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臆病な蜜熊


獣人というのは種の多い人種である、その多様さは蟲人と双璧をなすと言われるほどである。その中でも最も勇猛で恐れ知らずなのは蜜熊種であろう、彼らは好戦的で命をかけた戦いを好む。それでも生きて帰ってくるのが蜜熊種という種である。


簡単に言うときわめて優れた戦士の血筋なのだ。


「次、ギャルゥ」


「は、はいぃいい……!!」


その蜜熊種であるはずのギャルゥは常に自信がない、それどころかいつも何かにおびえている。


「銅硬貨三枚と銀硬貨一枚で銅硬貨五枚分のものを買ったとしよう、それではいくら余る?」


「えっとぉ……あの……間違えても怒らないでくださいね……八枚ですぅ」


「正解だ」


「ひぃ……!?ごめんなさいごめんなさい!?」


「……怒ってないから謝るな、次ムケン」


ほっと胸をなで下ろして座るがそれでも落ち着きなく当たりをきょろきょろと見ている。


「はっ!!」


「ひぅっ!?」


ムケンの大声に身体を竦ませた、心底驚いたのだろう心臓の位置を押さえて真っ青な顔をしている。


「……ムケン。そこまで大きな声を出さなくても聞こえてる」


「はっ、承知しました」


「ではお前には……金硬貨で銀硬貨3枚分の買い物をしたとしよう、あまりは?」


「あまりなどありません、武人が余計に支払ったときにはそれは感謝の気持ちとして店に納めるのです」


ナラツが目の間を揉む。


「だーかーらー、お前は和華の常識を引きずるんじゃねえって言ってんだろうが。これは簡単な計算の問題だ金硬貨と銀硬貨の足し引きの話をしている。答えろ」


「であれば銀七枚です」


ムケンは和華基準で物事を考えてしまうが地頭はむしろ良い方なのであった。


「分かってんじゃねえか……すっとやれよすっと……次ララシィ」


「はい」


「お前はそうだな……金硬貨2枚と銀硬貨4枚を全て銅貨にしたときの枚数を3人で分けたとき一人当たりの枚数は何枚になる」


「私だけ難しい気がしますの!?」


「うるせえ、貴族だからレベル上げてんだよ」


「えっと……金を銅にすると……」


するとどこからか金の粒子がさらさらと流れてきた。そしてその粒子はナラツの後ろで頑張れララちゃんという文字になる。もちろんやったのはタラスである、おそらく振動を拾うかなにかでこのクラス内の状況を知っているのだろう。


「まったく……ターちゃんったら……」


「答えは?」


「80枚ですの」


「ちっ、正解だよ」


ナラツは教師になる前に帝国の貴族と問題を起こしたことがある、故に帝国貴族には当たりが強い。


「次は……」


鐘の音が鳴る、それは終業と始業を告げるものであるが今回は前者だった。


「んじゃ今回はここまで、次はお待ちかねの探検だ。精々気を張れよ、毎年十人に一人くらい漏らすからな」


にやりと笑ってナラツが教室を去る。


探検とは別名生存訓練とも言うもので、校長がその手で作りあげたギミック満載の森で一昼夜生き延びるというものである。安全対策は万全らしいがそれと同時に毎年何人か行方不明なるという噂もある曰く付きの授業であった。


すぐさま学堂の外の森の前へと生徒が集合した、事前の準備は許されずまた遅れたものにはペナルティがあるのだった。


「うーし、全員いるな。じゃあこのクジをを引け、あと【黄金】組のタラスは帰れ」


しれっとララシィの隣にタラスがいた、そして少し離れたところに金で固められようとしている生徒が一人いた。


「別に良いじゃありませんこと?一人増えようが消えようが一緒ですわ」


「一緒じゃねえとっとと帰れ」


ナラツが指を弾く、するとタラスの足下が消失した。


「え?きゃあああああああああああああああああああああああああああああああ!?」


「これが教師の力だ!!!思い知ったか貴族、ふぅはははははははははは!!!」


落ちていったタラスをみて我が世の春が来たとばかりに大笑いをするが数秒でいつもの様子に戻った。


「んじゃ引け」


一人ずつ色のついたクジを引いていく。


「えっと……その怒らないでね……?」


「怒らないよ、これからよろしくね」


ギャルゥとブレスの赤チーム。


「……(なんてこった)」


「なんだ?不満そうだな?」


カームとムケンの黄チーム。


「おっ。よろしく」


「ええ、よろしくお願いしますの」


メガとララシィの翠チーム。


「よろしくですぅ……」


「うん!!よろしくね」


黒チームのハネと一緒になったのは純白の翼を持つ自称獣人のフリュウだった。なぜ自称なのかというと鳥系の獣人であるならば持ちうるはずのかぎ爪や嘴などの特徴がなかったのだ、それに加えて頭上には謎の光の輪があった。本人曰く体質ですとのことだが明らかにおかしい。


