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遊びの時間は宝探し


学堂での授業は多岐に渡る、その中でも特異なものがある。


「今から遊べ、種類は問わない。ひたすら遊んでいい、全力で遊べるのなんざ今だけだからな。場所は学堂の全域だ」


遊びの授業である。


学堂全てを使って行われる遊びの時間はある種のイベントだった。そして、この遊びの時間に区別はない。【黄金】だろうが関係なしだ。


遊べるうちに遊べ、そのうちに遊べたことの貴重さが分かるようになるとは校長の言葉である。


「その間の出来事に関しては逐一見ている、目に余るようだと授業になるからな。特に機人共、人体実験のチャンスだとか言ってんじゃねえ」


初等部が勢揃いした生徒たちが思い思いに動き始めた。


「ちなみに校長はこの期間だけ出現するお宝を学堂に設置した。それを見つければなんでも願いが叶うらしいぞ?」


動きがピタリと止まる。


世界でも指折りの力を持つ【貴不死人】が隠した宝、その価値は初等部であってもはっきりと分かる。


「そんじゃあ、遊びの時間だ」


どこからか取り出した筒のような物から破裂音が響く、それと同時に一部の生徒が駆け出した。


「わぁ……すごい勢い」


それを眺めてブレスがこぼす。


「……(行かなくていいの?)」


「【貴不死人】が隠したものだ、走って見つかるようなものじゃないだろう」


そう言いながらもムケンの足はせわしなく動いている。


「へぇ、君は走っていかないんだね」


声をかけてきたのは【黄金】の鬼人ハジメ。入学時から現在に至るまででその名は既に学堂に轟いていた。


「遊びの時間なのに遊ばないのはどうかと思ったんだ」


「願いが叶うみたいだけど、叶えたい願いはないのかい?」


「もうここにいるだけで願いが叶ってるからね、別に今叶えたいことはないんだ」


「へぇ……」


ハジメの目が細められる。手には刀が握られていた。


「君は随分と面白いことを言うね、斬りたくなる」


ハジメの手がブレる、抜刀の構えであった。


だが、その一閃は放たれない。


「ダメだよ、せっかくの遊びの時間なのに。授業になっちゃうよ」


柄頭にブレスの手が置かれていた、これでは抜き放つことができない。


先に動いたのはハジメのはずだったはずなのにである。


「ふ……!」


刀を離すと同時に裏拳がブレスを襲う。それはブレスに絡め取られそらされた。その際にブレスの手を見たハジメの目が開かれる


「ハジメとやら、やめておけ。ブレスの守りの武は頭一つ抜けている」


誇らしげなムケンの後ろでナイフを投げようとしたカームが抑えられていた。


「……!!(眉間に埋め込んでやる!!)」


「こらこら、せっかくブレスが止めたんだ。お前が台無しにしてどうする」


それでも殺気だけは猛烈に飛ばしていた。


「ダメですよ、それを投げていたら私も動かねばなりませんから」


ハジメの後ろに降り立ったのは蜂の蟲人のホウであった。それに一瞬遅れて鎧人形が大太刀を担いで降ってきた。


緊張が走る。


「ねえ君、名前は?」


「ブレスだよ」


「そう、俺はハジメだ。一つお願いがあるんだけど」


ハジメがにっこりと笑った、今までの剣呑さは微塵もない。


「俺と友達になってくれないかい」


手を差し出す。


「うん、良いよ」


ブレスもまたにっこりと笑って応えた。


二人の手は大きさの違いはあれどよく似ていた、手のひらには豆ができ皮が厚くなっている。


鍛錬の末に出来上がる手である、それを二人はよく理解していた。


「何がどうなったんだ……」


「……(男の友情は分からない……)」


「……なにがなにやら」


蚊帳の外にいる者たちはひたすらに困惑していた。


「そろそろかな……」


爆発音が響く。


方向は様々だが共通しているのは宝を探しに行った者たちの走っていった方向であるということである。


