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遊びの時間は終わり


「できた!」


威勢のいい声を上げてブレスが掲げたのは5つのコマであった。


それらは型を使って作られたかの如く均一である。


「こんな短時間で……しかし本当に回るかが重要です」


そのうちの一つを手にとって紐を巻く、滑らかな表面にしっかり巻きつけた


「あ、ちょっとまって。回すならここにお願い」


ゴトリと置かれたのは端材を組み合わせて作られた盤だった、内側が凹んでいる以外は至って普通の代物である。


「これを使った方が面白くなるかと思って」


「……分かりました、そこへ放ちましょう」


ホウが息を吸い込む。


「ふっ!」


勢いよく放たれたコマは盤の中央へと降りると高速で回り始めた。


「やった、ちゃんと回った!」


「なかなか良いですね、奇をてらったところがまるでない見た目と同じでひどく扱いやすいです」


「えへへ、そうでしょー。使いやすくなるように作ったんだ」


少しだけ顔を赤らめて照れるブレスの姿は可愛らしく、同年代であるにも関わらず庇護欲をかき立てた。


『守りたいこの笑顔』


これが周りにいた者たちの総意であった。しかし例外が一つ。


「ん?どうしたのグレイス?」


後ろから抱きかかえるように重なるグレイスが睨みをきかせ、その後ににやりと笑う。


「お前らにはこんなことできないだろう?これの一番近くは私のものだ」


そう言っているような表情である。


そこはかとなくトゲのある雰囲気になりかけたがそれを一気に吹き飛ばす轟音が響いた。


「なにっ!?」


一斉に音の方を見ると遠くの方でドクロ型の煙がもっくもくと上がっている。


「あ、終わりか」


ハジメが雲を見て呟いた。


「終わり?」


「ああ、あれは最後のトラップで毎年恒例の髑髏爆弾(スカル)だね。あれが発動したってことは宝探しをしていた奴らが全滅したことを意味するんだよ」


「そうなんだ、せっかく探しに言ったのに残念だね」


「欲にかられると良いことがないっていう教訓も兼ねてるから仕方ないよ」


爆発のあった方向から何か光るものが飛び出してきた。


それを追うように黒い流星のような何かと白い流星のような何かも飛び出す。そこから一拍遅れて巨大な機械が追いかけていた。


「ハネとフリュウ君かな?」


「あんなもん作るのはマッドしかいないな、また説教部屋行きだなアレは」


「それよりもあれこっちに向かってきてない?」


「来てるね、こういう時どうするか知ってるかい」


ブレスとハジメが顔を合わせる


「「逃げる」」


光に背を向けて一目散に駆け出した。


「……(あんなのに巻き込まれたら一たまりもない)」


「全くその通りだ、退却もまた立派な戦術だからな」


「騒々しい人たちです、ハジメ君との時間を邪魔するなんて……」


それに続いてムケン、カーム、ホウも駆け出した。


しばらくして盛大な墜落音が響き渡った。


追っていた者と追われていたものが地面に激突したのであろう。


「うっわぁ、すごい音。大丈夫かな」


「ここで人死にがでたことはないはずだ、ブレスも知ってるだろう。あの保健室の天使を」


ブレスの脳内に初対面の強烈な印象が蘇った。


「ああ……あの人、あの人ってすごいの?」


「すごいもなにも、【貴不死人】の側近だ。あの人が見て治らない奴は寿命だと言われるくらいなんだ」


「ええ!?あんななのに?」


思い出すのは美少女天使と名乗ったあの瞬間


「あんなでも能力は超一級だ、だからまあ大丈夫だと思う」


「そっか……なら良いんだけど。ん?」


ブレスの耳がひゅるひゅるという音を捉えた、軽いものが飛んでくる音だ。


ブレスの手の上に何かが乗っかった。


「なにこれ?」


見るとそれは金色の指輪だった、相当古いものらしく所々欠けている。だが、それがただの指輪ではないことはその存在感が示していた。


「……支配者の指輪(ルーラーリング)


「るーらーりんぐ?」


「それがあればどんなことでも思いのままだっていうおとぎ話の宝物さ、まさかそれが……?」


「え?これはそんなものじゃないよ?」


「しかし……」


「えいっ」


ブレスがリングを割った。


「は?」


あまりの光景にハジメの脳が停止する。


ぽむっ!


