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死の記憶


「いやー、貴種なんか相手にするもんじゃないね」


あっけらかんとした様子でフリュウは笑うがその身体は微かに震えていた。


「みんな大変だったね……」


流石に自分の死に様を思い出して語るのは精神的に参るらしくその場は重々しい雰囲気となった。


無理もない、今生きているとはいえ成人もしていない彼らが等しく死の経験を与えられたのだ。本来であれば心に深い傷を負い廃人になってもおかしくない体験であるが不思議と現実味が薄れているおかげか恐怖感のみで済んでいる。


「全然楽になりませんの……でまかせでしたの……」


「ごめん……やっぱり死ぬ話はハードだったよ」


お通夜のごとき空気が辺りを支配する。


そこへドタドタと音を立てながら駆け込んでくる者が一人。


「風の檻に入れるなんてひどいです……あの……何かありました……?」


ようやくララシィの作った檻を攻略したらしいララシィが到着するも、人でぎっしりの部屋が何か暗い雰囲気であるのに空気を読んだ。


「いや……ちょっと森の話をしてたんだ。そしたらみんな思い出しちゃって……」


「そういうことですか……それじゃあ私たちの話ってもうしちゃったんですか?」


「……まだだけど?」


「良かった……あんなことしたのみんなに聞かれたら大変ですから……」


ギャルゥとブレス以外の顔が一斉に上がる。


「……(聞き捨てならない)」


「ブレス、その話詳しく」


「私たちだけ話すのは不公平よね?」


「教えていただきますの!!」


「ああ……そういえば聞いてなかったね」


「えっと……聞きたいです」


全員が一斉に食いついた、素晴らしい連帯感である。


「みんなの方が壮絶な感じなんだけど……それでも良い?」


「え?話すんですか……いいですけど……怒らないでくださいね……」


ブレスの語りが始まった。


「えっと……最初は拠点を探そうとしたんだけど、そしたらギィの【恋人】が家型だったからそれで大丈夫だっていう感じになったんだ」


カームの手が上がる。


「……(ギャルゥのことをギィって呼んでるのなんで)」


「そう呼んでほしいって言われたからだけど……何か気に障った?」


「……(べーつーにー、なんでもないですー)」


明らかに機嫌が悪い顔である。


ちなみにブレスとムケン以外はこのやり取りは手を挙げて無言のカームに対してブレスが一方的に会話をしているように見えている。


「……あれなに?」


「私もよく分からないんですけど、カームさんの言おうとしてることブレス君は分かるみたいで」


「超能力じゃん……!!」


「ちょうのうりょく……?」


「あ、忘れて」


今度はメガの手が上がる。


「家型の【恋人】なんて聞いたことないのだけれど見せてもらえる?」


「あ……はい」


手のひらの上にミニチュアサイズのドームが出現する。


「大きさは調整できるので……5人くらいまでなら入れます」


「へえ……初めて見た。ありがとう、またお願いするかもしれないからその時はお願いね」


「はい……怒らないならいくらでも」


質問が終わったのでブレスが再開する。


「じゃあ続けるね、それであんまり珍しいからパパとママに見せたいって言ったんだけど……そこでグレイスがギィの首をグキってやっちゃって」


経験者は思わず首を押さえる。


すかさずグレイスが現れ勝利者ような笑みを浮かべた。


「自分と同じ姿の【恋人】なんて……」


「知らなかったか?ブレスの【恋人】は自律行動までするんだ。すごいだろう?」


なぜか得意げなムケンである。


「そうしたらギィの「待ってください、ここからは私が話します」


「でも、良いの?」


「良いんです……ここからは私の話ですから」


ギャルゥが語りを引き継ぐ。


「私は……ブレス君に襲い掛かりました」


空気が凍てつく。それでもギャルゥは話し続ける


「ひぃ……!首を捻られたことを攻撃だと思った私の中の獣はブレス君を……殺そうとしました」


金属が布と擦れる音、怒気を感じる匂い。獣人の知覚全てで今の発言が引き金だったことを確信する。それでも話は続ける。


「ブレス君はそれをいなしてくれました……でも私は傷つけるのが怖くて逃げだしました。とにかく離れなきゃいけないと思って適当森を駆けて、それで獣に襲われたんです。自分のせいですよね、勝手に逃げて勝手に襲われて」


体が小刻みに震える、思い出したことで恐怖もまたよみがえる。むしろ冷静な今思い出したほうが恐ろしいだろう。


「それでもなんとか獣を倒したんです、そしたらブレス君が探しに来てくれて……そこで気をとられちゃったんです。そこで私は別の獣に仕留められました、喉を一撃です」


震えが強くなる。


「首は熱いのに体はどんどん冷たくなっていって、でも気が付いたら温い水の中にいたんです。それは私の【恋人】の中でした。周りを壊しながら叫んでいた【恋人】の中にブレス君が飛び込んできたのが見えました」


視線をブレスへと向けた。


「そこで私を助けようとしてくれた、でもどうにもならなくて……ブレス君を悲しませてしまいました。最後は私に笑いかけながら謝って抱きしめてくれたんです。寒くて寂しくてどうにかなってしまいそうだったのにそれだけで私は救われました。でもそのままブレス君は水の中で……」


視線を床へ落とす。


「私は知りました、避けているだけでは駄目だと……周りを守り自分を守らなきゃ結局全部失うんだって。もう足手まといにはならないって」


「それで……どうするんだ?」


ムケンが問う、その顔は級友のものでなく武人の顔であった。


「そこまで言うからには何かあるのだろう?それとも自分がブレスの死因ですと言いたかっただけか?」


「私は……もうブレス君に悲しんでほしくない、傷ついてほしくない。きっとこれからも私を助けようとしたように自分から飛び込んでしまう。そんなことになる前に守りたい……ブレス君を守りたい」


「そんな力があるのか、自分さえ自由にできぬその体たらくで守るとそう言うのか」


「今は違う、私は獣にならない」


「ほう……」


ムケンの手が動く。


「っ!?」


釘のような形の武器がギャルゥの頬を掠めていた。これは故意ではない明確な攻撃。


「ぐ……るるるる!!!」


瞳孔が開く、牙がむき出しになり爪を出す。


「ぅうううううう……はぁ……はぁ……」


だが、抑え込んだ。確かに呑まれそうになったが戻ってきた。


「……抑え込めるか、だが足りないな」


「ええ、そうですの。ブレス様に襲い掛かった件はあしらわれたということで不問にしますが問題は最後ですの。結果的にブレス様に包まれながら心中だなんて許せません」


「……(なんで最後にいい思いしてるの、許せん)」


ムケンとララシィとカームが立ち上がる、なぜかその手には枕が握られている。


「面白そうな予感がするわね、私も立ち上がっておきましょう」


「じゃあ便乗しようかな」


「メガちゃんがそう言うなら」


メガ、フリュウ、ハネもまた枕を持って立った。


「え?何が始まるの」


「……(戦争よ)」


「戦争!?」


開戦の合図はムケンの一投だった。第一次枕投げ戦争の開幕である。


「これが終わったら全部水に流してやる、全力で来い!!」


つまるところこれは儀式だった、恐怖をさらけ出した後にすっきりするための遊びが必要だったのである。過ぎたことをうだうだと言うような輩はここにはおらず、さりとてこのまま終わるのも後味が悪い。そう考えたムケン、カーム、ララシィによる企みである。くたくたになるまでやりあった後、枕に囲まれて眠る彼らの寝顔は安らかであった。




























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