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授業参観の宿命


「明日から一周間お前らの親御さんが授業を見に来るから、醜態を晒すなよ?」


なんの前触れもなくナラツが言い放った言葉は生徒たち衝撃を与えた。


授業参観、それは親が学校での子の成長を見る数少ない機会。などでは決してない。


学堂での授業参観とはすなわち今までに学んだことを総動員して立ち向かう試練と同義である。


なぜそのようなことになっているかというと、ひとえに校長の一言が原因である。


「え?親が子の成長を見たい?じゃあ試験もそのときにやったら合理的だな。それと対策を組まれるのも癪だしそのままの力を見せるために抜き打ちでやろう」


子からすればはた迷惑な話であるが、実際のところ実力を見るにはそれが一番手っ取り早いのも事実である。


「明日からは運動会だからな、早めに寝ておけよ。明日から2日は寝れなくなるからな」


そう言い残してナラツは教室から去った。


「授業参観があるなんて予想外ですの……」


「明日からか……本当に急に始まるのだな」


「失敗したら怒られますかぁ……?」


「……(どうせいつもとやること変わらないでしょ)」


「メガちゃんはどうしますか?」


「うーん、面白そうならいいけどね」


それぞれが不安そうな顔をしているが無理もない。親に情けない姿を見せられるはずがないのだ。


それぞれが生きるために強くあれと言われるのが常識なのだから。


「パパとママは来れないだろうなあ……」


ブレスが悲しげに諦めを込めて呟く


「何言ってますの、学堂の授業参観は世界規模の行事と化してますの。ここからの一週間はお祭りみたいなものですの。いくら忙しくても……」


ここまで言ってララシイは己の失敗に気づいた、1日くらいはどんな境遇の者であろうと来ることができる世界規模の祭りに来られない。それはつまりこの世にいないことを意味している。ブレスは家族に関しては爆団を抱えているのをララシイは既に知っていた。


「いえ、出すぎたことを申しました。許してくださいまし」


すぐに訂正と詫びを入れた、このあたりの嗅覚は貴族としてやっていくのに必要不可欠なものであった。


「(なるほど……ご両親に対する反応の理由は死別、おそらく莫大な財産を遺して亡くなったのでしょう。つまりブレス様がファブニール家に婿入りすることになんの問題もないことが確定しましたの)」


それはそれとして心の中でガッツポーズをするララシイ。また一歩自分がブレスを手に入れる障害が減ったと思っているのである。そんなことは全くないのだが、知らぬ方が良いこともあるのだ。


そしてこのやり取りを見ていた者も同じことを思っていた。


つまりはブレスには両親がいない、もしくはもうすでに亡くなってしまっているという誤解が広まってしまったのだ。そして同情は庇護欲をそそり、どうにかしてあげたいという身勝手な想いを加速させる。


そうは言っても初等部の子供である、せいぜいが今回の授業参観で機会があれば見せ場を作ってあげようという程度のものでしかない。


近しい者を除いては


「そうか……辛かったろうなあ……寂しかったろうなあ……」


涙ぐむムケン


「……(私はこれからも一緒にいるよ)」


優しい眼差しを向けるカーム


「そう……だったんですか」


意外そうに見るハネ


「なるほどねえ……」


何か納得した風なメガ


「私がお姉さんですよブレス君、さあ抱きしめてあげます」


いきなり姉を自称しながらハグを迫るギャルゥなど少々以上に暴走気味な各人は油断しきっていた。まさかこのタイミングでくるはずがないだろうと。


だが、酷く不機嫌な顔をしながら出現したグレイスを見た瞬間に全員が身を固めた。


首への衝撃に備えたのである。


対策をされたところへ正直に仕掛ける者はいない、ましてや何度か防がれているのだ。グレイスの第二の刃が抜き放たれる。


狙いは一点。


びちっ!!


鈍い音が響く、ついで声にならぬ声


『〜〜〜〜〜!!』


足先、それも末端の末端。足の小指から登ってくる激痛に耐える。これは指先を大きめの石に勢いよくぶつけたのに相当する痛みであった。


本当に小指を弾いたわけではない、痛みを司る部分を刺激したのである。音を立てたのはダメージのイメージをより意識させるための演出であった。


「あれ?大丈夫?」


それと知らぬブレスが声をかけるが当然受け応えなどできるはずもない。


しかし意地と矜恃でもって痛みに耐える。これに屈することはグレイスに屈することと同義でありそれを少女たちは許容しなかった。


それを少し上からグレイスは見下す。


「痛いでしょう?のたうちまわってごらんなさい」


そう言うかのような挑発的な表情であった。


「グレイス……何かしたの?」


くるりとブレスが振り向くのに合わせて表情を豹変させ何も知らないというジェスチャーをする。


なんとも白々しいものだが、知らぬブレスにはそれが誤魔化しとは気づけない。


「そういえば、みんなのパパとママは来るんだよね?どんな人なの?」


なんとか耐えきって声を発したのはムケンだった。苦痛に耐えることも武の修行であるゆえに痛みには慣れていたためだ。


「わ……私の母上と父上は……和華でも指折りの武人なのだ。特に母上は重剣(かさねのつるぎ)を極めている……私の憧れだ」


遠くを見つめる瞳にはたしかに彼方にそびえる背中が写っていた。


「パパは?」


「…父上は……その……」


歯切れの悪い答え、言いたくないのであろうことは瞬時に察せられる。


「言いにくいなら無理しなくてもいいよ?」


「すまない、なんというか言葉にしにくい人なのだ。見たらすぐ分かるのだが……」


次に復活したのはララシイ、矜恃という部分ではダントツである。


「私の両親は……多分所用で来れませんが、お爺様がいらっしゃいますの。お爺様は偉大なドラゴニュートでファブニールの名に恥じない功績を打ち立てていますの、きっとブレス様のことを気にいると思います」


このお爺様が現在没落中のファブニール家の最高権力者である、ブレスが正式にお爺様に認められることで事実上の婚約が決まると言っても過言ではない。


「村のみんなは……私のことを嫌いだから……多分来ないです……お姉ちゃんは来てくれるかもしれないけど」


「お姉ちゃんなんていたの?」


「はい……とっても強くて可愛くて綺麗な自慢のお姉ちゃんです。でも怖がられてるみたいなのが不思議で……コゥクっていう名前が有名になりすぎたとかで」


コゥクという名前によって一気に場がざわつく。


「コゥクって言いましたの!?」


「……お姉ちゃんの名前……です」


「漆黒のコゥクの妹でしたの……どうりで轟来族にしてもデタラメなはずですの……」


「そんなに有名なの?」


「この世界の最強は【貴不死人】ですの。でもそれ以外にもそれに準ずる強さを持つと言われる存在がいくつかありますの。漆黒はその内の一つですの」


「へぇ……すごいなあ……会ってみたいなあ!!」


「ダメですの!!暴れても【貴不死人】にしか止められないってことですの、校長がいるにしても漆黒は目に映るかも怪しい速さで動くんですの。ブレス様に何かあったらファブニール家はどうなりますの!!」


すごい剣幕で言うがブレスにはファブニール家云々がなんの関係があるかわからない。


「分かりましたの!!」


だが、あまりに迫力があるので黙って頷くしかできなかった。








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