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はったりは度胸


「(うまく騙されてくれるといいけど)」


言うまでもないが、【恐怖】の出現などはしいていない。グレイスが喋るように口を動かすのに合わせて念動で調整した声でブレスが喋っているに過ぎない。そもそも【恐怖】が出現した時点で校長が動く。それがない時点でこの【恐怖】は狂言である。しかしそんなことは【黄金】のマッドは知らない。


ブレスにとっては勝算のある賭けだった。


『うぐぐ……【恐怖】の相手なんてできないぞ……』


「(いけそうかな)今逃げ帰るなら許してあげても良いのよ?」


『でも……試す価値はある……貴重なサンプルになる……か』


マッドの声に力が戻り始める。ここで向かってこられたらブレスは暴力に飲まれるほかない。それだけは避けねばならない。


「(まずい)はあ……力の差を教えてあげる」


グレイスが大きく手を薙ぐ、それに連動して一機が隣の機体にぶつかって爆発する。


『まさか……空中のものを自由に動かせるのか……!?』


念動でギリギリのところでぶつからせただけであったがその効果は絶大だった。


「(お願い諦めて)さあどうする?」


『くそっ!!割に合わない!!試す前に落とされちゃどうしようもないじゃないか!!』


「(良かった)なら早くお逃げなさい、そうすれば見逃してあげる」


『この借りはきっと返すぞ……』


機械群が見えなくなっていく、おそらく【黄金】の本陣へと戻っていくのだろう。


それを見届けてブレスはへたり込んだ。


「はあ……慣れないことはするもんじゃないなあ」


グレイスがブレスの頭を撫でる。


「お疲れ様」


と言うような慈しみのこもった所作であった。


『なんてなあああああああ!!!騙されると思ったかよお!!!』


「っ!?」


怒号と共に機械群が戻ってくる


『このマッド様がお前みたいな雑魚の嘘に騙されると思って……ん?なんだなんだこの反応は!?』


「聞き捨てなりませんの」


それは荒ぶる風だった、暴風が機械群を押しとどめている。


「随分な物言いですの、私のブレス様に向かって【黄金】風情が侮辱をするとは……万死ですの」


「ララシィ……!?そんなに使ったら体が!?」


ララシイの体は無理な力の行使に悲鳴をあげていた、ところどころが軋み悲鳴を上げている。


身体中が痛むはずだがララシィは笑っていた。


「大丈夫ですの、ブレス様が作った時間が()()()に反撃のチャンスをくださったんですの」


「わたしたち……?」


黒い流星が地を駆ける、その方向は先程機械群が帰ろうとした方向。


【黄金】の本陣と思われる場所である。


『対策をしていないとでも思ったのかよ!!そこは地雷原だぁ!!』


「……飛ぶ」


ハネの体が浮く、轟来族は飛行可能である。


『かかったなあ!!空中で急な方向転換はできないだろお!!』


ボウガンらしき迎撃装置が起動する、たしかにスピードゆえに方向転換は難しい。


「……(さらに上に行けば問題ない)」


美しき黒鶏がハネの体を上空へと持ち上げる

矢は何者の穿つことなく地に刺さる。


『二重三重に対抗策はあるもんなんだよお!!』


轟音とともに立ち上がったのは巨大な機械蛇だった。体の半分ほどが埋まっているところを見るとあらかじめ仕込んでいたらしい。


「シャアアアアアアア!!!!」


『アヒャヒャヒャ!!アジ・ダハーカに喰われなあ!!』


「蛇退治とは、昔話のようでいい気分だ」


蛇の横っ面を殴り飛ばしたのはムケンの拳


『冗談だろ!?アジ・ダハーカを殴り飛ばすだと!?これだから筋肉馬鹿は嫌いなんだ!!』


「行け、鼻っ柱へし折ってやれ。ついでに何本か折れ」


ムケンの額には青筋が浮かぶ、乙女には筋肉馬鹿は禁句だったようだ。


「うん」


ハネは全ての阻みを乗り越えて【黄金】の本陣へと到達した。



そこはもう誰もいなかった。


