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薬と翼


ブレスが起床する、この時大抵は同室のカームがすでに起きていてブレスを見ているのがいつもの光景だ。


しかしこの日は違った。


「あれ?」


カームがまだ起きていないのだ。


「どうしたんだろう」


不審に思いカームのベッドの方へと近づくと、そこには上気した顔のカームが息苦しそうにしていた。


「大丈夫!?」


思わず大声で叫ぶ、一目で風邪と分かるがブレスにとって誰かが病気になるのは初めての経験だった。


「……ケホッ(ただの風邪だから……)」


「風邪……なの?」


ブレスの脳裏に様々な病気の名前と症状がよぎる、しかし何の致命的な病気にも該当しない。


正真正銘のただの風邪だった。


「……(今日はおとなしく寝てるよ)」


「そう……先生には伝えておくね」


「……(あ、でも一人は寂しいかなあ……なんて)」


上目遣いでちらちらとブレスを見た。


刹那


ブレスの背後にグレイスが出現する。その表情は友人の鬼人よりも鬼のようだった、悪鬼というのが相応だろう。加えて射殺すような眼光もセットであった。


「いい加減にしないと縊り殺すぞ」


暗にそう伝えてきているのだ、事実カームの首筋には指がかかっているような圧迫感がある。


「……(冗談だよ、私はまた眠るから行ってらっしゃい)」


「うん、行ってくるよ」


ブレスが部屋を後にする。グレイスは最後までカームから目線をそらさなかった。


しばらくして首の圧迫がなくなる。


「……(やっぱりグレイスをなんとかしないと駄目なのかな)」


そんなことを考えながらカームは目を閉じた。


※※※


「それじゃあ今日は簡単な傷薬を作っていくぞ」


特別教室の一つである薬学室での授業が始まる。


「の前に、全員いるか?見た限りだとカームがいないみたいだが?」


「今日は風邪で休みです」


「なにぃ!?まあエルフだしな薬はお手のもんだろ……じゃあいいや。ブレスはそこで捕獲されてるフリュウと組め」


なぜかフリュウは網に捉えられている、しかも激しめに抵抗したようで複雑に絡んでしまっておりおよそ自力では抜け出せない様相だった。


「……何があったの?」


「あはは、実は夜間飛行してたら警備に引っかかって投網の餌食だよ、しかも紛らわしいことした罰だって今まで放置されたんだ」


今の発言には違和感がある。


そもそも夜間飛行ができる種族というのが限られている、音波飛行をする蝙蝠系か夜目が利く猛禽系の獣人ならば話はわかるがフリュウはそうではない。


「夜間飛行……できるの?蝙蝠でも猛禽でもないのに?」


「え?詳しいねブレス君……」


フリュウの雰囲気が少し変わる、戦闘も辞さないような覚悟が見え始めた。


心なしか翼が光をまとう。


「すごいね!!」


「へ?」


「何でそんなことができるのか分からないけどすごいよそれは、きっと何か特別なんだね」


「えっと……」


突然の賞賛に戸惑うフリュウ、しかしそれもすぐになくなった。一気に表情が明るくなる。


「その通りだよブレス君……実は特別な生まれでね……でもこれは秘密なんだ……あんまり言いふらされると困るんだけど……」


もったいぶるのが実に上手い、絶妙な溜めの後


「二人だけの秘密にしてもらえないかな?」


「もちろん!!」


即答であった、その満面の笑みは自分以外の特別を見つけたことによる安堵が多分に含まれている。


「ありがとう、安心したよ」


「それじゃあ、網を外すね」


グレイスが手をかざす、複雑に絡み合っていたはずの網はたちどころに解けていった。


「準備はいいな?そんじゃあ傷薬を作っていくぞ」


フリュウの解放を見計らってナラツが草と白い固形物を取り出した。見る限りではギザギザとした濃い緑の葉と何かの脂のようである。


「これはモウギっつう草で傷が腐るのを防いでくれる、んでこっちが適当な脂だ。できれば熊種の脂がいいがそんな選り好みをしていられねえときの方が多いから何でもいい」


