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Wizard of Diaster  作者: 巡
第三章 群像刹那
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第01話『純情緋恋 -Fragment of "Sia"-』

秋ノ刻(アウタム)11月(ノーヴデカ) 11日(ユノディス)



「――、」


 眼が、覚めた。

 重い瞼を開け、視界が徐々に明瞭になる。

 次に自己確認。ここはどこで、わたしは誰か。

 わたしはいま、確かにここにいるのか。

 それらを、刹那の内に確認する。


 そこまでおこなって、はじめて。

『シア・シーベール』という少女の意識が、覚醒する。


 ……なつかしいゆめを、視ていた。

 遠い昔日。わたしの原風景。

『シア』という少女が、真の意味で生まれた、あの頃の記憶。

 この記憶を、わたしは忘れたコトなんて一度もなかった。ううん、忘れるコトなんてできなかった。だってそれは、わたしにとって、あまりに大切なモノだったから。

 わたしがわたしで在る限り、忘却なんてありえない。

 あの日々を抱いて、わたしは、彼と再会する日を願っていたのだ。


 ……そうして、再会した彼は。

 記憶を、失っていたけれど。


 でも、そんなコトは、これっぽっちも関係無かった。

 確かに、悲しかった。

 どうして、と。思ってしまった。

 わたしにあって、あなたに無いモノ。

 その差が、生まれてしまったコトが……とても、つらかった。


 ――けれど。

 記憶を無くした彼と接していくうちに、気付いたの。


 彼は、そんな差で、変わらないと。

 わたしが大好きなひと。わたしの愛するひと。

 彼は――シオン・ミルファクは、記憶が無くても変わってなどいなかった。

 どこまでもお人好しで、不器用で、やさしい。

 そんな少年が、あの日と変わらず、わたしの前に、いたのだ。



 ――あぁ、だからこそ。

 わたしは、決意した。


 ――今度は、わたしが。

 あなたがわたしを連れ出してくれたように、今度はわたしが、あなたの手を引っ張ってあげようと。

 そう、決めたのだ。


 喪くしたモノは戻らない。

 喪くした過去モノに囚われるより、新しい未来モノを掴んでいったほうが、きっと楽しいから。


 ――そうして、彼が進み、その本懐を遂げたとき。

 彼は、言ってくれた。



『先輩――僕は、あなたのことが、好きです』



 嬉しかった。ううん、そんな言葉じゃ足りないくらい。

 心臓の鼓動がうるさくて仕方なかったコトを覚えている。

 顔が熱くて、真っ赤になって。

 ただただ、ひとつの感情に、わたしのすべてを支配された。


 ……だって、仕方ないじゃない。

 長年の想いが、実った瞬間だったんだもの。

 ずっとずーーっと大好きだったひとに告白されて嬉しくない女の子なんて、絶対いないわ。


 ……それに、あの瞬間は、『約束』が果たされた瞬間でもあった。

 約束を違えることなく、彼は、迎えに来てくれた。

 わたしはきっと、あの日のことを、忘れない。



「……もう。朝からなんでこんなにドキドキしちゃうのかなぁ」


 原因なんて、わかっているけれど。

 でも、そんな些細なコトで頬が緩んでしまう。

 思い出しているだけなのに、彼のことが。


 たまらなく、いとおしい。


「――」


 寝台から降り、立ち上がる。同室のフィリアはまだ寝ている。もう少し、寝かせてあげよう。


