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蒸気世界のロストランカー  作者: 稚葉サキヒロ
第1章・古森美咲編
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4.工房職人の派閥

 新入生を歓迎すべく小一時間ほどで威厳ある式典は一転、祭りのような景色となる。昼時を狙ってか有志で出される屋台からは鉄板焼きの濃厚な匂いを漂わせている。



 また、学生らしく工房職人志望の研究成果の発表や部活や学生工房の勧誘に忙しく動く学生の数々。

 その中でも一際賑わっている場所があった。



 ――第一実技場。



 蒸技師を志す生徒が実技として使う円状の会場だ。中央を囲うように生徒ら(主に新入生)が座り見物をしている。目的は蒸技師志望の学生による演武が行われていた。



『次のプログラムは模擬戦です。担当の生徒は指定の場所に集合してください』

「おっ! ようやく面白そうなものが見れそうだな」



 葵と翠も実技場を覆う生徒の一人として座っていた。次にやる模擬戦目当てに早くから席を取っていたのだ。しかし、既に変な噂が流れている葵に近づく生徒は現れず綺麗に空間が出来る。



「兄さんはしゃぎ過ぎ。というけど私も楽しみだなぁ」



 模擬戦は蒸技師同士のぶつかり合い。いわば仕込みを披露する場でもある。例え学生の戦闘だとしても今回出場する生徒は3年次のトップ層が出場する。

 蒸技師、または工房職人を目指すどちらもが拝見したいプログラムだ。



「すみません。横いいっすか?」



 誰も近寄ろうとしない所にひょっこり現れた来客。恐らく会場が満席だったためか空いている席がここしかなかっため仕方なく声を掛けたのだろうか。

 ともあれ、はしゃぐ葵に話しかけたのは白いラインが入った女子生徒であった。



「確か、東雲葵君だったっけ?」

「よく知っているな」

「色々噂で聞いているですからね」

「あと、君付けはやめてくれ。気持ちが悪い」

「ではでは、葵と呼ばせてもらうっす。私は宮下麻里。麻里と呼んでくれですよ」



 軽くパーマが掛かったクルクルとした髪の毛。可憐とは程遠い麻里はどちらかというと活発な少女だろう。



「おっけ、麻里だな。あとこっちは妹の翠だ。仲良くしてやってくれ」



 葵を挟んで隣にいる翠はニコッと手を振る。



「もちろんっす。あと、翠嬢は主席入学だから知っているですよ」

「やっぱり有名人かぁ。さすが俺の妹だ」

「もう、勝手に自分の功績にしないの! 麻里ちゃん、よろしくね」

「こちらこそ。ところで翠嬢はやっぱり蒸技師志望っすか?」



 目を輝かせながら前のめりで話し始める麻里は葵のことはお構いなしだ。当然、葵の膝の上に乗りかかりそうなぐらいに接近している。



「う、うん。そうだよ。もしかして麻里ちゃんは職人志望かな?」

「そうっすよ。私は根っからの職人一本ですから」

「となると俺と一緒だな。ちなみにどっち派だ?」



 職人にも大きく分けて二つの派閥がある。



 元々、古くから行われている仕込みは古代より使われてきた武具そのものに仕込むものであった。仕込み武器と言われ多くの蒸技師が利用している。一般販売やオーダーメイド製も作れることから多くの蒸技師を相手に活躍の機会がある。



 一方の派閥は身体仕込みと呼ばれ身体に直接仕込む方法がある。蒸技師にとって生身であることよりも仕込みを作ることによって相手の死角に付け込むことが出来る。

 しかし、身体仕込みを専門とする職人の場合は数人の蒸技師の専任になることが多い。その分、密ある仕込みを作れることから優秀な職人は引く手あまただ。



「私は仕込み武器ですね。武器にこそロマンを感じるですよ」

「俺は身体仕込みだ。こりゃ、いい友になれそうだな」

「ふふっ、いいっすよ。私たちは同盟を結ぶです」



 ガシッと力強い握手を酌み交わす二人。技術屋が話している間は口を挟まない方が良いと知っている翠は黙って見守っていた。



(やっぱり職人って仕込みの熱が違うなぁ)



『まもなく模擬戦が開始されます。安全のため防護壁を張りますのでお待ちください』



 アナウンスが入ると観客席の前には透明なドーム状の壁が現れる。(観客席ではなく闘技場だけを囲んだ)



 次の瞬間、歓声が沸く。

 多くの生徒(特に在校生)が注目するのは3年次にて蒸技師第4階級を持つ天才少女、古山美咲だった。



 背中まで伸びる髪にくっきりとした顔のパーツ。特にキリッとした目つきが特徴的だ。

 細身の刀剣、サーベルを腰からぶら下げての登場だ。



(ふんっ、一体相手は誰かしら?)



 美咲は自分の実力に自信があった。自他ともに求める才能に恵まれ、将来を約束された蒸技師。自分がどんな相手が現れても負けるはずがないと余裕の表情だ。

 凛として高圧的な雰囲気と顔つきに魅了された生徒ら(特に女子生徒)はうっとりする。



「うわぁ、綺麗な人だなぁ」



 翠でさえも息を漏らすほどの美女だ。葵はどちらかというと顔や雰囲気などはどうでもよく仕込みが何かワクワクして溜まらない様子だ。



 古森の対極に位置するのは男子生徒。綺堂礼二。彼は蒸技師第3階級と3年次では標準ではあるが2年次に取得をしている実力者である。目つきは悪く触れれば噛みつきそうな男だ。

 綺堂は約2メートルの槍を持っての登場。麻里の顔を見れば仕込み武器であることが一目で分かるだろう。



 歓迎会のプログラムとして用意された場ではあるが両者とも勝ちにこだわる武闘派であることは溢れる威圧が物語っていた。



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