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Wizard of Diaster  作者: 巡
第二章 霊獣覚醒
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第15話『巫女と狂人、 -Katastras Hepter-』



「――霊獣国が『光の巫女』、イル・ドゥ=テヴィエス。

 カタストラス・ヘプター。理不尽あなたから、みんなを、守ります」



 神々しく在る『ソレ』の足下で、勇ましく、凜々しく、イルはそう告げる。

 その姿をシオンは……呆然と、見つめていた。

 いまだ、眼前にある光景を信じ切れなかったから。

 けれど、この光景は紛れもなく現実で。

 凜々しく立つ少女は、僕が知る彼女で。

 あぁ、だからこそ――認めなくてはいけない。


「イ、ル……」


 少女の名を呼ぶ。視界に、彼女の姿を捉える。


 ……あの弱々しかった背中は、もうない。


 そこに在るのは、"覚悟"を背負った、巫女しょうじょの姿。

 まだ幼いというのに、その背中は何処までも、強く在ろうとしていた。


(君は――選んだんだね)


 選択を。

 停滞か、前進か。


 きっと、いまの彼女は記憶を取り戻している。その上で、彼女は選んだんだ。

 だからシオンは、その選択を否定することはできない。


「くく……ふふふ、ふははははは………さて、ここからどうするというのだ、『光の巫女』ッ!!」


 刹那、カタストラスが魔術――【穿断セクト高圧水流ハイア・ロイクシオ】を放つ。

 水流が向かう先は――イル。


「イル、あぶない――っ!」


 そう、シオンが叫んだ瞬間。



「――【天光あまびかり悪祓障壁あくばらいしょうへき】ッ!!」



 イルが叫ぶ。麒麟が嘶く。

 次の瞬間。突如として、イルを守る光の障壁が顕現した。

 顕現した障壁は水流の進行を阻み、やがてそのカタチを無くしていく。


「ほう……ッ!」


 驚愕に目を見開くカタストラス。まさか、真っ向から防がれるとは思ってもいなかったのだろう。かくいうシオンも、彼と同じ心情になっていた。

穿断セクト高圧水流ハイア・ロイクシオ】の破壊力は凄まじい。《二重詠唱ダブルスペル》で強化を施した防御魔術すらも破壊したのだ。直撃すれば、死は確定だろう。

 そんな威力を持つ魔術を、イルは防いでみせたのだ。


「展開――!」


 イルが叫ぶ。その瞬間、シオンの周りにもイルが先ほど使った障壁が顕現した。周りを見渡せば、シア達も同じモノに守られていた。

 その光景を見るや否や、カタストラスは試しのつもりか、高圧水流をシオン達に向けて――おそらく、全力で――二度三度放ってきた。


 だが……光の障壁は、壊れない。

 依然として、そこに立っている。



「――ふ、ふふ。そうか、それこそが【獣宝】……霊獣国テヴィエスが持つ神宝。そのうちがひとつ、『輝煌の獣宝』の『霊臨』ということかッ!! あぁ、やはりあの時、『炎の守護者』に霊臨を使われていたら、俺はひとたまりも無かっただろうな……くくっ、はははッ!!!」



 もはや遠い過去のこと。

 カタストラス・ヘプターは『炎の守護者』であるフィエナクス・ヴィオレと相対した。


 その時、彼は彼女の不意を突いて勝利を納めたが……万一、フィエナが霊臨を使っていた場合、彼はここにはいなかっただろう。


 カタストラスも、それが判っていたから不意を突いたのだ。

 圧倒的な力を持つ存在には、不意を突くことこそが何よりも有効打。


 ゆえにこそ、フィエナは【獣宝】を……霊臨を使わずして、敗北したのだ。


 フィエナクス・ヴィオレが弱いのではない。

 狂人達の策が、上手く嵌まっただけ。


「――――、」


 だが、そんな背景コトは、イルが知る由もない。

 イルにとって眼前に立つ者は、最愛の家族を傷付けた者だ。

 だからこそ、その狂人を、イルは赦すことができなくて……


(――けれど、イルは)