 窓を開ける。冷たい風が、肌に触れた。

 ソラを染める色は蒼穹あお。朝の陽が、穏やかに地を照らしている。


「うん――今日も、いい天気」


 今日も、いい一日でありますように。



* * *



「フィリアー? 準備できたー?」

「はっ、はい! すぐ来ます!」


 朝の支度が終わり、学院へ向かう時間。

 わたしは玄関で付き人のフィリアの支度を待っていた。

 王女という身分ではあるけれど、わたしは付き人のフィリアと一緒に、ライナリア魔術学院の寮に住んでいる。

 表向きは、王女として様々な経験を積むとか、通学のためとか、そういうのだろうけど……わたしとしては、こっちの方が気が楽だった。


 いえはなんというか、息苦しくて仕方なかったから。

 正直、あの場所から出れて嬉しい自分がいる。



「お、お待たせしました、シアさま………!」

「もう。別に慌てなくてもいいのに。ほら、髪乱れてる。ジッとして? 整えてあげるから」

「あぅ……申し訳ありません」

「相変わらずそそっかしいわね、あなたは」


 苦笑しながら、フィリアの髪を整える。

 彼女とは、わたしの付き人となってから、長い時間を一緒に過ごしてきた。それこそ、互いの本音を語り合うくらいには、仲が良い。

 ただの主従関係では形容できない。

 フィリア・クロヴァーラは、わたしが『素』のままでいられる数少ない友人で。


「シアさま? どうかされましたか?」

「んーん。なんでも」


 ――きっと、『親友』って呼べる関係なんだと、わたしは思う。


「はい、終わったよ」

「あ、ありがとうございます……」

「いえいえ。じゃあ、行こっか」

「はいっ」


 部屋の鍵を閉め、わたしとフィリアは寮を出発する。

 がらんとした街道。日中は人の波で満たされるこの街も、やはりこの時間は波が引いている。

 白や肌色でまとめられた明るい街並み。そこかしこに設置されている、数々の魔道具。

 見慣れた景色。いつもの光景。

 それを視界に映しながら、わたし達は進む。


「そういえばシアさま。私、今日の放課後、用事があるので一緒には帰れないですけど、大丈夫ですか?」

「全然だいじょうぶだよ。それより、フィリアが用事って珍しいね」

「ちょっと知り合いに呼ばれまして……」

「王国魔導師団の人?」

「間違っては……ないです」


 歯切れの悪い答え。それでなんとなく、フィリアが誰に呼ばれたか察しがついた。

 そして、そこから起こるであろう展開のことも。


「ふふーん。なるほどね」

「な、何がですか……っ」

「いえいえ。遅くなっても大丈夫だから、ゆっくり用事済ませておいで」

「うぅ……なんか納得いかないですけど、ありがとうございます」


 帰ってきたら何があったか聞かせてほしいところではあるけど。

 主と付き人。しかし端から見れば友人同士の会話を交わしながら、学院への道を歩く。

 びゅう。風が、少しだけ強く吹いた。


「だんだん寒くなってきたねぇ」

「そうですね……もうすぐ、冬の刻ですから」

「ほんと、月日が流れるのは早いなぁ」


 本当に、そう思う。

 秋の刻は徐々に終わりへ向かい、入れ替わるように冬の刻が準備を始めつつある、今日この頃。

 流れゆく時に想いを馳せながら、わたしはあるコトを思い出していた。


 ――イルちゃんとの出逢いから、はやくも一ヶ月近くが経とうとしている。

 霊獣国テヴィエスの最高存在、『光の巫女』。その当代である、イルという少女を中心とした物語。

 あの出来事は、いろんな意味で、わたし達に変化を与えた。


(――天辰理想教アルカディア、か……)


