドラコ)と呼ばれるものである。


発現する条件は未だはっきりとはしないがただ一つ言えることは戦闘力が桁違いに上がるということである。


「行きますの」











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