蛇足章『少年の決意/// -to the next-』
ゆえに是より先は、此度の物語の蛇足である。
狂人達との邂逅を経て、光の巫女は覚醒を果たした。
だが、少女の覚醒により、齎したモノがあった。
「―――、」
少年……シオン・ミルファクは、自室から夜空を眺めていた。
満天の星空。無数の星々が光るこの景色が、シオンは昔から大好きだった。
そんな景色を見ながら、シオンは、思う。
――あの時……僕は、イルを守るつもりでいた。けれど逆に、僕が守られてしまった。
それは、ある意味仕方の無いことだった。
シオン・ミルファクではカタストラス・ヘプターに敵わない。
しかし、イル・ドゥ=テヴィエスならば――彼に、立ち打つことができた。
これはただ、それだけの話であり……しかし、結果だけみた場合、彼がイルに守られたことには変わりなく。
ゆえに彼は、思うのだ。
――――強くなりたい。
もっと、大切なモノを守れるだけの、強さを。
……あの時、カタストラスから圧倒的なまでの"差"を思い知らされた。
"覚悟"を背負った。
けれど、"覚悟"だけでは足りなかった。
だから――強くなりたいと願う。
もし今後、非日常の存在が現われたとき。
ソレから、大切なひとをまもれるように。
少年は、星々が輝く夜空を見ながら――そう決意した。
* * *
――。
―――。
――――。
―――――――――――――………………………………。
「――なんて、これが物語だったらそんな独白が最後に付きそうだよねぇ」
暗闇と静謐が満たす礼拝堂。
狂人だったモノを運んできた狂人は、そこで一息吐きつつ虚空の闇を眺めていた。
「――終わったようね、テイルム」
不意に、後ろから話しかけられる。
振り返るまでも無く、それが誰か、テイルムは理解していた。
「やぁ、フレモニア。相変わらず冷静だね、キミは。同胞の死に何か感じるモノは無いのかい?」
フレモニア・テタルトス――天辰理想教が七星司教。そのひとりだった。
そして、在りし日に、テイルムとカタストラス、そして彼女の三人で言葉を交わした者でもあり――
「有りますとも。彼は……カタストラスは良き理解者であり、友だったわ。ゆえに……あぁ、悲しい。惜しい人間を亡くした」
「とかいってキミさぁ、『彼』から聞いてたんだから、こうなるコトは知ってたんでしょ?」
『彼』――天辰理想教が首領、イデアル・ラ・モルテの『言葉』を聞く、彼の代行者である。
「ええ、まぁ。知っていたわ。それが何か?」
「……キミもやっぱ、天辰理想教の人間なんだねえ」
「何を今更。それに、カタストラスだってすべてを理解し、それを承知の上で、己が死を是としたのでしょう?」
「ま、そこに関しちゃ同感だから何も言わないけどねー」
互いに顔を合わせないまま、言葉を交わし合う二人。
闇に紛れて浮かぶ白は、やはり、どこか不気味。
「うん――まぁ、それはこの際置いておくよ。どうせ何処かで、また語り合う機会は巡ってくるんだから。それより――キミが来たってことは、何かあるんだろう、フレモニア?」
「もちろん。――次なる筋書きを、貴方に告げます」
そして彼女は――口を開く。
その内容を聞いた途端、テイルムは、口の端を三日月に歪める。
「うん、うん――なるほどぉ。あァ、ついにソレが来たんだね。個人的に少し不満な点はあるけれど……うん、大局的に見れば面白いモノが見れそうだ」
「それは何より」
そう言って、フレモニアはテイルムに背を向ける。
「もう行くのかい?」
「ええ。次なる筋書きにおいて、尤も要を成す者に、この言葉を告げねばなりませんから」
「ふぅん……というコトは、彼か」
こくり、と。フレモニアが首肯する気配を、テイルムは感じ取った。
「しばしの別れよ、テイルム。またその時が来たら、逢いましょう」
「うん。じゃあね、フレモニア」
そして、フレモニアは歩き出す。
その足取りに、迷いはない。
やがて――孤独の静寂と闇が、再びこの場に訪れた。
小さく、狂人は呟く。
「カタリー。キミが言ったように、きっと運命の日は近いんだろうねぇ」
返事はない。当たり前だ。それでも彼は気にせず言葉を続ける。
「さぁて――次の物語は、どうなるのかなぁ。楽しみだなぁ。あは、あははっ」
ただひとつ。
純粋な狂気の嗤いが――昏い黒へ、消えていった。
蛇足章『少年の決意/// -to the next-』
蛇足章『少年の決意///運命は次の舞台へ -to the next-』




