入学式
そろい目の歳には天才が生まれる。
これは学堂における噂である。要するに都市伝説の類いであるのだがこれがあながち間違いではない。
最初は11期生のドラゴニュートだった。手の付けられない暴れん坊だった彼は後に帝国最大の功労者と呼ばれる功績を残しついには皇帝の地位にまで上り詰めた。
次は33期生のエルフだった。彼女は引っ込み思案でとても人の前には出てこられなかったが弱者の思想を大々的に主張し王国の制度を大幅に変える政治家となった。
他にも語りぐさになる者はたくさんいるが444期生の獣人は特に目立つだろう。彼女は絶大な力と獣人にあるまじき智慧をもって獣人の国を群雄割拠の戦乱から救い出し民族連合国としてまとめあげたのだ。
そこからそろい目の年の入学者は黄金世代と呼ばれ、多大なる期待が寄せられる事となる。
今年は666期生が入学する年なのだ。誰が今回の天才なのかを世界が注目しているといっても過言ではな
いのである。
そして今年は例年以上の豊作だと言って良いだろう、五人もの有望株が入学するという噂がまことしやかにささやかれていた。
現在、全校生徒の前で行われる入学挨拶が始まろうとしていた。
数万にものぼる全校生徒が学堂の大講堂に集結し新入生の自己紹介を聞くのだ。匠の手による巨大スクリーンと拡声器によって余すことなく新入生の様子が伝えられることになる。
無難な挨拶をするものが多い中最初に目を引いたのは一本角の鬼人の少年だった。暗い赤の髪をした燃えるような瞳の少年である。
「俺の名前はハジメといいます、和華から来た鬼人です。今年の天才枠は俺ですどうかよろしくお願いします」
一気に在校生がざわめく、天才とは自称する者ではなく称号なのだから。失笑と面白い奴がいるなという視線が入り交じる。そして在校生から洗礼代わりと言わんばかりに【恋人】による遠距離干渉が行われる。それは紙の弾であったり水であったりと当たったとしてもなんら問題ないものではあったが些か多すぎる量の飛来物がハジメに向かって飛んでいった。
「……くれない」
ハジメが【恋人】を呼び出す。深紅の刀身を持つ刀がその手に握られた。
一閃。
刀から炎が吹き出し大量の飛来物は一つ残らず空中で焼き尽くされた。
「歓迎ありがとうございます」
燃えかすが空中に舞う中でハジメの自己紹介は終わった。もちろん在校生達の顔から一瞬で遊びが消え本気になったのは言うまでもない。今年はレベルが違う、誰もがそう思ったのだ。
次に現れたのは機人の少女だった。機人は身体のどこかを機械化しているが彼女の場合は両目だった。
「どぉ~もぉ~。ガラクタラフから来ましたマッドですぅ。被検体はいつでも募集中ですぅ、実験されたい人はいつでも来てねぇ?」
彼女の目が怪しく光る、それと共に黒い立方体が出現した。
「さいっこうに改造してあげるからさぁああああああああ!!!」
立方体が人間大に大きくなり黒い触手めいたものが伸び始めた。
「まずは君だねええええええええへけっ!?」
しかし、その首がかくんと揺れると立方体の動きが止まった。
「やり過ぎだな」
獣人の教師の一人がそのままマッドを抱えて退場した。目に余った生徒は実力行使で強制退場させられるのだ。
次に目立ったのは黄の髪をなびかせた蜂の蟲人であった。
「和華から参りましたホウと申します。好きなものはハジメ君です、それと鎧人形が好きです」
地響きがする。大柄な鎧人形が出現していた。大太刀を担いだそれは威圧には十分だった。
「おいたをする人はこれで……ね?」
底冷えのする笑みを遺してホウの自己紹介は終わった。
次に目立ったのは黒髪を巻いたドラゴニュートである。
「あーっはっはっは!!下々の皆さんごきげんよう。わたくしはタラス・バハムートですわ、威光の前に跪きなさい!!」
違った意味で在校生がざわめく。帝国のバハムート家と言えば国家の中枢を担う大貴族の一角である。その姓を持つことは皇帝をも排出している名家の生まれであることを意味していた。
次は黄のなかに黒の模様が入った豹柄の髪をした獣人だった
「よろしくー!!レオーマだよ!!」
恐るべきはそのスピード、姿がいくつも重なって見える程の速さで壇上をせわしなく動いている。いかに獣人と言えど此処までのスピードを出せる者は多くはない。確かな才覚を感じさせる身のこなしであった。
最後は分厚い本を携えたエルフだった、美しい白金の髪を腰程まで伸ばしている。
「私はジュハ。校長の後継者になりに来ました。よろしくお願いします」
【貴不死人】の後継者。
そんな大層なことを言う者は滅多にいない、しかも何らかの確信を持ってその発言をしたことがうかがえる。
以上五名が今回の入学式で特異な言動をした者である。良くも悪くもこの五名はこれから注目されていくことになるだろう。
そして【貴不死人】の子たるブレスがどうだったのかというと。【恋人】由来の美しさによって一瞬だけ注目を得たがそれ以外は全くもって平凡な自己紹介であったため特に要注意人物であるとはされなかったのだ。
入学式が終わると次にあるのはクラス分けである。
間口は果てしなく広く、また教師陣も手練れが多い中であるがある程度以上のレベルに達している者たちは存在している。その者たちを分ける為に簡単なテストを教師が行うのだ。学問から戦闘から得意分野からあらゆる能力を計られることとなる。
結果。ブレスは一般レベルの範疇であると判断された。
特異な行動をした面子とその他の一握りのエリートが選別され特別クラスへと決まる。彼らは総合点が異常に高いか一芸が呆れるほどに特化した者たちだ。
ブレスは高レベルではあるが基礎的な事が徹底してあるのみであり一芸特化や高スペックの連中ほど目立つ能力はなかったのである。
ここに特別クラス【黄金】とその他の区分けが完了した。
その他のクラスもまた教えやすいように30~50人ほどのグループに分けられて教えを受けることとなる。そうなるともう一度自己紹介をする必要が出てくる、莫大な数の同級生を皆覚えているものなどいないのだから。
ブレスのクラスは【赤玉】である。教室へと集められ教壇にエルフの教師が立つ。
「う~い、集まったな。おれはナラツ、お前らの担任だ。ほんじゃあまあもう一回自己紹介だな。流石にあの人数の自己紹介を覚えてはいられねえんでな」
もう一度自己紹介が始まる。一般クラスとはいえ集まればそれなりに個性が見えてくるものである。
艶やかな長い茶髪と長い触覚で顔を隠した蟲人の少女がいたり
「あのう、そのう……ハネです。わたしとは……あんまり関わらないほうがいいかもです……」
首が取り外し可能な機人の子がいたり
「メガよ。この通り首が取れても大丈夫だったりするわ」
鬼人の武士階級の娘がいたり
「ムケンだ。武しか取り柄がないがよろしく頼む」
蜜熊獣人ではありえない臆病さをもった者がいたり
「ひぃいいい!!虐めないでください……。ギャルゥっていいます……お願いします……」
没落寸前のドラゴニュートがいたり
「お家の再興の為につがいを探していますの、我こそはという方がいればこのララシィ・ファブニールに求婚してくださいませ」
素性が知れぬし種族特徴がないがなぜか惹かれるという謎の塊みたいな奴がいたりした。
「ブレスです。仲良くしてください!!」
一通りの自己紹介が終わる。
「ういうい、把握した。じゃ、今日は解散だ。寮の説明もあるからなちゃんと聞いとけよ。長いつきあいになるからルームメイトも把握しておけ」




