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以心伝心(仮)


森の中へと入ったカームとのムケンはすぐさま困難に直面していた。


「……!!(こっちの道の方が安全だから!!)」


「ええい!!引っ張るな!!何が言いたいかまるで分からない!!」


会話ができないために意思の疎通ができないのだ、行き先すら合わない始末である。


「……(ブレス君なら分かってくれるのに)」


「今ブレスなら良かったと思っただろう」


「……!?(どうして!?)」


「分かるさ、表情が物語っていたからな。でも今は私しかいないんだ」


「……(だから困ってるんじゃない)」


「喋れないのか喋りたくないのか知らないがこんな状況じゃとてもやっていられない。どうにかして意思を伝えてくれないか」


「……(仕方ない)」


カームがパクパクと口を大きく動かす、それをムケンが読み取った。


「読唇術か……一応修めているがあまり自信はないな。みち、こっち、あんぜん?」


カームが頷く。


「だから私を引っ張ってたのか。そういうことなら異論はないそちらへ行こう」


「……(手間のかかる)」


「一応言っておくがブレスが特別なだけで喋らなくても伝わることが普通だと思うな。それはきっとお前自体に良くない」


「……(分かってるよ)」


無言のまま二人が行く。


突然近くの木から落ちてくるものがあった。



「……!!(危ない!!)」


「ふん!!」


カームが手を出す前にムケンの手によって落ちてきた蛇は捕獲されていた。


「……(見えてなかったはず……どうして)」


「不思議か?常在戦場の心得というものだ。いつでもどこでも戦えるようにしておくということだな。それにしても幸先が良いな。早速食料が手に入った」


手早く蛇の首を折る。


「火をつけるものは持っているか?」


カームは首を振る。


「そうか……では私がやろう」


なにかをしようとするムケンの腕をカームが止めた。


「……(ここではダメ、やるなら拠点を作ってから)」


「だめ、ねどこ、つくる、さき。つまりは拠点の設営が先ということか」


カームが頷く。


「では聞こう、森に慣れているエルフはどこを拠点に選ぶ?」


「……(水の近くがいい。水分が最重要)」


「みず、ちかく。そうだな水場の近くがいいだろう。いざとなれば獣の血を飲むがそこまで長い滞在でもないから大丈夫だろう。しかし水場か……どう探したものか」


「……(私がやる)」


カームが右腕を伸ばす。


するとそこに一羽の鳥が出現した、艶やかな黒い羽に長い尾羽、鋭い嘴にかぎ爪。炎のようなトサカ。


「美しいな……とても鶏とは思えない」


思わずムケンも目を奪われるほどの見事な鶏だった。


「……(いきなさい)」


少しだけ得意げな顔をしたカームが【恋人】の鶏を放つ。


「飛ぶのか!?」


その鶏は低空を滑るように飛んでいく、ムケンの知っている鶏とは何もかにも違っていた。


「……(見つけた)」


カームがムケンの腕を引く、しばらく進んだ先には小さいながらも川があった。


「おお!!川があるじゃないか」


「……(よしよし、お疲れ様)」


撫でたのちに【恋人】は消えた、主人に似て寡黙な鶏である。


「よし、ここを拠点にしよう。ではスペースを作るから離れていろ。近くにいると危ない」


「……?(なにをするの?)」


「なにを、だって?見てれば分かるさ」


ムケンの羽衣が出現し構えを取る。


「せいっ!!」


回し蹴り。


そのままの勢いで回転しもう一度。


回転を殺さないまま飛び上がり地面へと正拳。その三つの動作の風圧で周囲の草はなぎ倒され円形のスペースができていた。


「ふぅ……」


残心をしつつ息を吐くとそこへつかつかとカームが近づく。


「驚いたか?」


そして肩を掴んだ。


「……!!(バカ!!)」


「ばかだと!?場所は必要だっただろう」


「……!!!(こんなことろであんな派手なことしたら見つけてくださいって言ってるようなものでしょうが!!!)」


「ここ、めだつ、けもの、くる、きけん。なるほど腹を空かせた獣がここにやってくるというわけか……だが獣なんて相手じゃないぞ?」


「……(あれを見てもそう言える?)」


カームの指差した先には異常に発達した上半身を誇る赤毛の猿がいた。拳をついて歩くそれはゴリラに似ている。


獣には一般的に人間に狩られる側である普遍種(ノーマル)と人間をも狩り殺す存在の貴種(ノーブル)がいる。後者のことを悪魔のごとき動物として魔物と呼ぶこともあるが、それは人間の味を覚えたものや積極的に殺しにくるものを言う。


そしてこのゴリラは完全に貴種独特の存在感を持っていた。


「……前言を撤回する。あれは無理だ」


ムケンが冷や汗を流す。


貴種を敵に回した場合は5から10人ほどの実力者であたるのが普通である。子供の身で立ち向かうのは自殺と等しいだろう。


ゆっくりと近づいてきたゴリラは水場で水を飲むとそのまま去っていった。幸運にも敵と見なされなかったのだ。


二人でほっと息をつく。


明確な気の緩みである。森の中という四方八方が敵のテリトリーの中にあってそれは命取りとなる。


ちくりとムケンの首筋が痛んだ。


「……?なんだ?」


手を当てる、そこには毛のような感触。


「っ!?」


とっさに手で払いのける。飛んでいったクモは木にぶつかり潰れた。


「噛まれたか……!」


その手は血で濡れていた。


「……(見せて)」


傷口を見るとそこは黒ずんでいた、血が止まる様子もない。


「……!?(黒死の運び手……ダメ……ここじゃ……何にも……できない」


「どうした……っ!?」


青ざめた顔をしたカームを見てムケンは察した。おそらくこれは助かる類のものではないと。


「ははっ……そうか。あっけ……ない……もの……だ……な」


急激な脱力感と平衡感覚の喪失によりムケンが倒れ臥す。


「死ぬ覚悟……は……していたが……まさかこんな死に様とは……先立つ親不孝をお許しください……ととさま……かかさま……無間はここまでのようです」


「たす……けて……!」


微かな声が聞こえた。


「助けて!!ムケンがゲホッゲホッ!?」


出し慣れていない大声に耐えられずむせてしまう。


「ははっ……なんだ……。声出せるじゃないか……」


体が冷たくなっていく、血は抜け続け体の自由は失われる。


だが目が霞むということはなくカームの泣き顔と必死の叫びだけも聞こえていた。


「……!!(助けて!!助けて!!誰か!!)」


使い慣れぬ喉はすぐに潰れ。かすれた音のみが口から出る。


「……!!(ブレス君!!メガ!!ハネ!!ララシィ!!誰でもいいから助けて!!)」


音は出ていない。


だが、なにを伝えたいかがムケンには分かった。


「よび……ごえ……が……とどく……と……いい……な。ぶれ……すや……ともだち……に……」


どことなく他人事のような物言いは意識の混濁が原因である。


「……!?(わかるの!?)」


「わ……かる……さ」


「……こはっ!?」


ムケンの顔に血がかかる。


そこには鋭い先端で胸を貫かれたカームがいた。


「お……や……か」


先端の正体は足の先、先ほどムケンが潰したクモの母親であった。巨大なクモは立て続けに足を突き刺す。そして覆いかぶさるようにカームが倒れた。


「か……む……!?」


すでに事切れたカームの表情は驚愕で固まっていた。


「まま……ならぬ……ものだ……」


最後の力を振り絞りカームの瞼を下ろしたところでムケンもまた力尽きた。















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