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蒸気世界のロストランカー  作者: 稚葉サキヒロ
第1章・古森美咲編
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29.蒸気の境界

僕は漫画を余り買いませんが最近、寄宿学校のジュリエットと言う漫画を買いました。少年マガジンが出す恋愛物は中々いいですね。山田君と7人の魔女とか好きでしたのでジュリエットを見かけた時は即買いしてしまいました。

ちなみに蓮季ちゃんが一番可愛いと思っています。

 アリスは懐から小さなナイフを取り出した。刃渡り10センチもない物だが生身には長さなど関係せず流血を伴うのに十分だろう。



「あら、これだけとか思ったでしょ。私の獲物は昔からこれだけよ」



 サーベルと打ち合うには不十分であることを考えるとそれだけナイフを扱うのに自信があるか、そもそも打ち合うことを考えていないかだ。

 古森は考える。アリスの仕掛けてくる行動はどちらか。



「まずは手始めに……」



 後者だ。音を頼りにアリスがいるであろう箇所にサーベルを薙ぎこむ。

 一度だけ刃物が交わる音。



「……よくわかったわね」


 認識した時には距離を取って前方に立っていた。



「あなたはそうして消えてくると思ったのよ。何度も見せてもらったわ」

「適応能力はあるようね。さすが天才」



 その言葉は称賛の欠片もなく皮肉そのものだ。


 一度は成功するが気は抜けない。体に触れる直前に弾き飛ばせたから傷つくこともなかった。次はうまくはいかないだろう。



 そして、一つ疑問があった。

 アリスが仕込みを利用して近づいてくるのは当然だがなぜそれに気が付けないのだろうか。触れたと思ってもそうではない。古代の仕込みの恐ろしさはこれだけではないはずだ。



「ふふっ、なら次はどうかしら?」



 再び目の前から姿を消す。

 古森は神経を集中さえ視線を左へ右へと交差する。耳を澄ませ近づく足音を頼りに防ごうと考えた。



 ——————音が聞こえない?



「あぐっ!」



 左脇腹に激痛が走る。目を向けると一筋の切り込みの跡があり血が流れ出る。咄嗟に左手で傷口を抑え止血する。滲み出る血は手に染み込み隙間からポタポタと垂れていた。



「切られた感想はどうかしら?」



 血濡れたナイフを小さな下で舐めている。まるで昔に味わった味を思い出すかのようだ。


 『消音歩行サイレント・ステップ』。アリスは直接戦闘するのに向いていない分、相手の意表を突く戦いを得意とする。それも仕込みの相性を合わせた結果、『消音歩行』が取り分け有効となる。

 現に姿を消し、無音に近づくその様は暗殺者と呼ぶに相応しい。



「これぐらい平気よ」

「強いのね。でも、これだけで終わらせないわ」



 口では強気の姿勢を保つが痛みは増して行き左手を離すことが出来ないでいる。もう一度、刃が体に触れるとなると古森は耐えられるのだろうか。


 再び、アリスが動く。今度は消えずに実態を晒したまま高速で古森に詰める。脇腹の傷に耐えつつもサーベルを構え相打つ。

 何度も繰り返される金属音。リーチが長い古森に分があるはずだがアリスの洗練された動きは余裕をもって古森に対処できる。


 歯を食いしばった。今までどれほど自分が鍛錬を重ね、常に一番を目指してきたとしても目の前にいる少女に敵わない。遊ばれていると思うのだった。



「鈍い。鈍いわ。これが天才だと思わないわ。あなたは凡人よ」

「何とでも言いなさい。私は……私を貫くのみ!」



 古森美咲は戦いの中で自分の存在を見出そうとした。結局は自分より格上の存在相手では天才は霞んでしまう。如何に狭い世界を見てきたことを痛感した。


 だが、しかしだ。自分が、古森美咲がやって来たことを否定したくなかった。天才と呼ばれる存在として努力をしてきた物を失いたくない。証明する為にもこの戦いを負けるわけにはいかない。



「私は……、天才でないのかもしれない。でも、私は私を否定したくない。それが蒸技師としての意義。私の進む道よ!」



 勢いよく払いのけるとアリスは距離をとった。



「……そう。いいわね。とても、とても、とても……。ははっ……、あははははっ!」



 アリスの笑い声は徐々に大きくなる。目を開き、口を大きく開けてあざ笑うかのように。



「そんな綺麗ごとは聞きたくない。何が否定したくないだ! どれほど否定されて、苦しい時に手を伸ばさない。でも、……だけは、……だけは」



 小さく誰かの名前を呟いた。それは古森の耳には聞こえない。



「私は何としてでも設計図を手に入れる。私がどうなろうと構うものか!」

「させない! それは蒸気機構が定める禁域。蒸技師である私はあなたを通すわけには行かない!」



 サーベルの切先をアリスに向ける。妖艶な笑みを浮かべていたアリスの顔は何所にもなくおぞましいほど歪んだ表情だ。



「邪魔だ。お前が私の足元にも及ばない」

「でしょうね。でも、引かないわ」

「なら押し切るまで!」



 ――速い!

 そう思った時には腹部に強烈な打撃が加えられている。


「か……はっ」



 空気を求めて息を吸う古森はそれがままならず苦しみにもがく。地面に転がる古森に追い打ちを掛けるように更に蹴りを入れたアリスは古森の頭を踏みにじった。



「口は達者。だが実力が伴わない。所詮、その程度。勇気に免じて命は取らないわ」

「……待て」



 意識が朦朧とする中、アリスのスカートを掴む古森。弱弱しくもしっかりと握った左手手は振り払って離れることはない。



「離しなさい」



 ナイフで手を切りつける。声にもならない絶叫が辺りを響かせた。

 うずくまる古森を見る目は非常に冷たい。弱者に救いがない世界。アリスは昔の自分を見ているようだった。



「あなたには何も出来ないわ。身の程をわきまえなさい」



 アリスは古森を背にし、校舎へと向かおうとした時だった。



「……まだやる気ね」

「はぁ、はぁ……」



 息が荒い古森はアリスの背を狙うように切り付けるが受け止められてしまう。満身創痍、だが、目はまだ死んではいない。



「どうやら死にたいようね。ならお望み通りにしてあげるわ」



 距離を取る古森。身体はふらつき、サーベルを杖の代わりにするほど意識が朦朧としている。



「ふふっ……。どうやら敵わないみたい。だけど、最後に一太刀だけでもあげるわ」



 古森はそう言った。


「何を言って……」



 駆動音。それは古森美咲の脚から鳴り響く音。大地が僅かに揺れるほどの響は仕込みの限界を超える証。



蒸気の境界(スチーム・オーバー)……。ふふっ……なるほど。それが使えると言う事は天才も伊達ではないわね」



 仕込みの極限を越え、異常なまでに稼働させる。仕込みの奥義中の奥義。


 一度使用すれば一定時間後、冷却時間を必要とし、敵を前にすれば実質敗北。滅多に使わないことや使用するに耐えられる強靭な肉体が必要。古森美咲はそれをやってのけたことに対するアリスの賞賛は偽りのないものだった。



「見せましょう。私の究極奥義」


主人公どこ行ったと僕も思っていますが古森美咲について書きたいのでこのまま押し切ります。もちろん後から出てきますけどね。

そろそろ終わりが見えて来ましたので第2章について。考えていることは1人称で書いてみようかなと考えています。ラノベを目指しているので次は意識して書きたいと思っています。


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