 なぜ、かの組織がわたし達に接触してきたのか、その理由は判らない。

 ううん、わたしというより……目的は、イルちゃんだった。

 そして、わたしの大事なひとも。


「――、」 


 ……なにか、大きなコトが動きだそうとしている予感がする。

 静かに廻る歯車。わたし達が想像できない、壮大な何かが、陰で蠢いてるような気がしてたまらない。



 ――――まるで、わたし達とイルちゃんが出逢うコトは、既に決まっていた(・・・・・・・・)かのような。

 あるいは、そう仕組まれた(・・・・・・・)かのような。



 イル・ドゥ=テヴィエスという少女と、わたし達が出逢うコトに、『意味』があったから、わたし達は出逢った。

 ……こんなモノは、すべて憶測だ。考えるコトに意義はあっても意味はない。


 だから、ひとまずはこれで終わり。

 気付かず内に潜っていた思考の海から、わたしは浮上する。

 意識を現実に向けると、既に学院の近くまで来ていた。精神いしきは別の所に向いていても、身体はどこへ向かうか記憶しているらしい。人体の神秘ね。


 校門をくぐる。校舎へ向かう生徒達の波に混ざり、わたし達も歩みを進めた。

 これもまた、いつもの光景。

 だから、安心できる。



「あ――……」


 ――そして、見付けてしまう。


 顔が綻ぶ。

 頬が緩む。

 心が、高鳴る。

 何十、いや、百に近い数の人波で、わたしはその姿を見付ける。


 ……無意識に、探していたのだろう。校門をくぐった瞬間から。


 その少年は、彼の親友達と並んで歩いていた。

 互いにふざけあって、笑い合っている。

 ありふれた光景だろう、それは。

 けれど、彼にとって、その『ありふれたモノ』こそが、何よりも願っていたもので。

 彼が、その日常を元のカタチに戻すまで、血の滲むような努力をしたことを、わたしは知っている。


「……いいんですか?」


 フィリアが、わたしに問う。目的語を省いた問い。けれどわたしには、その問いの真意がわかっていた。

「……うん。いまは、いいかな」


 きっと、今わたしが向かうのは、彼らにとって邪魔になる。

 今、彼にとっての刹那しゅんかんに、わたしは、不要だ。


「そっちこそ、いいの?」

「……私も、シアさまと一緒ですから」


 穏やかに、フィリアはそう言った。

 そんな彼女の姿に、わたしは笑う。


「いこっか」

「はいっ」


 それ以上は言葉を続けず、わたし達は再び歩き出した。



 * * *


 ――とはいえ、その刹那が過ぎ去れば話はべつ。

 ここからは、わたしの番なのです。


 * * *



 昼休み。午前の授業が終わり、一時的に学院ろうごくから解放される時間。ほんの一時の休息を無駄にしないと言わんばかりに、ほとんどの生徒が自分のしたいコトをしている。

 そんなわたしも、ご多分に漏れない人間なわけで。

 したいコトをするべく、わたしは学院の二階――つまりは、二年次生のエリアまで来ていた。


「シーオンくんっ」

「わっ……!」


 見付けた背中に気付かれないよう、そっと近づき、声をかける。すると、彼はとても驚いた声をあげて(かわいい)、わたしの方へと振り返った。


「し、シア……じゃない、先輩! いきなり何するんですか!?」

「いえいえ、可愛い後輩を見付けたので、驚かせようと思っただけです」


 ほんとは探してたんだけどね。

 もちろんそんなコトはおくびに出さず、いたって普通に会話する。年上たるもの、常に余裕を持たないと。

 不意に、周囲がザワつき始める。

 いったい何か、と思ったけど、理由はすぐに判った。


 ここは学院の――しかも、わたしの学年じゃない階の廊下だ。そんな場所に、王女たるわたしが、男子生徒と楽しげに会話している。

 最近は忘れかけていたけど……わたし達が付き合っているコトは、わたし達の友人以外、知らないのだ。


 でもまぁ、時間の問題だと思うんだけどなぁ。


「さてシオンくん。とりあえず、移動しましょうか」

「えっ……ちょ、シア先輩っ。急に腕引っ張らないで!!」



 ――だって、わたしがこういうコトしちゃうから、勘の良い人は察すると思うし。


 そんなことを考えながら、わたしとシオンくんは廊下を後にした。



 * * *


 ギギィ、と。軋んだドアの音が、響いた。

 雲一つない青空の下、開放感のある屋上まで、わたし達は足を運んでいた。

 他に人は誰もいない。完全に、隔絶されている。

 無言のまま、わたし達は日陰になっている場所まで移動し――もちろん、扉に鍵をかけておくのは忘れない。鍵はこっそり複製つくったものだ――腰を下ろした。そのまま、もたれかかるように、壁に背を預ける。



「――で、なんで、わざわざ僕のところまで来たの?」


 シオンくんの口調が変わる。かつてのような先輩後輩の、他人行儀なモノではない。もっと親密な、近しいモノ。


「んーん。ただ、朝会えなかったからなぁって」

「あー……今朝はロート達と一緒だったから」

「知ってる。だから声かけなかったんじゃない」

「……うん、知ってる(・・・・)。だから、ありがとう(・・・・・)


