28.欠陥のある奥義
コミケ3日目が終わりました。
もうクタクタですが創作意欲が高まった3日間でした。
実は3日目はコミケだけでなく別のイベントに行きましてTwitterで仲良くさせていただいている方たちに出会う機会があったのですが何分顔が分からず時間が過ぎてしまい合うことが出来ませんでした。
まぁ、また何処かで合えるといいなと思います。
——オーゼル学園
その夜は雲がない満開の星空。星の一粒一粒がくっきりと見えるほど輝きその中でも満月は煌々と大地を照らしていた。風は吹き、ざわめき始める木々たちはまるで今から何かが起こるのを察知して騒いでいるようだった。
本来なら誰も居るはずがない時間。街灯だけが無人の学園を彩るはずだが違った。
腕を組み、目を閉じて神経を集中させる少女。艶やかな長い髪は腰まで伸ばしくっきりとした顔立ち。腰に愛用のサーベルをぶら下げ彼女の足は『瞬身、遥かへの進脚』と呼ばれる現代の世界で作られた仕込み。目にも留まらぬ速さこそが古森美咲が最強とされる所以だ。古森は設計図を保管する棟の入り口でこれから現れる人物を待っていた。
なびく髪を気にすることもなくただ静止するのみ。今か今かと待っていた。
「あら早いのね。待たせてしまったかしら?」
不敵な笑みを浮かべる銀髪の少女。真っ黒なリボンに赤いコルセットという変わった服装をしている。短いスカートは風で見えそうになるが本人は隠す様子もない。
「私も今来たところなの」
「そう、なら行きましょうか」
アリスは古森の横を通り過ぎようとする。だが、あと一歩で真横に差し掛かる時歩みを止め、不機嫌そうな顔で古森を睨む。
「……一体何の真似かしら?」
声色は鋭い。
アリスの首元には古森が抜いたサーベルの刃が触れる寸前であった。
「私はすべきことをするだけよ」
「ふ~ん。何をするのかしら?」
「蒸技師としてあなたを止めるわ」
「はぁ……」
アリスはため息をついた。くるっと古森に背中を向けた瞬間。
——衝撃。
蹴りが古森の懐を直撃する。咄嗟に防御した古森は支える足を少しばかり後方に引きずられながらも耐えきる。
「裏切りは嫌いよ。もう一人でやるからどいて頂戴」
滲み出る殺気。体は小さくとも元第7蒸技師だったアリスの気迫は凄まじいものであった。
「断る。機械の心臓は禁忌。蒸気機構によって定められているわ。ならば蒸技師である私はあなたを食い止めなくてはならない」
サーベルを構える。気を抜くことはできない。アリスの戦闘能力は未知数でありどのような手を使うか分からないのだ。
「そんなどうでもいい機構に縛られて。近づく死を受け入れろと。美咲、あなたはそう言うのと変わりない」
「……私はあなたがどのような人生を送ったのか想像がつかないし多くのことを見ていない。だから私は目の前で起こることに正しいと思ったことやる」
「ならば教えて頂戴。何が正しくて何が間違えているのかを。……どうせあなたにも分かるはずもないのだけど」
ため息を着いたアリスは目を閉じる。彼女から次第に駆動音が聞こえ始める。
少しづつ、少しづつ、途中で空気が抜ける音を出し更に大きくなる。
その姿に古森は歯を食いしばり額から流れる汗が頬を伝い顎へと流れる。
感じる恐怖。強大な敵を目の前にしていることを実感しているのだ。
「さぁ、ぶつけ合いましょう。互いの正しい行動をね」
——消えた?
「気が付くのが遅いわ」
「……つぅ」
気が付けば消える。いや、微かに残る煙が目についた時には目の前で認識をする。瞬間的に判断しアリスの蹴りを防ぐしかない。ただ、神経を尖らせている今はできることで会って摩耗してしまった場合防ぐことはできない。
「あなたは速さが取り柄の仕込みよね。でも、私より遅い。さぁ、見せてみなさい。あなたの本気をね」
余裕がなければ古森から視線を外して首を振ることもない。アリスの圧倒的優位であることは既に分かっている。
持久戦に持ち込めば古森が更に不利になるのは明白である以上、短期に決する必要がある。
「ならば見せましょう。私の一手を。電光の如く駆ける姿を目に焼き付けなさい!」
瞬きをする僅かな時間で相手の懐に入り、速度に任せてサーベルで切り込む。一撃必殺の奥義。
「制限解除。獰猛なる狩りの神脚」
鼓動する脚。それは古森が誇る最強の仕込み。凄まじい風圧は辺りの木々を大きく揺らし直撃するならば相応の破壊力を有する。
だが、アリスは笑みを浮かべた。
「……なぜ!?」
古森のサーベルは空を切った。確かにアリスの胴を目掛けて直撃したはずなのに感触がない。ただ、踏み込んでサーベルを振りぬいた結果に終わった。
「その技は欠陥ね」
古森の背中を抱き着く形でアリスは姿を現した。咄嗟に振り払い距離を取る。
「そんなに嫌がらなくてもいいのに」
「なぜ当たらない。まさか避けられるなんて言わないでしょうね」
「ふふっ。確かにあなたの技は今まで見た中で1、2を争う速さね。でも全然だめね」
こぼれる笑い声。
「何がおかしい」
「面白いもの。あなた、自分の速さについていけていないでしょ?」
「そんなことは……」
「だって、真っ直ぐしか走れないでしょ?」
「……くっ」
図星だった。真っ直ぐのみで今まで打ち勝ってきたからそれ以上を必要としない怠慢がこの結果を招いた。自分の速さを認識できるのだろうか。神経を集中させればもしかすると可能かも知れない。だが、使った場合、疲労で倒れる可能性もなきにあらず。
「もう遊びに付き合うのも疲れるわね。天才と言われるあなたがどんな面白いことをしてくれるか楽しみにしていたけどもう飽きたわ」
言い返す言葉もない。
「次はこちらから行くわ」
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