『ご丁寧にその場所に留まってるわけねえだろうが!!ヒャヒャヒャ!!』


「お願い、メガちゃん」


ハネのつぶやきはマイクによってメガへと届く。


「やるよ」


「なんで私のが砲台なんですかぁ……」


「ちょうどいい大きさになるからさ」


ギャルゥの【恋人】のドームを変形させ即席の砲台を作り上げたのだ。


そこに込める砲弾はメガ自身。具体的には腕一本分の【恋人】である。


「本当にいいんですか?」


「時間が惜しいの」


「はぁい……」


打ち出す力もまたメガの【恋人】だった、カタパルトへと力を伝えて放つ。


寸分たがわずハネへと飛んだ砲弾は上空で弾け銀の雨を降らせた。擬似的に身体の感覚を広げて不自然な異物を見つけ出す。


「ハネ、地下にいるわ」


『探知だと!?』


「分かった、終わらせる」


ハネの拳が握られる。


「はぁっ!!」


一撃で地面にヒビが入る。


『うわわわわ!?やめろやめろやめろ!!』


地面に当てた触覚より振動を検分する、一箇所だけ反響がおかしい場所を割り出した。


「そこか……」


ハネの手に漆黒の糸が出現する。


「ふっ!!」


清々しいほどの力技だった、細く靭い糸が目にも止まらぬ速さで動いた時に何が起こるかは想像に難くない。


網状になった糸は斬撃と化し割り出した場所を中心にして深々と爪痕を残した。


『くっそ……が……おぼえ……てろよ』


捨て台詞を最後にマッドの声がしなくなり機械群もまた駆動を止めた。


突如地下から強い光が発せられる。


「!?」


ハネが膝をつきかけた。


「重い……」


驚くべきことに蟲人の筋力をしてなんとか耐えられる重さである。


「コインの譲渡ですよ、私たち【黄金】はひどく重い枷を嵌められてまして。マッドは動けなかったんです。だからあんな戦い方しかできなかった。それにしても良い動きでした」


「あなたは……」


「私はジュハと言います、早速ですが貴方は危険なので脱落してください」


ジュハの手には本、それがただの本であるはずもなく。


十中八九【恋人】であろう。


「さようなら」


地面から突き出てきた木の根がハネを刺し貫くべく飛び出してくる。


「ここまで……なの」


位置的にハネに追いつける者は存在しない、ムケンの跳躍も一瞬追いつけない。


絶妙なタイミングだった。


「なんですかそれは」


ハネの体にまとわりついた銀の液体が木の根のを食い止めていた。


そしてなにかが飛来する。


人型のそれはぐにゃぐにゃに折れ曲り、普通であれば生きているとは思うまい。しかし軟体動物めいた動きで立ち上がると後から飛んできた頭をキャッチする。


「貴方……機人ですよね?」


「ハネに手は出させない……」


「ああ、ダメですよそんなに怒っては。それでは私には「うるさい」


変形した液体がジュハの胸を貫いていた。


「話は最後まで聞いてくださいね、これは私ではないので効かないんですよ?だから勝てません。大人しく負けてください」


その身体は木製の人形であった。おそらく【恋人】で遠隔操作をしているのだろう。


「それに」


「私も」


「一人じゃないので」


「悪あがきはお勧めしません」


「あきらめましょうよ?」


ボコボコと土から出てくるジュハの分身、同じ顔でにやりと笑う。


「ね?合理的に考えま゛っ」


後頭部から顔面を貫かれた人形が倒れる。


「卑怯な奴だ、正面から来ないのは礼儀知らずのやることだぞ?」


腕を抜きながらムケンが咎めるように言う。自分も後ろから殴っているのだが棚上げは人間の専売特許である。


「ふふ、3人まとめて脱落です」


土から次々と現れる分身は完全に3人を取り囲んだ。


「この程度でいいのか?10倍はもってこい卑怯者」


ムケンの啖呵が響き渡った。


















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