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Wizard of Diaster  作者: 巡
第二章 霊獣覚醒
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第16話『ひとつの、終わり -?-』



「―――――、」


 己が原初の記憶を、カタストラスは刹那のうちに振り返る。

 そして、想う。



 ――俺は、天辰理想教おれたちは、紛れもない悪だ。



 およそ世界にとって悪と定義されるモノ。

 歪なる思念を持った、狂人の集まり。



 だが、それを承知の上で、ここに告げよう。




 ――俺達は、世界を救うための必要悪にして、絶対悪だと。




「―――――、ハ」


 カタストラスは、嗤う。

 眼前の光景が、嬉しくて仕方なかったから。


 そうだ、これでいい。

 奴が己にすべてを伝えなかったことに対しては、些か不満はあれど……是非も無し。ああ、喜んでこの結末を受け入れよう。

 なぜならば、この先に理想郷はあるから。



 もはや物語は既に成ろうとしている。

 光の巫女は覚醒を果たし、双星は始動を開始した。

 理想郷に至るまでの筋書き(アジェンダ)は、またひとつ、前進した。



 すなわち、俺という『悪』の存在は不要なり。

 我が使命アジェンダは既に果たされた。


 ゆえに――そう、ゆえに。

 迎えなければ、ならないだろう。

 定めていた、幕引きを。



「あぁ………判っているさ、イデアル」



 在りし日。もはや語られることのない昔日に、俺はおまえに誓った。


 理想郷に至る筋書き(アジェンダ)が果たされたのち、何をすべきか。

 既に、定めているから。


 ゆえにイデアル。我が同胞ともにして畏敬すべき者よ。

 おまえの理想に、俺は殉じよう。



「あぁ、いいぞ――その先に、理想郷は在る」




 ――ここに、此度の物語を完成させる最後の一頁を。




 我が運命ものがたりの最期を。













 己という命を以て(・・・・・・・・)此処に成す(・・・・・)













                       ――――――シュバァンッ!