 不意に、シオンくんは笑いながら、わたしにそう告げた。

 その言葉の意味を理解した途端、わたしは急に恥ずかしくなった。


 ……だってそれは、あの時、シオンくんはわたしに気付いてたってコトで。

 わたし達は言葉を交わさなくても、お互いの姿を認識してたってことだから。

 だから彼は、わたしに『ありがとう』と告げたんだ。

 わたしの気持ちを、理解してくれてたから。


「っ……ずるいなぁ。そういうコトしちゃうんだ、キミ」

「普段からやられっぱなしだからね」

「……なんか最近のシオンくん、生意気」

「そう?」

「そうだよ。前はもっとされるがままって感じだったのに」

「………今も変わらない気はするんだけどなぁ」


 他愛も無い会話を、わたし達は交わす。

 なんでもない日常いつもの会話。

 すっかり当たり前になってしまったモノを、わたしは噛みしめるように過ごす。


「……ね、シオンくん」

「なに?」

「最近、どう?」


 目的語を省いた問い。それだけで、シオンくんには伝わったのだろう。彼は少しだけ笑いながら、口を開いた。


「……ぼちぼち、ってトコかな。前よりは良くなってるって思いたいけど」

「今度試してあげよっか?」

「シアには勝てる気がしないから遠慮しておこうかな」

「むぅ。なにそれ」

「褒めてるんだよ」


 軽口を叩いきあいながら、彼の近況を教えてもらう。


「勝手な想像だけど、オルフェ先生って厳しそう。特にこういうのって、凄く張り切りそうだし」

「概ねその想像は合ってる、ってだけ答えておこうかな。――でも、やっぱり先生はすごいよ。さすがは《王級魔術師レクシス・ウィザード》。学ぶことが沢山ある」

「だからこそ、特訓の相手にオルフェ先生を選んだんでしょ?」

「まぁね。……とはいえ、頼めそうな相手もオルフェ先生しかいないんだけど」


 ――そう。イルちゃんが帰国して以降、シオンくんはオルフェ先生に師事を請うていたのだ。

 理由は詳しくは教えてもらってないけど……察するに、あの戦いが、彼の心に変化を与えたのだろう。


揺光の星(アルカイド)》カタストラス・ヘプター――あの男がもたらした影響は、決して小さいモノではなかった。


 だからシオンくんは、オルフェ先生に師事を請うた。

 強くなるために。


「特訓って一概に言うけど、具体的には何してるの?」

「座学と実践、これの繰り返しかな。ひとつの技術を会得するために、その理論を徹底的に学ぶ……みたいな」

「――なるほど。要は、基本的には授業と変わらないのね」

「そうだね。違うのは、その密度ってとこだけど」


 そう言って、シオンくんは右手を前にかざす。そして――



火属性魔力収束コンヴェルジェ・フェグニア――起火イグネイト




 小さな、今にも消えてしまいそうな焔を、発生させた。


「……《魔力収束コンヴェルジェ》」

「うん。まだまだ完成度は低いけど、普通の状態でも、ここまで出来るようになった」


 魔術という異能体系において、高難度とされる技術――《魔力収束コンヴェルジェ》を、シオンくんは未熟ながらも扱えるようになっていた。


「すごいね。もうそこまで出来るようになったんだ」

「まぁ、シアから少し教えてもらってたしね。それもあったおかげかな」

「ううん。それ抜きにしても、すごいよ。さっすがシオンくん。わたしの彼氏おとこだ」

「っ……突然そんなこと言うの、やめようよ」

「シオンくんのそういう反応を見たくて、つい」

「……やっぱり、全然変わってなんかないんだよなぁ」


 小さく呟いて、シオンくんは苦笑う。

 そんな彼の横顔を眺めながら、わたしはあるコトを思いついた。



「……、えいっ」



 ぽすん、と。


 隣に座っていたシオンくんの肩に、頭を預ける。

 シオンくんは一瞬、驚いた様子だったけれど、すぐに理解したのか、そのままわたしに肩を貸してくれた。


 ……ほら、こういうトコとか。

 変わってないとか言うけど、前はあたふたしてたのに、すっかり慣れちゃってる。

 でもよく見たら顔が赤い。

 かわいいなぁ、もう。


「―――」


 穏やかに、時間だけが過ぎていく。


 ――痛いくらいに静かだった。聞こえるのは、風が吹く音だけ。

 まるで、世界にふたりぼっち。

 世界には、わたし達だけ。


 独りなら嫌だった。そんな孤独セカイ今の(・・)わたしには耐えきれない。

 けれど……ふたりなら。隣に、彼が居てくれるなら。

 わたしは、そんな世界でも大丈夫だろう。


(―――、って、まただ)