「実は遊びの時間の宝のことは知っていたんだ、そして真っ先に動いた奴らが罠にかかることも知っていた。ここからが本番なんだ」


そこかしこで音がする。次々と宝探しから脱落しているのだろう。


ですわーとかですのーとか言っているドラゴニュートの叫び声が聞こえたがブレスには聞こえていなかった。


「さあ俺と宝探しで遊ぼう、先に見つけた方が勝ちだ。受けてくれるだろう?」


「嫌だよ」


「君ならそう言ってくれると……ん?」


「じゃあ僕はこれで、エルフの遊びとか鬼人の遊びとか教えてもらわないといけないから」


「待って待ってあの流れで断るの!?」


「別に叶えたい願いはないから」


「ちょっと考えてみようか、君はそうかもしれないでも仲間はどうだろう」


口調が崩れ始めている、それほどの動揺だったのだ。


「カームとムケンは何か叶えたいことあるの?」


「……(ブレス君がいれば別に)」


「ブレスと一緒なら特にはないな」


「嘘だろ……!?」


信じられないといった顔である。


「ぷっ……はは……まさかここまで眼中にないとは……もうなんかどうでもよくなってきちゃったな」


遠い目をしながら笑う。


「それなら普通に遊ぼうって言ったら仲間に入れてくれるかい」


どこか吹っ切れた顔で尋ねる。


「もちろん!!」


輝くような笑顔だった。本当に宝探しには興味がないようである。


「ホウ、そういう訳で宝探しは無しだ。久しぶりに遊ぼうか」


「ハジメ君がそれでいいなら喜んで」


顔はすましているが羽がブンブンと動いている。羽も口ほどにものを言うらしい。


「でもハジメ君以外女性だとやりにくいのでは?」


「そんなこと気にしないよ、俺とまともにやりあえそうな奴しかいない」


「僕は男だよ?」


誤解を解くべくブレスが言うが取り合わない。


「そんなはずはない。そんな華奢で可憐な男がいるはずがないだろう」


「ええ、そんな可愛らしいお顔ですもの」


「いやいやブレスは男だ……よな?なんだか不安になってきた」


援護しようとしたムケンもまた見れば見るほどブレスの性別が断言できなくなっていく。


「……(ブレス君はブレス君って言う性別だから)」


割り切った顔をしているのはカーム。


「その……確認しても?」


ムケンの手がわきわきと動き始める。


「え……?何をする気?」


「なにって……そりゃあ男女の確認っていったら……」


言い始めてから顔を真っ赤にするムケン。ここで恥ずかしがるあたりが親の意向が見て取れる。


「埒があきませんね、では失礼します」


「ひゃんっ!?」


しびれを切らしたホウがブレスの胸を触る。


「へえ、なかなか……」


指が沈み込む柔らかな皮膚、しかしその奥にあるのは脂肪ではなく柔軟かつしなやかな筋肉であった。


ホウの手はそれを余すことなく堪能する。


「素晴らしい体をお持ちですね、いつまでも触っていたいくらい。しかし膨らむ前と言われればそんな気もしますし胸板と言われればそうとしか思えないような……不思議な感触です」


「あの…そろそろ手を……」


「ああ、失礼いたしました」


すっとホウが離れる。


「うーん、難しいですね。でも本人が男だとおっしゃってますしそれでいいんじゃないですか?」


「僕はもしかして触られ損だったのでは……」


「いえいえ、良いものを触らせていただきました。これはお礼です」


胸元から小瓶が取り出される。


「家の家業で作っている蜂蜜です、少しですが極上ですのでどうぞご賞味ください」


「やった!ありがとう!!」


一瞬で笑顔へと変じた。


「(ちょろいですね)」


「(うわー、ちょろすぎないかいブレス)」


【黄金】の二人からのブレスの評価が底知れない奴から、底は知れないけどちょろい奴に変わった。




























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