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料理場は戦場 5

ブレスの刺身


カームの蒸し肉


ムケンの煮込み


ララシィのロースト


メガのキューブ


ギャルゥの焼肉


ハネの生肉


それぞれの料理が揃った。


今から始まるのは試食とは名ばかりの格付けの時間である。そこはかとなく緊張感が漂い始める。まずは誰のものから食べるのか、それが問題である。


だがブレスはそんなことを気にしない。


「じゃあ僕のから食べてみて、美味しいよ?」


ずずいっとブレスが差し出したのは刺身、綺麗に切りそろえてあるがきっちり生肉である。


当然肉を加熱するのが常識な者から見たら自殺行為にも等しい。


「……(ブレス君の……でも生……でもでも

ブレス君の……でもでもでも生かあ……)」


「魚ならともかく獣か……未知だな……」


「んんっ(生なんて予想外ですの!?)」


エルフのカーム、鬼人のムケン、ドラゴニュートのララシィの手は伸びない。


「へー、面白いわね」


「もらいます」


機人メガと獣人ギャルゥはためらいなく口に運ぶ。


「負けていられませんの……はむ」


並々ならぬ気迫を総動員してララシィもまた口に運んだ。


「うん、こんな食べ方もありなのね」


「はぁ……やっぱり生もいいなぁ」


概ね良い反応の二人に対して


「む、ぐぐぎ……」


必死で飲み込もうとしているララシィ。やはりこれまでの常識というものは簡単に払拭できるものではない。


「ごくん……やりましたの……!」


なんとか飲み込んだが、その様子は明らかに美味しそうではない。


「無理しなくてもいいのに」


心配したブレスの言葉に大慌てで弁解する。ちなみにムケンとカームはやっぱり無理と手で×を作っていた。


「むむむ、無理なんてしてませんわ!!」


顔は青いままでそう言うが説得力はなかった。


「じゃあ残りはハネさんにあげる、僕は途中でいっぱい食べたし慣れてない人が食べると危ないかもしれないしね」


「……え?」


いきなり名を呼ばれたハネに刺身の皿が渡される。


「じゅるる……」


それをすごく物欲しそうな目で見つめるギャルゥ。


「ギャルゥさんも……その……一緒にどうですか?」


「いいの!?やったぁ!!」


飛び跳ねるギャルゥ、内臓を食べ損ねた反動は思ったより大きかったようである。


あっという間に刺身が消えた、そこで火がついたギャルゥがハネの生肉まで手を出し始めたが誰も咎めなかった、むしろ約三名は胸をなでおろしてさえいた。


「気をとりなおして次は私ですの」


今度は先ほどとは打って変わってじっくりと火を通して血のソースをかけた一品である。


特に問題もなく全員が口に運ぶ。なおメガはもう食べているのです今回は除外されている。


「……(血なまぐさい)」


「血の味がするな……」


「美味しい!!」


「血の匂いが最高ですぅ」


真っ二つに割れる評価、洗練された手法を使っていても血は血である、故に好みという圧倒的な壁の前には無力だった。


「味のわからない方はどこにでもいますの」


「……(あ゛あ゛?)」


「聞き捨てならないな」


その中でおそるおそる口に運ぶハネ


「っ!?」


息をのむ、そして


「ひっく……えぐっ……ぐすっ……」


肩を震わせて泣き始めた。


「どどどどうしましたの!?何か気に入らないことでも!?」


「違うの……こんな美味しいもの食べたことなくてぇ……」


ハネがここまで手の込んだものを食べたことはなかった、故にあまりの衝撃に耐えきれず涙が溢れていた。


「そこまで喜んでいただけたなら作り手冥利に尽きますの」


一礼をして空になった皿を下げる。カーム達とのいざこざはいつのまにか霧散していた。


「……(次は私)」


カームも蒸し肉が配られる。独特の香りが辺りを席巻した。


今回の除外はブレスとカームである。


「うっ」


鼻の良いギャルゥが顔をしかめる。


「怒らないでね……ちょっと無理……」


「……!?(うそ!?こんなにいい匂いなのに)」


驚いた表情のカーム


「少しばかり香りを立てすぎですの、これじゃあ匂いに敏感な獣人は食べられませんの」


「面白い匂いがするわ」


椿象(カメムシ)族の匂い……?」


それぞれの感想もそこそこに口に運ぶ。


「なるほど……味は悪くないですの。もう少し修行なさいませ」


「これはこれで癖になるわ」


「ぐすっ……おいしい」


ハネは今回は半泣きくらいで済んだようだ


「……(なんでよう、こんなに美味しいのに)」


芳しくない感想に不満そうなカームである。


それをさしおいてムケンが鍋を前に出した。


「次はこれだ、忌憚のない感想を言ってくれて構わない」


今度は甘辛い香りが鼻をくすぐる。


「本当なら米やら卵やらがセットだが……今回は我慢してくれ」


テキパキと小分けにしていく。


「……(甘い……しょっぱい……味が濃い)」


「これは……パンに挟んだら美味しそうですがこれだけではしつこいですの」


「美味しい!!」


「熱量が高い味がするわ、私これ好き」


「甘い……です、お肉が甘いのは変な感じ……」


「おい……しい……」


つぅと涙が頬を伝う。


「くっ……!?やはり足りなかったか」


無念といった風に膝をつく。


「あの……次は……あ」


ギャルゥが焼いた肉を持ち出すが流石にここまできたら冷えてしまっていた。


「せっかく焼いたのに……」


耳と尻尾を下げてしょぼんとするのを見かねてララシィが立ち上がった。


「仕方ありませんの、加減を間違ったらごめんあそばせ」


息をふっと吹きかける、炎になる直前の高音が肉の表面を炙っていく。香ばしい匂いと共に脂がじゅくじゅくという音を奏でた。


「あ、ありがとうございますぅ!!」


「礼には及びませんの」


「それじゃあ食べてください!!」


胡椒を振って焼く、それだけで美味いのが肉の凄いところである。だが、それだけに素材の味以上にもならないのだ。


故に。


『普通においしい』


という感想が返ってくる。


なお、ブレスとハネに関しては声を大にして言っていた。


「うう……手の込んだものなんてつくれませんよう……」


謎の敗北感にギャルゥが沈んだ。


「最後になっちゃったわね、召し上がれ」


ここに来てトリを務めるのはメガの肉キューブ。


正直得体が知れないにもほどがある、どうやったらその大きさになるのかとかなんでそんなにきっちり立方体なのかとかツッコミ始めたらキリがない。


「いただきます。あむ」


ブレスが先陣を切る。それに続いて次々とキューブを口に放り込んだ。


「あ、おいしい……」


「……(しみる感じ)」


「じっくり広がる旨さがあるな」


「見た目に反しておいしいです」


「メガちゃんの……おいしい」


それぞれに差異はあるが好評である。


「案外嬉しいものね、ありがとう」


まさか全員から褒められるとは思っていなかったのかメガの顔が赤く染まっていた。


「これで全員ですの。ブレス様、一番美味しかったのはどれですの?」


場が凍った。


空気が一瞬にして絶対零度へと持っていかれる。


次の一言によってはここは修羅場と化す、今も若干修羅場だが今以上にひどいことになるだろう。


「一番?そうだなあ……」


緊張が高まる。


全員が自分の名前を呼ばれることを確信しながらも不安に思うというひどく不安定な状況である。


「決められないよ、どれも美味しかった。それに一番美味しいのは僕のだからね!!」


と自信満々で言い切った。


















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