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蒸気世界のロストランカー  作者: 稚葉サキヒロ
第1章・古森美咲編
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16.翠のスカートの中は……

 昼時になると学生食堂は賑わい始める。

 葵と麻里は翠と合流し、光が差し込める食堂の角に陣取った。



「聞いてください翠嬢! 葵ったら凄かったのですよ!」

 開口一番に麻里が興奮気味に切り出した。



「まぁまぁ落ち着いて。どうせ居眠りとかしていたのでしょ?」

「なんだよその言い方は」



 聞き捨てならないと言わんばかりに反論するが

「兄さん。寝ていたでしょ?」

「……はい、寝ておりました」



 ニコリと笑みを崩さずに隣に座る葵に向いた翠は何処か恐ろしさを感じる事だろう。



「そのことなんすよ。寝ていたと思ったら先生の質問には答えられるとかすごいっす。私、座学はからっきしなんで憧れます!」

「兄さんはこう見えても頭も良いからね。ほんと、たまに腹が立つけど……」

「こう見えてもって。俺はどんな風に見えているんだ?」

「「馬鹿」っす」



 翠と麻里は口をそろえて同じことを言う。それを聞いてがっくりと項垂れるのであった。



「でも、頭がいいのに何で無階級なんすかね?」

「さぁな? 俺が聞いてみたいさ」



 首を振った葵は麻里の疑問には答えることが出来なかった。



「そういえば翠嬢だけがクラス違ってしまいましたね。残念っす」

「仕方ないよ。二人は職人、私は蒸技師志望なんだから」


 とは言う者の残念そうな雰囲気を醸し出している翠なのだ。葵は何か言ったら後でブツブツと文句を言われそうな事を察して言葉を発せずに食事を口に運ぶ。



「でも、まさかクラス決め初日から授業とは思わなかったよ。しかも、いきなり実技だったから疲れちゃった」



 翠は肩に手を当てて凝った肩をほぐしていた。



「なんだ。そっちのクラスはもうそんなことしているのか」

「うん、何でも夏の試験には実技の順位もあるからね」

「あぁ、そういえばそんな事話していたな。俺らは職人だからそれほど気にはしないものだけど」



 オーゼル学園には実技と座学の2つが課せられている。もちろん双方ともに成績が良いことに越したことはないが蒸技師は実技を、職人は座学の成績が優先される。

 無論、その成績は蒸気機構に送られ、各蒸技師階級に満たしているならば免許が付与されるというのが習わしだ。



「でも兄さん。職人志望の人も実技はやらないといけないんだから。それも、学年は関係なく誰かと模擬戦をやらないといけないんだよ」

「えっ? それマジで言ってんのか?」

「葵……。なんでそこを聞いていないんすか」



 呆れ顔の麻里と翠。どうやら、葵のみがそれを知らないとなると話を聞いていなかったということなのだろう。



「んじゃ、俺と翠が相手になるかもなっ!」

「や、やだよっ! 兄さんとはやりたくないっ!」



 冗談で言ったはずなのになぜ全力で拒否されとなると心が痛いらしく胸を抑えていた。



「兄ちゃんは悲しい。大切な妹にそこまで言われるとは……、ぐすん」

「だって……」



 翠は口をモゴモゴとしている。前に座っている麻里ですら聞き取れないほど小さな声だ。



「そこまで嫌なもんなんすかね?」

「嫌だよ。麻里ちゃんも兄さんと相手してみれば分かるからっ!」

「へー、葵氏。一体何をやらかしたらここまで拒否されるんすかね?」



 興味津々な麻里はにやりと笑う。



「いや、な、たった一回、興味心からしたわけであって……」

 葵も口にするのがまずいのか翠同様、モゴモゴとし始めた。



 麻里は笑いながら、

「まさか、妹に卑猥な事を働いたり……。なーんてことないっすよねっ! いやー、すまないっす。冗談で言った……わけで……」



 麻里の言葉の最後は徐々にぶつ切りとなっていった。その理由は正面の葵の顔が真っ青になり始めたからだ。



「ははっ……。まじすか?」

「に、兄さんの馬鹿! あの時はたまたま違ったのに!」



 なぜか顔を真っ赤にした翠は立ち上がり何処かへと行ってしまった。

 何が起きたのかさっぱり分からない麻里はポカーンと口を開いていた。そして、落ち着きを取り戻し、優しく囁くような声で、


「旦那……、一体何をしたんすか? 私で良ければお話を聞きましょうぞ」

「……紐パン」

「……はい?」



 麻里は聞き間違えたと思い再度尋ねた。



「……紐パンだった」

「……どさくさに紛れてスカートの中を覗いたんですね」



 コクリと頷いた葵は黙ったままだった。



「あれっすね。可愛い妹が思春期にどんなパンツを履いているのか確認するという異常なまでのシスコンぶりを発揮したわけですね。全く、葵はとんだ変態さんですね」


(しかし翠嬢。紐パンだとは思わなかったっす)



 言い返す言葉がない葵は妹が普通の下着でなく、大人の下着を履いていたことに心底驚いたのであろう。自分が知らない間に大人になってしまったことに嬉しい気持ちの反面、悲しい気持ちを抱く保護者のような感覚に陥っていた。



「女の子の下着が見たければ私は構いませんよ。気にしませんし」

 元気づけようと冗談で言ったが不発だったようだ。



「葵。後で、翠嬢のご機嫌を取るんすよ。いいっすね」



 まるで機械の様にコクリコクリと首を縦に振る葵の姿を見て麻里は

(しっかし、仲がいいのか悪いのか分からないっすね。でも、翠嬢も葵を慕っていますしよくわかんねぇっす)



 ともかく、東雲兄妹と一般的な感覚で接していては常識が崩壊しそうな予感がした麻里は二人を心の中で変人と位置付けることにしたことは誰も知らないことだろう。


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