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遊びの時間は宝探し2


「ねえ、エルフの遊びをおしえて」


ブレスが目を輝かせて聞く、同年代の子供と遊ぶなどという経験は今までしたことがなかったのだ。


「……(エルフはこうやって遊ぶ)」


カームがおもむろに歩き始め一本の木の前で立ち止まった。


スルスルと登ったと思うと手招きをする。


「……(ムケン、登ってきて)」


「ご指名か、いいだろう。よっと……」


ムケンが木の幹に手をかけた瞬間にカームの目が光った。


「……(かかったな)」


いつのまにか手に握りこんでいた木ノ実がムケンの手にぶつけられる。


ちょうど出っ張りをつかもうとしていた手が打たれたことで反射的に身がすくむ。


「なにっ!?」


登る途中でそんなことをされてはもちろん落ちるしかない。


悪い笑顔でムケンを見下ろしていた。


「はかったな……!!」


「……(これがエルフの遊び栄光の木、登れる者はただ一人)」


「へー、面白いなあ!!」


「ブレス……さっきからあのエルフの子一言も喋ってないけど……?」


「なにかのサインで会話しているようでもないですし……」


困惑しきった顔のハジメとホウ。無理もない、木に登ったカームは喋らず手招きをしたあとに木ノ実狙撃を行なってムケンを撃墜したのだ。


わけがわからないのも当然である。


「ああそっか、カームは喋らないけど顔を見てればなんとなく言いたいことが分かるよ?」


「そんなバカな……」


「読心術でしょうか……?」


「要するに慣れだ、私とブレスは精度が高いが慣れればまあ半分以上わかるようになるだろうさ」


ムケンからの援護射撃で、なんとかハジメとホウも納得したようだ。納得というか飲み込んだという方が正しいかもしれないが。


「あの木に登れるのは一人だけで、登った人は他の人の妨害をするみたいだよ、それで最終的に登ってた人が勝ちっていう遊びだね」


「はぁ……なるほど。拠点防衛の訓練も兼ねているのか」


「どの程度までなら許されるんでしょうね」


「えっとね、木を傷つけることと故意に怪我をさせるのはダメだって」


流石に【黄金】瞬時に勝ち筋を考え始めた。


それを見ながらもカームは不敵に笑っている。


「僕も行くぞ」


「……(ブレス君でも容赦しないからね)」


「望むところだよ!!」


勇んで木に挑むブレス。


「やー!!」


幹に足をかけようとした瞬間に違和感を感じる。


足と幹の間になにかが挟まっている。


すでに放たれた木ノ実だった。


「うっそ……!?」


間にある木ノ実が回転し足が幹を捉えることを許さない。


バランスを崩しかけたブレスに追撃が迫る。


「……(おしまい)」


手を払われあえなくブレスは落下した。一瞬より強く幹を掴むことを考えたがそれはルールに違反する。


「あー、ダメだった……」


「あいつの指弾相当練度が高いな……厄介だ」


悔しがる二人を後ろにホウが動き出した。


「登るのを阻止するのならば上からいきましょう」


半透明の羽が動き出す、体は俄かに浮き始めた。


「飛んではいけないとは言っていませんよね?」


勝ち誇った顔で木の上へと飛び上がった。


しかしそれは林冠でカームの姿を見失うということでもある。


「……(上空への対策をしていないと思ったのが運のつき)」


枝の間を通り抜けて黒い塊がホウへと飛びかかった。


「なんですっ!?」


ぶつかられたホウはバランスを崩して地面へと退避する。


「にわ……とり?」


ぶつかってきたものの正体は美しい漆黒の羽と長い尾羽を持つ鶏であった。


「あれがカームの……綺麗だ」


「何度見ても鶏とは思えないなあれは」


「【恋人】を使っても良いんですか!?」


「ダメとは言われてない、でもホウの人形じゃ木を切り倒してしまうと思うけど」


「それはそうですが……ハジメ君仇をお願いします」


「分かった」


万を辞して動くハジメ、これまでの一部始終を見た【黄金】の鬼人が導き出した戦略は


「先手必勝」


カームの排除であった。


落ちていた木ノ実をカームへの牽制としながらゆっくりと登っていく、


「ここだ」


幹を掌で押す、衝撃は幹を伝って枝の上にいるカームへと伝わった


「っ!?(体が浮いた!?)」


「遠当てか、木を使ってやるとはなかなかだな」


ムケンの解説を聞きつつも予想外の出来事にカームの体は対応しきれていない。


「羽のない君は落ちるしかない」


「……(羽ならある)」


カームは落ちなかった、黒鶏がその翼でカームを運んでいたのだ。


「なるほど……でも遅い」


既にハジメは先ほどまでカームがいた枝の上にいた。あとは戻ってくるカームを叩き落せば勝利である。


「……(これは使いたくなかった)」


カームが両手で耳を押さえる。


「観念した……わけじゃなさそうだね」


「……!!(だって、()()()()()は私だから)」


なにかを察知したハジメが動き始めるより先にそれは起こった。


「コケエエエエエエエエエエ!!!!!」


爆音である。


物理的に押されるほどの音量がハジメに叩きつけられた。


「くっ!?」


とっさに耳を押さえるが既に体のバランスを司る部位には不具合が起こっていた。


立っているのか倒れているのかも分からない、そのなかで枝の上に立ち続けられるだろうか。加えて音圧で押されているという最悪の条件。これではまとも立っているだけでも偉業である。


「まだだ……」


立っているどころか、しっかりとカームを見据えていた。


「……(すごいね。でももう終わり)」


「落ちろっ!!」


ハジメの手がカームに届く


前に


ハジメの足が滑った。


「は?」


「……(それ、潰すとヌルヌルして滑るんだよね)」


枝上に並べられた木ノ実が軒並み割れて中から粘性のある液体が溢れていた。


ハジメの足を滑らせたものはまさにそれだった。


「完敗だ……」


満足そうな顔をしながらハジメは落ちていった。


「……!!(私が栄光の木の勝者だ!!)」


渾身のドヤ顔である。


敗者である地上の只人はそれを見ることしかできない。


今この場において王はカームだった。


「あの鶏鳴くのか……しかもあんな轟音で。最高の目覚ましになりそうだな」


「カームすごいなあ」


カームを見上げるながら感想を呟く。


するとカームの体がぐらりと揺れる。


「危ない!!」


「一番近くであの音を聞いてたからな、無事なわけがないか」


そのままカームが枝から落ちる、ちょうどブレスの上になるように。


「グレイス!!手伝って!!」


落下の衝撃を緩和するために上向きの力を加える。


「よっと……」


高さの割にはふんわりとしたキャッチでカームはブレスの腕に収まった。


「大丈夫?」


「……(ちょっとだけこのままで)」


「うん、分かった」


ブレスに見えぬようにガッツポーズをしていたのをムケンはしっかりと見ていた。


そしてその後ろでは


「ハジメ君……仇は?」


「ごめん、あっちの方が一枚上手だった」


「でも分かったって言ったよね?」


「う……言いました」


「約束破りはどうするんですか?」


「……相手の言うことを一つ聞く」


「分かっていれば良いんです、ふふふ……これで3つ目」


「ひっかけられた……」


「何か言いましたかハジメ君?」


「何にも」


【黄金】二人の関係性が垣間見えるやり取りであった。














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