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目覚め


倒れたハネを首を付けなおしたメガが抱え上げた。


「おもっ!?」


華奢に見えたその体躯は長い髪の文を差し引いても予想外の重量を有していた。羽やら四本腕やらを考えるとむしろ軽いのだが未成熟の子供には十分重いだろう。


蟲人の筋肉は他の種族とは別物である、大きさに対する性能が非常に高い。故に見た目が細くとも怪力だったりするわけだが、その代わりに重くなっている。


飛行できる種はそれをものともしないほどに背中に筋肉を搭載するか、身体が極限まで軽量化されているのかの二択である。ちなみにハネは前者であるが飛行能力は高くない、落下速度が少々落ちる程度であって獣人の鳥種や蟲人の蜻蛉種などのように高速飛行はできないのだ。


「とりあえず部屋まで運ぼうと思うんだけど……交代でお願いできる?」


「それならこうしたらいいよ」


グレイスが現れメガに手をかざした。すると重さが軽減される。上に引っ張る力をかけたことで緩和されたのだ。


「おっ、軽くなった。ありがとう、これなら大丈夫だ」


「うん。どういたしまして」


「……(浮かせて運んだほうが楽だと思うけど)」


「グレイスにはそんな力はないよ、持つのを手伝うくらいが限界。瞬間的にしか強い力をだせないんだ」


「十分だよ」


そうこうしてハネを部屋まで運び込むとメガがへたり込む。


「くっふ~、さすがに疲れたね。悪かったね長々とつき合わせて」


「楽しかったよ!」


ブレスは満面の笑みである。ブレスに慣れつつあった二人であるが【恋人】としての力で見るものの好みの姿によった顔での笑顔は破壊力が抜群であった。


「「!?」」


心臓が跳ねる、鼓動が一気に早くなり体温が上がっていく。


「え?なにこれ?」


「……!?(胸がくるしい……!?)」


初めての体験にうろたえる二人だがブレスはそれに気づかない。しかしその背後にいるグレイスが誇らしげな顔をしていた。


その顔は確実に自分の持ち物を誇るそれであった。


「どうしたのグレイス?」


そしてブレスにべったりとくっついてニヤリと笑う。言葉がなくとも分かる、これはマーキングであり意思表示だ。これは私のものだ、そう言っているのである。


まざまざと見せ付けられた二人は心によく分からないもやもやとしたものが溜まっていくの感じていた。だがそこでハネが目を覚ます。


「ん……はっ!!首が!!」


飛び起きたハネはあたりを見渡すとメガを見た。


「首が……ある」


「えっと……首はほら、私の場合取り外し可能だから大丈夫……だよ?」


心なしかハネの長髪が逆立ち始めている。体もわなわなと震えている。


「あれ……怒った?」


「……です」


「え?」


風が起こる、目にも止まらずハネはメガを抱きしめていた。


「良かったですぅ……私のせいで怪我しちゃったのかと……」


「大丈夫だからそんなに心配しないで」


「本当に……良かった……」


ぎりぎりと音が鳴る。それはハネの腕の関節が力をこめたことによって生じた音である。


「死んじゃったかと……」


「うん……だい……じょう……ぶ」


こめられる力が強くなっていく。力の加減が効いていないのだ。


「ごめ……ちょ……ギブ……」


「ご、ごめんなさい!!」


ようやく気づいたハネが離れようとする。


「待った」


「へ?」


今後はメガが抱きしめることでそれを止めた。


「もう逃げないで。私はあなたと友達になりたいの」


「へぁ!?そんな……ダメです。私なんかと関わると汚れます……私は汚い……ですから」


ばたばたと暴れるハネをメガが抑える、膂力に差があれど抑えられてるのを見るとメガにも何かしらの心得があるようだ。


「汚くない」


「ダメです、ダメなんです!!私は私は……」


髪で見えないがおそらく俯いてしまったのだろう、声も尻すぼみになっていく。


「ねえ、私の話をしようか」


メガが優しく語りかける。


「私はね、首が機械なんだ。機人はどこかしらみんな機械になるんだけど首は珍しくてね。つけられたあだ名は「首なしおばけ(ヴォーパル)」だったよ。なんせほら首が取れるからね」


メガは首を外してみせる。


「散々いじめられたっけなあ。ボール代わりにされたり隠されたり、まあ色々さ。そういえば私に触られると首が取れるなんて言うのもあったっけ、そんなわけないのにね」


にっこりと笑いかけて話を続ける。


「しまいには私は家から出られなくなった。その後も家まで来て嫌がらせをするんだから子供は残酷だよねえ」


「ひどいです……どうしてそんなことするんですか……メガさんはとても良い人なのに……」


「そんなもんさ。それで私は心底嫌になった。それで死んでもいい気になって逆襲してやったんだ」


「それでどうなったんですか……?」


「全員半殺しにしてやった、呆気ないもんだったよ。私を散々な目にあわせた奴らはちっぽけだったんだ。ハネもそんな奴らから言われたことにいつまでも縛られるつもり?」


「私は……メガさんと違って強くないんです……私には……無理です」


「違わないよ、一緒だ。腕が四本だろうと触覚があろうと私とハネは一緒だよ。だから私はハネに殻を破って欲しい、私の手を取って欲しい」


メガは抱きしめていた腕を解いて手を差し出す。


「私と友達になってください」


「ず……ずるいです……そんな風に言われたら手を取るしかないじゃないですか……」


おそるおそるハネはメガの手を握る。


「ありがとう、大好き!!」


「はわぁ!?」


握られた手を引き寄せてメガはもう一度ハネを抱きしめた。


「これからよろしくね!!」


「は、はい!」


一部始終を見ていたブレスは目を輝かせていた。美しいものを見た感動によって涙ぐんでさえいた。


「これが……これが友情なんだ!!」


一人で育ったブレスは友情というものに憧れを抱いていたのだった。


「……(いや友情よりも百合情に近いような)」


「ゆりじょう?それは何?」


「……」


目をそらすカーム、本当の沈黙であった。


「読めない……教えてよカームゆりじょうってなんなの?」


「……(ワタシ、ソンナノシラナイ)」


目が激しく泳ぐ、クロールどころかバタフライレベルの激しい泳ぎである。


「どうしてそんなに目が泳いでるの、嘘ついてるでしょ」


「……(シラナイ、ワタシシラナイ)」


カームの顔に冷や汗が浮かぶ。万が一にもブレスに嫌われたくない以上これ以上は話せない。ブレスに「えっ……カーム……きもい」だなんて言われた日にはカームはノータイムで自害する所存である。


「むー、じゃあいいや。話したくないことを無理に聞くのは良くないから」


ほっと息をつくカーム。


「……(危なかった。女の子同士の恋愛なんて言えないよ)」


「え?」


「……あ」


「か、かかか、カーム……?どういうこと?」


【貴不死人】の書庫には学術書や神話こそあれ最近の流行りの書物などは存在していない。まあ、校長の㊙︎書庫にはわんさか入っていたりするが。


友情の派生語である百合情は女性同士を花に見立てたエルフ小説の中で発生した言葉である


「……!!(わ、忘れて〜〜!!)」


声なき叫びは届かず、ブレスに根掘り葉掘り聞かれてしまうのであった。



















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