 決して、殺しはしない。


 なぜならばイル達は、殺める者ではないから。

 たとえ、傷付けたとしても、その果てに殺すことは有り得ない。



 イルは――『光の巫女』は、守る者ゆえに。

『輝煌の獣宝』――『輝煌の霊獣・麒麟』は、守る存在ゆえに。



「は――ッ!」


 裂帛の掛け声と共に、イルが右手を掲げる。

 次の刹那、雷鳴が響き、天より雷が落ちる。

 落雷の先は、カタストラスへ。


「づっ……うっ、がァアアアアアアアアア!!!!!」


 突然の攻撃であるにもかかわらず、カタストラスは対処を試みる。その判断力は流石というべきモノだった。

 しかし、その抵抗は意味を成さず、彼は落雷を直で受けてしまう。

 およそ雷属性の上級魔術あるいは高等魔術に値するであろう威力。直撃すれば、死に至ってもおかしくないレベルの攻撃であるにもかかわらず…


「っ……はッ………くっ」


 カタストラスは、生きていた。


 ――何故か。それは、カタストラス・ヘプターが尋常ならざる力量を持った魔術師だからではない。


 

『光の巫女』――イル・ドゥ=テヴィエスとその霊獣が謳う、霊臨の力だ。



 そう。先に述べたように、彼女達は『守るもの』だ。


 ゆえに、彼女達は、他者をおかさない。

 此処に顕現している状況こそが、光の巫女と獣が謳う、魂の理。



 すなわち、"絶対的な防御"、そして"絶対に他者を殺さない攻撃"――それこそが『輝煌の獣宝』の霊臨。



「――――、」


 もはや、カタストラスに為す術はない。

 彼の強みである禁忌魔術は既に防がれ、そして攻撃においてさえも、霊獣の力が彼の先を行く。


 ――圧倒的。その一言に尽きる。

 シオンがあれだけ苦戦した相手を物ともしない、脅威的なまでの強さ。


 これが【獣宝】。

 これが『霊臨』。


 これが人智を超えたモノの……霊獣の力。


 カタストラスでは、これに対し打ち勝つことは、もう不可能だった。



「く………くく、ははは………ハハハハッ」



 ――――それでもなお、彼は嗤っている。


 既に己に勝ちの目はないというのに。


 この状況が(・・・・・)嬉しくてたまらない(・・・・・・・・・)とでも言うかのように。

 狂人かれは、嗤っている。


「……カタストラス・ヘプターさん。おとなしく、降伏してください」


 イルが、カタストラスに対し堂々たる姿勢で勧告する。


「………、」


 その勧告を聞きながら、カタストラスは、静かに、目を閉じる。


 そして――


 カタストラス・ヘプターという男のすべてを、刹那で、振り返る。



 * * *



 ――カタストラス・ヘプターという男は、かつて夜天星辰王国魔導師団の魔術師だった。


 彼は、正義に満ちていた男だった。


 悪は許さない。


 悪は在ってはいけないモノだから、己が正義となってここに裁こう。

 そう思い、彼は王国魔導師団の魔術師として、日々を生きていた。


 彼の能力は、組織内でも非常に優秀だった。

 こと、水属性魔術の使い手という枠においては、彼を凌ぐ魔術師は他にいなかった。

 ゆえに、彼の将来は約束され、階級が《帝級インペル》に至るのも、時間の問題だと周りの人間をして、そう言われていた。


 ……だが、彼には、どうしても消えない悩みがあった。

 それは、彼が正義かれであるからこそ生じる苦悩。



 ――俺の力だけでは、救えないものがある。


 ――俺の手では届かないひと達が、この世界にはいる。



 世界は広大だった。だから、個人の手では届かない(救えない)ものがある。

 人間は全能ではない。

 それでも……彼は、救える者はすべて救ってきた。


 それでも――彼は思ってしまう。

 この世界を、救えないのかと。




「では、貴方にひとつ問いたい」




 そんな苦悩に苛まれ続けていた、ある日だった。

 カタストラスは、ひとりの男と出会った。


 長く伸ばされた、何処か黒みがかった銀髪に、黒い双眸。

 放たれる空気は異質で、異常。

