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料理場は戦場 3


メガの手が獣の首を掴む。


「できるだけ苦しまないようにしてあげる」


何かが弾ける音がした後に獣は斃れた。ぷすぷすと煙を上げながら体をピクピクと震わせている。


「ちょっと強かった……?」


黒焦げとはいかないまでもかなり黒ずんでしまっていた。


「ま、いいだろう。次は解体だぞ」


「きっちり準備はしてるわ」


機械的なフォルムをしたナイフを取り出す、よく見ると持ち手もあたりにスイッチのようなものがある。


「スイッチオン」


カチッ☆。


キュイィイイイイイイイイイイ!!!


小さいナイフから甲高い音がし始めた。


「うるせえな!?なんだそれ?」


「昨日寝ずに作った特性ナイフです」


むふーと鼻息を荒くする。


「なんと小さい刃が高速回転することで更なる性能を生む優れものができました」


そう言って獣の毛皮へとナイフ、いや小型チェーンソーを向ける。


「いやそれは……」


「見てください、こんなにスパっと……あれ?」


毛皮は見事に絡まり回転を止めていた。


「そりゃ回転するものに毛皮なんて当てたらそうなるだろ」


「がーん……用途の再検討が必要……ね」


「普通のナイフも持ってきてんだろ?それで普通に解体するんだな」


「はい……」


明らかに引きずっている、機人全体にも言えることだが自分も作品が思ったように動かないことほど彼らのストレスになることはないのだ。うなだれながら解体を始めたが可もなく不可もなく進んでいく。


「ま、もう大丈夫だろ。次は……ハネ」


「……ぃ」


おそらく返事をしたのだが小さくて聞こえない。しかし二度呼ぶのも面倒であるので袋をハネに渡した。


「仕留めてバラせ。その後に調理だ、いいな?」


ハネがこくりと頷く。長い髪がさらりとなびいて非常に美しい。


「もう一回言うぞ、調理できる状態にするんだからな」


こくりと頷く。


「分かったならいい」


ナラツがここまで念押しするのには理由がある、それは森での様子を知っているからである。


冗談みたいな速度で走りながら見敵必殺をやっていたのを見ればこう言いたくもなるというものである。一歩間違えばムケンが獣を弾けさせたのよりも酷い状況にもなりかねないのだ。


「いくぞ」


獣が放たれる。


刹那。


一迅の風が吹いた。


「完璧だな」


なんとハネの手には獣の頭部が握られていた。


その一連のハネの動きを目で追えたものはほとんどいない。


「(いやいや、こんな逸材このクラスでいいのかよ)」


ハネの動きはこうである。


予備動作ほぼゼロの跳躍で距離を詰めそのまま腕の一本を振るって首をもぐ。


そのままでは大量出血が起こって大惨事が起こるため二本目の右腕を使って高速で傷口を擦ることで血管を固めて止血。


されどそれでは血抜きができない。


だから身を返して左手で突いて血の通り道を作る。


その際に床に血がたまらないように自前の器のようなもので血を受ける。


これを一呼吸で行ったのだ。


「よし、解体だ」


「……はい」


黒い糸が亡骸を吊り下げる。


「……えい」


「は?」


あろうことか素手をそのまま獣も腹に突き刺した、そして


「……おいしそう」


取り出した心臓を眺めてうっとりと呟いた。心なしかまだ動いてるような気がするそれを


「ぱくっ」


クッキーでもつまむくらいの気軽さで口にいれた。もちゃもちゃという音がするが髪で顔が見えないのが幸いだった。


見えていたなら卒倒する者がいてもおかしくない。


「……忘れてた。蟲人の中にゃあえげつねえ消化能力のせいでなんでも生で食う奴らがいたんだった……轟来族がそうか」


「あむっ」


次々と内臓を口に入れていく、少なくない血がかかるが光沢ある髪がそれの付着を許さない。


やがて中身がなくなったのを確認すると雑に五体をちぎっていく。


「えっと……終わりです」


殺してバラしただけで終わりとそう言った。つまり轟来族の食事はこれがデフォルトであるということである。


「お、おう」


若干引きながらオーケーを出す。もとよりこれは美味しく料理することが目的ではない。


美味しくできるに越したことはないがそれは二の次三の次なのだ。


「次はギャルゥ」


「はいぃ……!」


肩を跳ねさせながら返事をする。


「ほれ」


袋を渡すとギャルゥの顔がぱあっと明るくなる。


「いい匂いですね!!」


食いつきがすごい。


「あー、校長特性の匂い袋だからな」


「中身はなんなんですか?」


「え?それはほら……守秘義務があるから喋れないな!!」


明らかに誤魔化す気である。


「そう……ですか……変なこと聞いてごめんなさい……」


耳と尻尾がしゅーんと萎える。その姿まさに捨て犬のごとく。


「すまんな、じゃあ始めるぞ」


一抹の罪悪感を抱えつつ獣を解き放つ。


「がぶり」


すぐさまギャルゥの牙が喉元に食い込む。もとより広大な地平や障害物だらけの岩場で狩りをする獣人にとって限られた空間にいる獲物などただのカモである。


「ぐる……!」


口に広がる血の味によって内側の野生が暴れ出す。


「くぅうう……!!」


だがそれを抑え込み理性を保ち、冷静なままで仕留めきることに成功した。


「はぁ……はぁ……」


息が切れているが動きに淀みはない、血があらかた抜けたのを確認して爪を立てた。


「よいしょっと……」


天然の刃物とも言える爪はたやすく毛皮を切り裂いてゆく、やがて内臓が姿を現わす。


「じゅるり……」


思わずよだれが出かけたが先ほどのハネの様子を見ると内臓をそのまま齧るのは少数派だと推測して断念した。


だが、


「あ、ああ……」


「(食べたいんだ)」


「(食べたいのね)」


「(獣人もそのままいくのか)」


処理をする際にひどく勿体なさそうにしていたために級友には大体バレた。


「ぐすっ……」


本人は無念ゆえに涙ぐんでいたためそのことには気づいていなかった。爪を使って少々荒く肉にしていく。慣れているようですぐに亡骸は調理可能となった。


その後も次々と名前が呼ばれて獣を肉にしていく。


基本的に生きる術として狩りと解体は教わってきているのが普通なのだからそこまで大きなトラブルは起きない。


「うーい、終わったな?じゃあ調理の時間だ。俺が一口もらうがそれ以外は自由にしていいぞ。言い忘れてたが調味料とかはそこの扉の先にあるから好きに使え」


指差した先には古びた扉があった。


「なんせ中身はこんなだ」


開け放った先はある意味で宝の山であった。ありとあらゆる香辛料がそこには並べられている、原材料も加工品も完備である。中には非常に貴重な薬草の類のものも当然のように山盛りあった。


知識があるほどこの光景は衝撃的である。あんぐりと口を開けている者は一定以上の知識を有していることがわかるのだ。


該当するものをナラツは記憶する。


「さあやってみろ」


調理が始まる、ちなみに調理環境は木製の調理台に火種と鍋、皿に包丁と水甕である。火種はコンロと呼ばれる機人謹製の調整可能な火を扱える優れものだ。


「あの……お願いします」


「え?」


ナラツが振り向くとそこには獣の手足。ハネの調理は既に完了していたのだった。


「じゃ、じゃあ少しもらうぞ」


「はい」


なんとか肉の部分のみを削り取り口に含む。


圧倒的生肉だった。


「(こりゃ腹壊すな……)」


























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