 刹那、弾けるような煩い音が、響いた。


「……………えっ?」


 カタストラス以外全員の唖然とした声が、虚空へ消えていく。

 そして彼らは、音の発生源を見る。

 そこには――



「ご―――ふ……っ。はッ……づ……―――」



 胸に孔が空いた狂人の姿が、在った。


 孔から、口から、溢れ出し流れ出す血液。止まらない赤い水流は、彼が着ている純白の祭服カソックを真っ赤に染め上げている。


「………なに、を………」


 そう、呆然と呟いたのはシオンだった。

 眼前の光景が信じられないのか、語気を荒げながら、シオンはカタストラスに再度尋ねた。



「――なにを、なにをやってるんですかッ、あなたはッッ!!」

「……なにを、か。……ふふ、ふははは………見れば判るだろう……自決だよ。自ら命を絶つ……ソレに他ならない」


 依然、血を流しながらも、カタストラスは嗤っている。


「なんで………なんで、そんなことを……」

「――なんで、か。貴様、よもや俺の心配でもしているのか?」

「っ………しちゃ、駄目なんですか……っ!」

「――――。あぁ、やはり貴様は……甘い、な」


 呆れ混じりに、カタストラスは呟く。

 そして、カタストラスは焦点の合っていない虚ろな眼でシオンの方を見て、口を開く。



「俺の運命ものがたりは俺の死を以て完結する。この終わりは既に定まっているモノだ。そう――俺が『悪』になると定めた瞬間から、決めていた。

 俺という『悪』は、理想郷アルカディアへ至る物語の中で終わる。

 ゆえに、此度の物語が成った今――俺は、完結おわるのだ」



 口から血を吐きながら、それでも嗤い、カタストラスは喋る。



「『双星』……いや、シオン・ミルファク。ここに、告げておいてやろう。

 ……貴様は、貴様に課せられた運命から逃れることはできない。

 貴様の運命ものがたりは……此度の邂逅ものがたりを以て、真に始まったのだ。

 ゆえに――さぁ、魅せてくれよ。その物語をな」



 そう呟くと、彼は上を見上げる。

 そこに在るのは、遙か高きソラ


 その光景を見て、彼は笑い――。




「理想郷に星が輝かんことを――――おお、叡智の魔術師(ゼノ・アルフェラッツ)に光あれ」




 ――そして、我が同胞達よ。先に理想郷で待っている



 そう、正真正銘最期の力を振り絞って、最期の言葉を口にし、




「―――――――――――――――――、」




 この場に居る誰か(・・)を視界に映した途端、眼を見開いて、


「―――――――――――、ふ」


 小さく、笑みを浮かべ。



 カタストラス・ヘプターは――静かに、目を閉じた。





「――――――――、な」


 カタストラスが絶命する光景を、シオン達は呆然と見ていた。

 呆然とすることしか、できなかった。


 ……ひとが死ぬ光景を見たのは、何もこれが初めてじゃない。

 けれど……けれど、たとえ敵であったとしても、さっきまで会話を交わし、戦っていた相手が、たったいま、目の前で(・・・・)死んだ。


 だからこそ……その光景は、何よりも生々しくて。

 シオンの心に、"ひとの死"という記録を、刻み込んだ。


 ――ざく、と。砂浜を踏み抜く音。

 音の方を見やれば、そこには白い祭服を纏った、緑髪の少年が立っていた。


「……ありゃりゃ。カタリー、ほんとに死んでるし」


 予想はしていたのか、さほど驚きの声を上げない緑髪の少年――テイルム・ヘクサは、視線をカタストラスの死体からシオン達へ向ける。


「やぁ、こんにちはだね。ぼくはテイルム・ヘクサ。この蒼髪の彼の仲間だよ。ヨロシクね」


 ニコッ、と。ひとの善い笑みを、テイルムは浮かべる。


天辰理想教アルカディア――!?」


 その自己紹介を受けて、シオンたちは一気に構えた。


「あぁ待って待って! もう戦う気はないから!!」


 大げさに手をふり、シオンたちを制するテイルム。


「……そんな言葉が、信用できるとでも?」

「うーん、信用度ゼロ。悲しくなるねぇ。でも、嘘は言ってないんだなぁ。ぼくはもう戦う気はないし、何より戦う意味がもはやない。……いまは、ね」

「どういう………意味ですか」

「既にぼく達の目的は達成されたってコトさ。『光の巫女』……その覚醒は果たされた。アジェンダは一歩、前進したのさ。だからもう、ぼくが戦う理由も意味もないってワケ」


 テイルムはカタストラスだったモノへ近付く。

 その様子を見ながら、シオンは彼に尋ねる。


「じゃあ……なんで、そこの彼は、死んだんですか」

「それこそ、答えはひとつだよ。

 ――彼の最期の役目アジェンダは既に果たされた。ゆえに彼の運命ものがたりは彼の死を以て完結する。これはそういうコトであり、そういうモノなんだよ。だからキミ達は悪くないし、この理由を判らなくてもいい。けれど……うん、まぁ彼の死に何か感じるものがあれば、それでいいんじゃないかなァ」


 そう言って、テイルムはカタストラスの死体を抱える。



「よっこらせ。……うわ重っ。持って帰る身にもなってほしいよ。ねぇ聞いてるカタリー? あ、死人に口なしか。ひひっ。

 ……まぁ、なに? とりあえず、お疲れさま、カタリー。キミと過ごす時間は退屈じゃなかったから好きだったよ。うん、そこだけは……面白くないなぁ」



 ……ほんのすこし、僅かに。それこそ、誰も気付かないくらい。

 テイルム・ヘクサの瞳に、哀しみの感情が宿ったかと思えば――次の瞬間には、狂人のそれへと戻っていた。

 狂人の視線が、シオンへ向く。



「そういえば、キミだれだっけ? 当たり前のように話してたけど、忘れてたや」

「……僕は、シオン・ミルファクです」

「―――――へぇ。なるほど、キミが………それに、『ミルファク』、ね………にひひ。あァ、そういうことか。だったら今回は、『光の巫女』だけじゃなく、『双星』も関わってたってコトだ。……きひ、面白くなりそうだなぁ、これから。

 じゃあね。またどこかで会おう」



 まるで、友人に別れを告げるような、気さくな言葉を残し、


 狂人と狂人だったモノは――ここから、去って行った。




 静寂が訪れる。

 長いようで短かった、狂人たちとの邂逅は、ここに終わりを告げた。




 ――少年と少女達の心に、消えない痕を刻み込んで。









第16話『ひとつの、終わり -?-』


第16話『ひとつの、終わり -Ending of Alkaid.-』




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