 しかし彼は、それだけで理解した……男が何をせずとも、悟ったのだ。


 一度、たった一度目にしただけで――カタストラスは、理解した。


 ――この男は、己より強い、と。


 得体の知れない雰囲気を纏いながら、己と同じ服を身に纏った男は、カタストラスに問うた。



「貴方は世界を救いたいと、本気で思っているのだろうか?」

「――当たり前だ。俺は、俺の手が届かない所にあるモノを救いたい。それはすなわち、世界を救いたいということに他ならないだろう」

「然り。貴方の言うことに間違いはない。そして貴方の願いはひどく純粋だ。あぁ、正義に満ちているよ。なればこそ、私は貴方に告げよう」

「……何をだ?」

「――私と一緒に、世界を救済する気はあるかな?」

「………なに?」



 カタストラスは、疑問の声をあげる。


 ――馬鹿らしい、と。率直にそう思った。

 一蹴されてもおかしくない言葉。

 何を言っているんだ、コイツは――そう思いながら、ほとんどの人間は立ち去り、この話はここで終わる。


 だが……カタストラスは、立ち去らなかった。

 なぜなら、男の纏う雰囲気が、只人のそれではなかったから。

 男が纏っている雰囲気は異質で、異常で――だからこそ、先の言葉に何か含みを持たせる。

 ともすれば本当に、男の言っているコトは、虚偽でも妄言でもなく、真実なのかもしれないと。

 そう、思わせるほどに。


 男は、ひとを魅せる異質な雰囲気を持っていた。

 カリスマとでも呼ぶべきモノか。それに近い何かを、彼は持っていた。

 だから――カタストラスは、男に尋ねた。


「どういう……意味だ、それは?」


 男は、ただ静かに、微かな笑みを浮かべ、カタストラスに説明する。


 その理想の、すべてを。


「――――、」


 そして、カタストラスは納得と共に理解する。

 同時に……彼は、男に畏敬の念を持ち始めていた。

 だからこそ、彼は。



「いいだろう。……その理想に、俺も手を貸す」



 男の理想に、手を貸すことを、決めたのだ。


「――ふむ。だが、ひとつ忠告しておきたいことがある」

「何をだ?」

「貴方はこの瞬間より、正義を捨て、善を辞め、世界にとっての『悪』にならねばらない。貴方の在り方は『正義』だったようだが……それでも、貴方は此方へ来るかな?」


 その問いは、もはや愚問だった。



「――構わんとも。それで世界が救済されるというならば……俺は、喜んで『悪』になる」



 そう告げた瞬間、カタストラス・ヘプターは善であることを辞めた。


 ……これからずっと先のこと。


 カタストラスは、フィエナクス・ヴィオレに『正しいまま狂っている』という評価を受ける。

 その根底にあるモノは、これだった。



 彼は己が『悪』であることを理解してなお、狂人で在り続けている。



「ふふふ………あぁ、貴方ならばきっと、そう言うと思っていたよ」


 ゆえに男は、カタストラスの答えに満足し、笑う。


「……そういえば、貴様の名前をまだ聞いていなかったな。俺はカタストラス・ヘプター。貴様は?」

「私の名前か? あぁ、まだ名乗っていなかったね」


 そう言って、黒銀の男は己が名を告げる。




「私の名前はイデアル・ラ・モルテ。これから、貴方と理想郷を目指す者だ。よろしく頼むよ、カタストラス」




 まるで死神のようにある男は、優しく、誘うように、カタストラスへ手を差し出した。

 その手を、カタストラスは迷いなく掴み取る。




 ――この邂逅は、きっと運命だった。


 これが、彼の始まり。

 まだ、この世界に天辰理想教アルカディアという『悪』が生まれるまえ。

揺光の星(アルカイド)》カタストラス・ヘプターという狂人が生誕した日。




 もはや、これから語られることのない、彼の運命ものがたりの、第一話だった。











第15話『巫女と狂人、

          これから語られない物語 -Katastras Hepter-』




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