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親目線2


映像が空中に投影された。


「これはまた……今年も大暴れだ」


複数の視点から映し出された映像には獣人のレオーマが縦横無尽に飛び回って他の参加者を文字通り蹴散らす様子と鬼人のハジメと蟲人のホウが軽快に生徒をなぎ払っている様子が映っていた。


「【黄金】達にはキツ目の荷重にしておいたはずだが……」


「ちゃんと見ろよ、一人だけめり込むくらい重くなってる奴いるだろうが」


確かに【黄金】の機人であるマッドだけは一歩も動かずに、()()()()地下へと陣取って手駒の量産を始めていた。


「まさか……合理的だがあまりにも早すぎるな」


「粒ぞろいだと言ったのは貴様だろうに、全員が鈍るよりも動かなくて何とかなる者が背負っていったほうが事は早く済むのは明白ではないか」


「……本当に今年は当たりかもしれないな」


「あ、映ったよ!!」


太陽が指を指す、そこには確かに機械の大群と一人で相対するブレスがいた。


「ん?なんだ動き止まったぞ。つうかグレイスあんなんだったか?」


「あはははははははは!!!」


画面を見ていた匠が笑い転げた。


「……とうとう気が触れたか」


「惜しい人を無くしましたね……」


「違うって、なんとなく読唇術で唇読んで見たんだけどブレスちゃん今のグレイスを【恐怖】だって言い張って撤退させようとしてるみたい」


【貴不死人】達の目が丸くなる。


「まさか……ブレスが……?」


「たまげたなこりゃ、そんなことまでするか」


「片腹痛い、【恐怖】がそう簡単に制御できるようなものあれば余も貴様らもこんな様にはなっていないというのに」


「効果があるとは思えませんが……」


「でもでも相手は動揺してるみたいだよ?」


確かに映像の機械達はブレスを置いてその場から去って行こうとしていた。


「おいおい嘘だろ?待てよ……今のガキは恐怖戦線フォビアフロント知らねえのか。本当の【恐怖】を知っていればこのはったりは通用しねえはずだからな」


「剛……それ200年以上前だから。一部以外にはただの歴史の1ページだからね?」


じっとりとした目で匠が見る。しかし永い時を生きていると年月の感覚など麻痺してしまうものだ、ブレスの授業参観を覚えていたのは例外で奇跡に近いものだ。


「そうだったか?最近のことだと思ってた」


「あ、戻ってきた!?危ないよやられちゃう!!」


「無謀だったな、行き当たりばったりで動くからそんなことになるのだ」


鬼の双星の冷たい声でぴしゃりと言ったがそれはすぐに太陽に打ち消された。


「ああ!!風が機械止めたよ!!」


映し出されるのはブレスを救出しにきたララシィの姿だった、身体が悲鳴を上げるのも構わずに機械の進軍を止めている。


「んん?なんか見たことあんなあいつ」


剛が朧気な記憶を探るが何か見覚えがあるということを思い出しただけでその先の記憶は全く出てこなかった。


「ちょっとちょっと、ドラゴニュートでしょあの子。しかも風を扱う【恋人】持ちってそんなのファブニールの家しかないでしょ?」


「ふぁぶ……ああ!?あいつファブニールのガキか!?」


「いやいやさっき僕が言ったじゃん……」


「あそこはなかなか素質のある奴が多いんだ、ゴーララって奴が最近じゃ頭一個抜き出てたな」


「その人あの子のおじいちゃんだよ」


「はぁ!?俺がそいつ見たときまだガキだったぞ!?」


「すれんぐすぅ……ちょっと俗世に興味持ちなよ……」


諦めた顔の匠である、このやりとりももう幾度くりかえされただろうか。


本人達も数えていないし、消え去ったやりとりに意味があったのかは分からないけれど。


「しっかしこいつは肝が据わってやがるな、【恋人】の過剰使用は激痛だぜ」


「ま、あの顔見れば分かるでしょ。恋する乙女は無敵なんだよ」


『ぶっ!?』


校長、鬼の双星、剛が含んでいた飲み物を吹き出した。


「こここここ……こい……恋だと……!!」


「あれ?気づかなかった?あの顔はどう見ても恋してる顔だね」