だが、個人のことを詮索しすぎるのはご法度であるために誰も切り込まなかったのだ。加えてこれも自己申告であるのだが両性らしい。何が何だかよく分からないがそれ以外は普通の良い奴であるので案外溶け込んでいるのだ。


「決まったな?それじゃあ探検開始だ。ギブアップするときはまあ……大声で叫べば助けてやるからそのつもりでな。あとな最初から他のグループと協力するのはなしだが途中で遭遇した場合にはその限りではない。じゃあ始めるぞ」


ナラツのぬるっとした開始の合図で探検が始まる。時間差で一組ずつ森の中へ入っていった。


最後に入ったのはブレスとギャルゥのチームである。


「あの……これからどうするんですか……?」


「んーとね、とりあえずは休憩できるような場所を探そうと思うよ」


探索、というか生存において重要なのは拠点である。そのことを太陽からたたき込まれている為の行動だ。


「それだったら……これはどうでしょう……あ……怒らないでくださいね……」


「なになに!聞かせて!!」


「ひぅ……!?」


あまりの食いつきにギャルゥが萎縮する、慌ててブレスが口を覆う。


「ご、ごめんね……」


「だいじょうぶですぅ……」


涙目であるが、何とか持ち直したようである。


「これ……私の【恋人】です」


「え?これって」


ギャルゥの指さした先にはドーム状の家らしきものが存在していた。大きさ的には3~4人用のテントと言った感じである。


「すごいよ!!こんなの見たことないよ!!」


大きな声にまたしてもギャルゥの肩が跳ね上がる。


「ひぃ……!!」


「またおっきい声出しちゃった……ごめんね……本当にすごいよ……!」


「そんなことないです……他の皆は強い武器を持っててもっとすごいんです……」


蜜熊の性格上その美の感性は強さである、つまりは武器の美しさという形につながる事が多く。ギャルゥの周りの蜜熊種の仲間もまた武器の【恋人】を所有していたのである。


「何言ってんの……武器なんかよりもっとすごいよ……こんなの特例中の特例だよ」


双星の持っていた【恋人】の表にも記載のない建物という形の【恋人】は実際非常に貴重なものである。


「そう……なの……えへへ……なんか嬉しいね」


「うん、出来るならパパとママにあって欲しいくらい」


「え?」


これはもちろん双星に貴重な例として会わせたいという意味であるが、ほとんどの場合はプロポーズの類だろう。


「ええええええええええええええ!!?」


「うわっびっくりした……今まで一番大きい声出したね。どうしたの?」


「だだだだって……!?そんな……の……けっこん……でしょ……?」


尻すぼみな声はそんなの当たりから全く聞き取れないレベルになっていた、だが半分【恋人】であるブレスはそんなことで聞き逃したりはしない。


聞き返そうとした瞬間にギャルゥの首が気持ち弱めに捻られた、流石のグレイスもいつものノリで捻るのは可哀想に思ったのだろう。結局捻るのに変わりはないが。


「ぐえっ!?」


「ぐーれーいーすー!!なんでいっつもこんなことするの!!」


いつものごとく所有権を主張するようにブレスに絡みつきながら睨みを飛ばすグレイス、だがギャルゥの反応は予想したものとは全く違っていた。


「ぐるる……!!」


しまっていた牙をむき出しにして瞳孔は全開、爪もまた牙と同じように完全に露出していた。完全にやる気である。


「え?」


予想もしていなかった反応にブレスとグレイス共にあっけにとられる。


「ガァッ!!」


牙が眼前に迫る、このままではのど笛を噛みちぎられるのは必至であろう。だが、剛がたたき込んだ防衛術に死角はない、噛みつきに対しての対処もまた行われる。


「ギャウ……!?」


噛まれる前に口を閉じさせる事で噛まれることを避ける。


「落ち着いて……!!」


正面から瞳を見て語りかける、次第にギャルゥの瞳に理性が灯り始めた。


「あ……ああ……まただ……また……ごめんなさい……もう一緒には居られませんよね……さようなら……」


ブレスの手を振り払いギャルゥは森の奥へと走り出す、獣人特有のバネと空間把握能力によって三次元的に移動するギャルゥに追いつくことはブレスには不可能だった。




















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