軽い爆発とともに白い煙が上がったと思うとひらひらと一枚の紙が落ちてきた。


「ほら」


そこには大きく「はずれ」と書いてあった。あまりにもシュールな光景である。


「ぷっ、はずれって……あははは!!」


「ね?そんな大層なものじゃないでしょ?あははははは!!」


おかしくて笑い転げる二人


その後ろには宝を追っていたハネとフリュウ、マッドと機械に便乗していた【黄金】組の獣人のレオーマとエルフのジュハがいたがリングから「はずれ」の紙が出てきたところを目撃したことで固まっていた。


「そんなあ……」


「元から宝なんてないパターンかなこれは」


「とんだ無駄足だった……でもデータは取れたね……けひっ」


「うーん、よくわかんないけど楽しかった!」


「……やはり校長の後継には近道などないみたいですね」


偽物の指輪を捨てて顔を見合わせる


「それにしてもどうしてこ偽物のだと分かったんだい?見た目以外に判断するところはなかったように思うけど」


「それは秘密だよ、その方が面白いからね」


ブレスは悪戯っぽく笑う、それだけで破壊力は爆発的に増す。慣れるとか慣れないとかそういう次元の話ではない、常に相手好みの顔になるというのは相手の最高であり続けるということなのだ、少しのきっかけでその効果は炸裂する。


「そう……か(待て待て待て、こいつは男だ。どんなに可愛いくても男なんだ)」


恐るべき自制心で表情を固めながら内心で必死の抵抗をするハジメ。


「どうしたの?」


ブレスが近づく。


同性ゆえの距離の近さは今は毒でしかなかった。


「なんでもない……から(近い近い!?なんなんだこれ、さっきまで全くそんな風に思わなかったのに)」


「そう?」


ブレスが離れる。ハジメが深く息を吐いた。


「ブレス、君は将来的に顔を隠して生きた方がいいかもしれない」


「どうして……?」


「君の美貌は人を惑わす類のそれだ、いつかそれで大変なことになる気がする」


これは心からの忠告だった、事実ブレスは【貴不死人】の一角を一度籠絡しているのだ。相手に合わせて美しくなる【恋人】の性質は魅了の呪いとして作用する可能性があった。


「びぼう?まさかそんなわけないよ」


そして本人の無自覚さがそれに拍車をかける、無防備であることは時に最大の効果を発揮する。こと庇護されることに関してはなおさらである。これは【貴不死人】という親を持ったがゆえの美的感覚のズレだった。


「いや、これは本気だ。心当たりがないかもしれないけど気をつけた方がいい。傾国の魔性にはなりたくないだろう」


どこまでも真剣なハジメの忠告にブレスはこれが冗談の類ではないことを理解する。


「本当……なんだね」


「友達になってから浅い俺が言うことを信じてもらえるか分からないけど、本心からの警告さ」


「分かった、気をつけるよ」


爆発に遅れること約3分、ここで終了を告げる鐘が鳴り響く。


「時間だね……」


「ああ……楽しかったよ。それじゃあまた」


それぞれが自分の部屋へと戻っていく。


「はーじーめーくーん」


「ど、どうした?」


「どんな時も私はハジメ君の味方ですから」


「ありがとう……ってえ!?」


ホウの腕がハジメの脇腹をつねっていた。


「浮気は要相談ですけどね」


「そんなことしない……たぶん」


「……ハジメ君って衆道嗜んでましたっけ?」


「はぁ!?そんなわけないだろ!!」


「だってブレス君見て顔を赤らめてましたけど」


「不可抗力だ!!」


ホウとハジメの夫婦漫才はしばらく続いた。


「仮面でも作ろうかなあ」


「え!?どうしてそんなことを!?」


「……!?(それは駄目、世界の損失だよ!?)」


ブレスの仮面製作は友人とグレイスの必死の説得により阻止された。





















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