 ……時々、自分が『重い』んじゃないかって思う時がある。

 その、愛の方向性というか。質量というか。

 彼が好きすぎるせいで、どうしてもこういうコトを考えてしまう。

 裏を返せば、それくらいシオン・ミルファクという少年は、わたしにとって特別だいすきな存在で。

 けど一方で、引かれないか心配するわたしが居る。


(………めんどくさい女だなぁ、わたし)


 仮に、こう思っていることを知られたところで、彼は笑って済ませてくれそうだけど……うぅ、『重い女』ってだけは思われたくない。

 女の子はいつだって、好きなひとには綺麗な自分を見せたいものなのだ。


「――シア? どうかした?」

「なんでもありませんよーぅだ」


 なので、この気持ちは内緒にしておく。


「―――ねぇ、シオンくん。もうひとつだけ、聞かせて」

「……なにを?」

「……無理、してない?」


 どうしても聞きたかった問い。

 シオンくんは、自分を省みないところがある。

 己より他を優先する、優しいひと。そんな彼だから、きっと今回の特訓にも、そういう理由があるのだとわたしは思っている。

 だから、心配なのだ。彼が、無理していないか。


「……してない、って言ったら嘘になるけど。でも、大丈夫だよ」

「ほんと?」

「うん。――だって、理由があるからね。僕が頑張れる理由。それがある限り――僕は、いつだって前を向ける」

 彼の言葉に嘘は無い。真っ直ぐな本心だけが、そこにあった。

「……信じるからね?」

「嘘は言わない」

「……ん、わかりました」


 だからわたしも、その言葉を信じることにした。


「………あ」


 ――空に響く、鐘の音。

 その音を忌々しいと思う自分が、心の何処かに居た。


「……予鈴、鳴ったね」

「そろそろ、戻ろうか」


 そう言うけど、二人揃って動こうとしない――動きたくない。

 気付けば二人の手は重なって、絡み合っている。

 ぎゅっと握って、離さない。



 わたしが、離したくない。



「……あのさ、シオンくん」


 だからわたしは、こういうコトを言っちゃうのです。



「このまま……授業、さぼっちゃおっか?」

「…………王女様がそんなことしていいの?」

「いーの。人生は一度きりだからね。そんなコトで縛られてちゃ楽しめないじゃない」



 良い子の仮面なんか要らない。悪い子の仮面を被る。

 だってわたしが欲しいのは、二度と戻らない一瞬だから。

 わたしが求めていたモノが、いま、ここに在るから。



「これもまた、思い出だよ。──いつか、ずっと先の未来で。笑えるような、ね」



 ……あぁ、こういうトコが『重い』んだろうなぁ。

 なんて考えつつも、意識はたったひとりへ向いている。


「……あとで一緒に、怒られようか」

「シオンくんのそういうトコ、だいすきだよ」

「……はいはい」

「むっ。そこは『僕も好きだよ、シア』って言うとこでしょ?」

「…………ごめん、恥ずかしいから無理」

「んふふ」


 顔真っ赤にしちゃって、かわいい。


「――――」


 冷たい秋風が、肌を撫でる。

 ……もうすぐ、秋の刻が終わる。

 けれど、なにか。

 終わりを迎える前に――ひとつ、大きな出来事があったはず。



「―――――そうだ」


 あるコトを思い出した。

 ずっと言おうと思っていて、言えてなかったことを。





「――ねぇシオンくん、《創星祭アルスタ》、一緒に行かない?」


 

 いわゆる、デートのお誘いというやつ。

 


今後は月1くらいで更新できたらいいなぁって思ってます。

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