それらを目の前の鉢へと放り込む


「あとは混ぜる」


すりこぎで草と脂を混ぜていく、独特の香りが教室に広がっていった。


「塗り薬は基本的には薬効があるもんとそれを溶かし込む触媒で作る、だからまあ水とかでやってもいいがそうすると患部に止まりにくいんだなこれが」


緑色の粘り気のある物体ができていく


「これをやるときに気をつけるのは焦らないことだ。変に熱を加えたりすると変性しちまうし雑にやると混ざらなくて効果にムラが出るんだ」


脇に置いてあった水を少しずつ加えながら混ぜ続けていく


「ここで薬の硬さが変わる、長期間保存あるなら少なめ、すぐ使うもしくは大量に使うなら多めでいい」


そうして完成した塗り薬は滑らかな緑色のクリームのようであった。一目で分かる上質なものである。


「これで完成だ。わかったか?」


生徒一同口を開けてポカンとしている、ちゃんとした説明をするナラツがなど始めて見たからだ。


「なんだお前ら、早く始めろ」


ここでようやく生徒の意識が戻る、衝撃を何とか飲み込みつつ薬作りに取り掛かった。


「塗り薬か……自分で作るなんて思いもしなかったな」


どこか遠いところを見ながらフリュウが呟いた。


「作れた方がいいよ、何があるか分からないからね」


「それもそうだね、()()は何が致命傷になるか分からないし」


そう言って鉢に草と脂を入れる。


「あとは混ぜればいいんだね」


「うん」


すりこぎで草と脂を混ぜ合わせていく


「あれ?うまくいかない……?」


手順は単純ゆえに油断していたが、実はこの混ぜ合わせる工程は基本にして奥義とも言われるほどの難易度を誇る。


まずこのモウギという草は繊維の方向が葉ごとに違うため入れる際に方向を合わせなければならない、そして脂だがこれもただ入れればいいというわけではないのだ。適切な温度を保つために一定の速度ですりこぎを動かす必要がある。


そこら辺の説明を一切せずに一見簡単そうに作り上げるあたりナラツの性格の悪さがにじみ出ている


「葉も脂も全然混ざらない……どうしてだろう」


ちなみにその後ろでは


「できたよメガちゃん」


「すりこぎ焦げてない?」


腕力で解決するもの


「そうか、線が違うのか。刃筋が立たなければ斬れないのは自明だな」


気づくもの


「風で混ぜてしまえばいいですの」


「道具を使え」


「なっ!?」


咎められるもの


「く……くさいぃ……」


脱落するものなど様々であった。


「あれ?できない?」


「先生と同じようにしているはずなんだけど」


「……ちょっと貸してもらえる?」


フリュウがすりこぎを受け取ると目を閉じた。そしてうっすらと翼が光る。


「あー、なるほどね」


そう言うと葉の向きを揃えて同じ速さで混ぜ合わせ始めた。すると先ほどの手こずりが嘘のように混ざり始める


「やっぱり説明不足だよあの先生、葉の向きとか速度とかなんも言ってないじゃん」


視線を感じてフリュウが横を見ると尊敬の眼差しを向けるブレスがいた。


「えっと……?」


「あっという間に……本当にすごいよ!!」


「いや……その……ほら……特別だからさ」


なぜか後ろめたそうな顔で謙遜するフリュウ、まるで自分の手柄ではないような感じである。


「あ、できたよ」


見ると荒いながらもクリーム状になっていた。


「もしかして薬作るの得意なの?」


「まあ……割と?」


歯切れの悪い回答であった。


「それじゃあ風邪に効く薬の作り方って分かる?」


「……本当の意味でそれ作れたらノーベル賞ものなんだけどなあ……」


「のうべる……え?」


「なんでもないよこっちの話、風邪薬か……作れないこともないけど多分飲む必要ないと思う。明日には治ると思うし」


「あ、それもそうだね……」










































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