校長は吹き出した飲み物を吹こうともせずにただただ動揺し


「そ、そそそ、そうか。流石は余の子である、溢れる魅力は人を虜にして放さぬか」


「あのう、お手が盛大に震えておりますが……」


鬼の双星は取り繕うにも取り繕えない醜態をさらし


「………(口を開けて目は映像を見つめている)」


「おーい、だいじょうぶ?」


剛は10年に一度あるかないかという完全な隙を見せた。


それほどまでにブレスに対して恋愛感情が向けられているという情報がもたらした衝撃は大きかった、たしかに可愛いし魅力は有り余っている。しかし、しかしだ。初等部の時点でそんなことが起こるなど微塵にも思っていなかったのだ。


子というのは親が思っているよりもずっと早く進歩することがある。


「あ、誰か飛び出してきたよ。早いねえ、蟲の子だ」


「珍しいですね轟来族の子ですか。艶やかな茶の髪ですが轟来族ではあまり美しいとはされないでしょうから辛かったでしょうね。それにしてもあの動きはどこかで見たような……」


「ありゃあ漆黒と同じ動きだな、1回やったことがあるから覚えてるぞ」


何とか復活した剛が指摘する、他の何を忘れても戦った相手の情報は忘れない。


剛の頭はそういうつくりになっている。


「漆黒のコゥクだね、もしかして縁者かな?」


「漆黒には確か溺愛する妹がいると聞いたことがあります、与太話の類いだと思ってましたがまさか本当だとは……」


「漆黒の妹かあ……それならあの馬鹿げた動きも納得だねえ」


「あれ?飛んだよ」


「おそらく地雷か何かを埋めてあるとか言ったのであろう、そして飛ばせるのが目的だ」


鬼の双星の言うとおりとんだ先にはそれを迎撃する装置が待ち構えていた。


「これで終わるのならばその程度だが……なんだあの鶏は……?」


「いきなり出てきたから【恋人】だろうがよ……鳥にしても鶏とか

……」


やたら美しい黒鶏は【貴不死人】の目をしても不可解なものだった、【恋人】の造形は本体の嗜好に影響を受けるが美しいものとしてこのようなものが出てくることはあまりない。


「しかしまあそれで迎撃を免れた訳だが【黄金】がその程度で無策になるとも思えないな」


「……【黄金】ならば最低でもあと一つは防衛線があるはずだ」


ショックからなんとか戻ってきた校長の言葉通りに機械蛇が出現した。そしてその猛威をふるわんとしたときに羽衣を纏った鬼人が飛び出してきた。


「鬼か……羽衣とはな。カサネの家の者だろうが、剣では無く拳を使うところを見ると剣技は授からなかったらしい」


「なかかなの拳だ、あの図体を今の段階で殴り飛ばせるなら筋が良い」


「さてどうやって居場所を掴むのかな」


蛇を乗り越えた先には【黄金】の姿はない、地下にいるのだがそれを知る術はない。


「んん?あの不格好なカタパルトなに?」


違う視点の映像にはギャルゥとメガの合作のカタパルトが映っていた。


「むりやり【恋人】を変形させてるなあ……ダメだよあれじゃあ美しくない。砲弾だってなにあの銀球ってあれ……あれって人工肢体だよな……うわあ……歪だなあの設計……【恋人】を潤滑油代わりに使ってるのか……それを……撃ち出して……空中で飛散して擬似的に胎体内扱いして異物を検知とか……無駄しかない……けどまあ嫌いじゃないね」


メガの探知によって地下にいること知ったハネが地面を殴る。


「触覚が長い轟来族ならば反響による探索は可能でしょうが……離れ業であることに変わりありませんね」


ハネの手に黒い糸が生み出され、それが目に映らない程の高速で振るわれ大地に傷跡を残す。


「致命傷を確認、回収します」


発光とともにアガペが消える、言葉通りに受け取るならば致命傷を負ったマッドを回収に言ったのだろう。


「えげつないことやるなあいつ、あれじゃあ中のやつズタズタだろ」


「敵に情けをかける理由もないだろう、あれで正しいのだ」


親たちの授業参観はまだまだ続く












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