何人だ?
尋問はどれくらい続くのか。苛烈に、執拗に行われていた。
「さあ言え、吐け。お前たちは全部で何人だ!」
取り調べ官は、椅子に縛り付けられた某国の工作員を見下ろす。自分たちと同じ黒目、黒髪。拷問のため今は腫れ上がっているが、とくに特徴のない容貌。加えて、話し言葉に違和感もないとなれば、自国の一般人の中に紛れ込んでいても分からない訳だ。
「言うんだ!」
工作員の髪を掴み、変形した面を持ち上げる。
「さっき、しゃ、喋った通りだ」
声は、掠れて聞き取りにくくなっていた。
「嘘を言え。そんな筈はない!」
「ほ、本当だ」
「よし、ヤレ」
取り調べ官は傍らの部下に指示を出す。繋がれたコードから、工作員に電気ショックが流される。
「ギャアアアア…」
短くない時間。
「…アアア」
一歩手前で止められる。
「どうだ、言う気になったか。これ以上、苦しい思いなどしたくないだろう?」
着せられた灰色の服からは、プスプスと煙が立つ。
「喋れば、なんとかお前だけなら便宜が図れるかもしれん」
「うううっ」
「さあ、何人だ?」
「れ、連絡要員、定期じゃない奴があと2人。雇ったフリーランスの、殺し専門が1人」
「それで本当に全部か!」
「ああ、オレが知ってるのはこれで全部、だ」
「よし、そいつらの特徴を話せ…」
取り調べ官は上司に報告する。
「…以上、他の工作員の証言と照らし合わせてみても、多く見積もって最大25人となります」
じろり。
取り調べ官は、汗で背中が貼り付く感じがした。報告を復唱すべきなのか、時間がやたら重い。
「致し方あるまい。その数字で」
ようやく出された言葉に、情けないがほっとした。誰かを亡き者にするなど造作もない、事実上の組織のトップ。
「一つ、キミに伝えておきたいことがある」
「ハイッ」
「我々はこの国の平和を維持しているのだよ。それこそ、表からも裏からもね」
揺るがない姿勢に、再度身を引き締める。
「今回の作戦により、あの国の組織にはかなりの打撃を与えることができた」
不動のまま頷く。
「キミたちの仕事ぶりは評価している。失態は後日挽回すればいい。捕らえた、始末した数は、計何人だった?」
「37人になります」
「うむ。では、後は他の者に処理させておく。下がりたまえ」
「ハッ、失礼します」
取り調べ官は退出した。が、汗はすぐに引かない。緊張な面持ちのまま、足早に、少しでも離れようと廊下を移動する。
一体、何人だ?
誤ってやってしまった、敵以外の人の数。
今までも、と考えてみて、怖くなり頭を振った。