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Wizard of Diaster  作者: 巡
第二章 霊獣覚醒
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Epilogue『平穏。終わりを告げた物語 -Calm Days-』



 狂人達との邂逅から、一週間近く経った。

 あれから、何か変わったかと言えば……まぁ、いろいろ変わったわけで。

 けれど、いま語るべきはそれじゃなく――


「ほらイル、いつまでもそんな顔しないの。シオンさん達が心配するでしょ?」

「………………うん」


 場所は港。多くの人々と船が行き交う、海の玄関。


 そこに、僕達――いつもの七人だ――と、イルとフィエナさんが集まっていた。


 理由はひとつ。

 彼女達を、見送るためだ。


 ――テヴィエスにとって重要な存在である彼女達は、当然だがいつまでもこの国に居るコトはできない。

 テヴィエス行きの船――もちろん、アーロンさん達の船だ――の準備が整ったいま、彼女達が帰国するのは、当然のことだった。


「ほら、ちゃんとお別れの挨拶をしなさい」

「………………………うん」


 けれどイルは、どうにも帰りたくなさそうな雰囲気を出していて。

 決して口にはしないけれど、年相応の子供らしさを、いまのイルは持っていた。

 そんな様子が十分ほど続いて、ようやくイルは口を開いた。

 最初の相手は、リオと、エメ。


「…………えっと、その…………リオ、エメ。はじめて会ったとき、イルに話しかけてくれて……ありがとう。その………うれしかった、です」

「……ああっ。こっちこそイルちゃんと会えてよかったぜ。なぁ後輩よ」

「ええ、そうですねっ。今回ばかりは、センパイの言うことに間違いはないです!」

「今回ばかりはじゃねぇよ、いつも間違ってねぇわ」

「えぇ~~嘘言わないでくださいよぅ」


 イルを差し置いていつものやりとりを交わし合う二人。そんな光景も、もはや慣れたのか、イルは二人を見てけらけら笑っている。

 そして次の相手は――ロートと、フィリアさん。


「その………ロート。……あのね、最初は、ちょっとだけこわかったんだけどね………でも、やさしくしてくれて、うれしかった。フィリアも、おんなじ。……ふたりとも、うれしかった」

「……やっぱ俺って目付き悪いんだろうな。認めるわ」

「ろ、ロート……その、私は良いとおもう、よ……?」

「その慰めはちょっと傷付くのでやめてくれませんかね………。

 ……まぁいいや。ともかく――あぁ、こっちこそありがとな、イル。楽しかったよ」

「う、うん! 私も……!」


 そう言って、二人は笑う。イルも、二人を見て笑みを浮かべる。

 次なる相手は――シアと、アンジェだった。


「シア、アンジェ………イルと遊んでくれたり、出掛けたり……いろんなことしてくれて、たのしかった。イル、あんなに遊んだのはじめて。だから、その………ありがとう」

「……ええ、こちらこそ! 楽しかったわ、イルちゃん。アンジェちゃんもそう思うでしょう?」

「はい。ぜひ、今度は観光にでも来てください。いろんなトコに連れて行ってあげますよ」

「…………うんっ、またくる!」


 笑顔と共に、彼女達は約束を交わし合う。

 楽しい未来を、頭に描きながら。


「その…………シオン」


 そして――最後の相手は、僕。



「……――ありがとう。シオンのおかげで、イル、まえをむけたの。シオンがいたから、イル、がんばれたの。えっと、えっと………あと、その………うぅ、言いたいことがいっぱいあって、どれから言えばいいかわかんない………」

「はは……でも、イルが言いたいことはわかったよ。

 うん。僕の方こそ、ありがとう。きっと、お互い色々思うことはあるけれど………いま、僕達はこうして笑い合えてる。それでいいんじゃないかな」



 そう言って、僕はイルの頭を撫でる。



「――また、遊びにおいでよ。『光の巫女』としてのイルじゃなく、『ただのイル』として。そのときは……今度こそ、一緒に海で遊ぼう」

「――――…………、うんっ!」



 僕がそう告げると、イルは笑顔・・を浮かべて、頷いてくれた。


「おーい、そろそろ出発するぞー」


 ……時が、訪れた。

 名残惜しいが、これで一時のお別れだ。

 二人が、船内に乗り込む。僕達は、その様子を見つめている。


 ――不意に、イルがこちらを振り向いた。そして駆け足で僕のところまでやってくる。


「……どうしたの、イル?」

「あの、あのね……さいごに、言いたいことがあって……」

「? それは、なに………?」

「……ちょっと、かがんで?」


 イルにそう言われ、僕はイルの目線に合うように屈む。

 すると――



「…………んっ」



 なにか、頬にやわらかい感触。

 後ろから驚愕する声が、僕の耳に届く。けれど僕は、未だ何が起こったか理解できていなくて。

 数秒経ってようやく、それがなんなのか、理解すると――


「い、イルっ!? な、なに今のはっ!?」

「? ………イル、なにかおかしなことした?」

「おかしな、って……」

「がいこくのひとは、好きなひとにこうするって、むかし本で読んだから……その、まね、してみたんだけど……へん、だった?」

「な―――なるほど、ね? いや、うん。おかしくないと思う、よ?」


 ………もっとも、その習慣はシーベールには無いのだけれど、この際それは黙っておこう。

 なにか後ろから刃物のような視線が二つほど、僕の背中に向けられているが、今は気にしないでおく。


 ……いや、よく見ると船の方からもうひとつ、怨念のような視線が、イルの保護者から向けられていた。

 後が怖い。


「そ、それで……イル。その、言いたいことって、これだけ?」

「あっ、ちがう。もういっこある!」


 そう言うとイルは、こほんと咳払いして、僕の目を真っ直ぐみて――口を、開いた。



「もし……もし……シオンが、これからさきで、なにかこまったことがあったら……あたし(・・・)が、あなたの力になります。それが、『光の巫女(あたし)』にできる、お礼です」

「―――。うん、じゃあ、そのときが来たら……ね」



 僕が頷くのを見届けると、イルは笑顔を浮かべ、今度こそ船内へ乗り込んでいった。



 ――帆が開く。碇が上がる。

 船が動き出す。



「――ばいばい、みんなっ。またね!!」



 イルが手を振りながら、大きな声でそう言っている。

 同じように、別れの言葉を叫びながら、僕達みんな、イルに向かって手を振り返す。



 船が、とおい水平線の彼方へ、消えていく。



 見えなくなるまで――

 僕達はずっと、手を振り続けていた。



 * * *




 ――こうして、シオン・ミルファクとイル・ドゥ=テヴィエスの物語は、幕を下ろしたのだった。











                          第二章 霊獣覚醒/了



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