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蒸気世界のロストランカー  作者: 稚葉サキヒロ
第1章・古森美咲編
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7.妹のまた兄思い

「うぅ……、俺の金が……」



 昼時になり有志で出す屋台通りに人が集まり始めた。あらゆる食べ物の香りが混ざり合い空腹時には誘われるがままに訪れる事だろう。

 場所は離れて行事の為に設置されたであろう休息所に座る葵は空の財布を見つめて落胆の声を漏らしていた。



「いやー、ごちになります」



 目の前では笑顔でパフェを食べる翠と麻里の姿。スプーンですくって口に運ぶために幸せそうな顔をする。



「ちょっと頂戴」

「いいっすよ。そっちももらうです」


 と互いのパフェを一口貰っては口に広がる甘さを味合っていた。それ以前にも手あたり次第にあれも食べたい、これも食べたいと連れまわしていた。デザートは別腹というのは確からしい。



「兄さんも食べる?」

「えっ? くれるのか?」

「あげな~い」

「だと思った」



 いたずらっ子ぽく悪い笑みを浮かべる翠。葵のムッとした表情を見て楽しんでいるに違いない。



「嘘だよ。はいっ!」



 スプーンでパフェをすくって葵の前に差し出した。麻里はその光景を不思議(戸惑い)ながら見ていた。葵は躊躇なく口に入れる。



「な、仲がいいっすね。カップルみたいっす」

「うん? あっ!!」



 自分のしたことが常識と逸脱していたことに気が付いたのか声を上げて顔を真っ赤にし始める。頭の上に水桶を載せたならお湯を沸かせるのではないかと思えるほどだ。



「兄さんの馬鹿!」

「ま、待てっ! 洒落に――」



 ――洒落にならない。



 正にその通りとなった。

 声の主は顔面に拳を喰らうと大きく吹っ飛ぶ。通常の女子生徒が殴ったところで痛いぐらいで済むはずが大惨事となった。男子生徒が大きく山なりに飛ぶと言う事はあり得ない話だがそれをやってのけてしまったのだ。



 突然の轟音が響いた学内は一時だけ葵に注目が集まる。が、一目見れば周りは元の行動に戻った。



 ――蒸技師ならばあり得る事だ。



「痛てててて……」



 頬をさすりながら起き上がり翠と麻里の元へと戻る。翠は少しだけ頬を赤らめモジモジとしている。咄嗟の行動とはいえやり過ぎたと自覚していることだろう。



「全く……、困った妹だ」

「だって、兄さんが悪いんだもん」

「うーん。葵は悪くないような……」



 第三者として見ていた麻里から見ても理不尽な物言いだなぁと思う事だ。葵は別に本気で怒ってはいない。どっちが悪いかはどうでもいいらしい。



「お兄ちゃんを殴るんじゃありません」

「うぅ……、気を付けます」



 ともあれ殴ったことを事実であるから申し訳なさそうに呟いた。元々、翠の行動が引き起こしたので葵が咎められるのも変な話だが。



「東雲兄妹はこの後どうするっすか?」

「まだ何かあったか? 自由解散だと思っていたけど」

「そうなんすけどほら、学生工房の見学ができるっすよ」



 学生は何処かの工房に所属しなくてはならない。学生でもたった1人で構成される独立工房も作ることが出来るが2年次からと決まっている。

 1年の内は上級生が管理する工房に入らなくてはならない。



「じゃあ探さないとね。麻里ちゃんは候補あるの?」

「ないっすね。武器も作りたけど身体もいじらせてもらえるところがいいっすね」

「場所によっては全く触れない所もあるらしいな」

「工房ごとにやり方がありますからね。縛られるのは好きじゃないっす」



 工房には行動指針ある。工房長と呼ばれる代表が指針を決め、賛同した者が工房員となる。もちろん試験を課す所もあれば来るもの拒まずもある。



 学生工房を作る理由は将来、蒸技師としての活動をする工房の動きを覚えるためだ。工房には依頼が舞い込む。

 新しい技術開発がしたい、設計図を探してほしい、または作ってほしい。警備として蒸技師の力がいる。



 これはまだ普通の工房の依頼だ。だが闇工房と呼ばれるところでは非人道的な依頼が舞い込む。

 暗殺、設計図の窃盗、組織の破壊工作等。



 実力のある工房はこれら闇工房と戦闘になる依頼だってある。だからこそ、工房によって指針が違う。自分たちが出来る範囲で扱う依頼を選別している。

 学生工房とて工房の一つとして数えられる。依頼の危険度のよって受諾出来るものとできないものがあるが基本は同じだ。



「俺も自由な工房がいいな。……入れるならば」



 葵が危惧しているのは自分の階級だ。無階級と前代未聞の状態の生徒を引き取ろうと考える学生工房が現れるかどうか。

 ともかく手あたり次第探すしかないだろうと思っていた。



「まぁ、葵は頑張るしかないっす。しかし、翠嬢は引く手あまたでしょうね」

「あ、うん。もう、いろんな所から声を掛けられているけどなんかねぇ……」

「なんだ、まだ決めてないのか」

「私だって色々考えたいの! それよりも自分の事を考えて」



 ――だって、自分だけ先に決めれないもん。



 兄が心配で自分の事は置いておきたい。心配はするなと言われてもそうはいかなかった。また一人になってしまうのではないか……と。



「心配すんなって。俺は大丈夫」



 根拠のない自身は何所から湧いてくるのだろうか。本当に放ってはおけないなと思う翠もまた兄思い(悪く言えばブラコン)の妹であった。


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