表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Wizard of Diaster  作者: 巡
第二章 霊獣覚醒
40/47

第14話『ひとつの決着 -An end-』


 ――少しだけ時間は遡り、イル・ドゥ=テヴィエスが覚醒を果たす、一刻前。


 ロートとフィリアがいる場所にて、彼らは窮地に陥っていた。



「はっ――ハッ……、っ」

「どぉおおしたんだァァアい?? 息切れてるけど、もう終わりィ???」


 すなわち、理不尽な暴虐による圧倒的かつ一方的な戦い。


 ロート・ニヴェウスではテイルム・ヘクサに敵わない。


 その結果が、ここに一目瞭然と在った。


「ちくしょう……ッ」


 ――勝てない、届かない。

 現在いまの己では、この刃はどう足掻いても奴には届かない。



「悔しいねぇ、勝てないねぇ。でぇーもぉ……キミは、まだやるんだろォ?」

「――当たり前だ……ッ!!」

「キヒヒハハ!! そうこなくっちゃァ!!」



 そうして、再び彼らがまじゅつを交える――



 そのとき、だった。











「――――――――――――――――――――、は?」






 テイルム・ヘクサが、突如、ぶっ飛んだ。


 情けなく彼方に吹っ飛ばされる狂人。二度三度、地面を転がり跳ね、やがて盛大な音を響かせ壁に衝突する。

 容赦の無い殴撃パンチ。感情の籠もったその一撃を、狂人は為す術もなく喰らう。


「な………」


 ロートは絶句する。突如として起きた事態に、理解がようやく追いつく。

 いったい誰が、奴を殴ったのか。


 その答えは――凛として、そこに立っていた。





「―――おい、クソガキ」





 放たれる言葉。眦を決した瞳には、狂人に対する戦意がこれでもかと言うくらい籠もっていた。


 灰色の髪に、灰色の瞳。長身でありながら、魔術師らしからぬ引き締まった体つき。それが、彼の研鑽の証であるということは、何も知らずとも理解することは容易だった。



「てめぇ、なにオレの生徒ボコってんだ。死にてぇのか?」



 彼の者の名は、オルフェ・ウルフェン。

 ロート達の担任である男で――いまこの時、彼を救う者である。



「オルフェ………せん、せい」

「――おう、みんなのオルフェ先生だ。……ははっ。ロート、ぼろぼろだな、おまえ」

「なんで……ここに……」

「そりゃ、あんだけ暴れてりゃ否が応でも気付くさ。尤も、駆けつけたのはオレが最初だったみたいだけどな」



 軽く笑みを浮かべながら、オルフェはロートに近付いてくる。

 当然と言えば、当然のコトだった。


 街中であれだけ暴れていたのだ。気付かない方がおかしい。

 あるいは、広場にいて逃げた誰かが、知らせてくれたのかもしれない。


 ……どちらにせよ、もはや真実はどれであっても構わない。


 なぜならば、この場にオルフェ・ウルフェンがいるコトは事実であり、

 それだけが、この場におけるたったひとつの真実なのだから。




「――すまん、遅くなった。そして……よく頑張った。後は、大人オレに任せろ」




 優しい笑みを浮かべ、オルフェは、ロートにそう告げる。


「……………ぁ」


 その一言で、限界が訪れたのか。

 ロートは、糸が切れたかのように――意識を、失った。


「ろ、ロートっ!?」

「お、なんだフィリア。おまえもいたのか。……なら丁度いい。ロートのこと、看ておいてくれ」

「オルフェ先生……」

「ま、なんだ? コイツのことだ。どうせ「おまえを守る!」とか思いながら意地張ってたんだろ。……だから、そこの想いは汲み取ってやれ」

「…………はい」

「おっけ。――――じゃあ、任せたぞ」


 刹那――オルフェ・ウルフェンの纏う雰囲気が、変わる。


 そこに在る雰囲気は、鋭利。

 放たれる覇気は、重い。


 先ほどまで在った優しい雰囲気は鳴りを潜め、ただ鋭い殺気だけを纏っている。


 ――此処に立つは一人の魔術師。


 殺意すらも瞳に宿し、男は、狂人を見据える。



「おい、いつまで寝てんだクソガキ。起きろよ――授業おしおきの時間だ」



 オルフェがそう言い放つと、テイルムはゆっくり、起き上がった。

 その姿に消耗は見られない。だが、心底不機嫌そうな表情を浮かべながら、テイルムはオルフェを睨んでいた。



「…………いったいなぁ、もう…………キミかい? ぼくの楽しい時間に横槍入れてきたのは………」

「おう、悪かったな横槍入れて。けど、もうその時間はお終いだぜ」

「…………はぁあああ…………もう、萎えるコトしないでくれよ。キミじゃイマイチつまらなさそうなんだよね……彼じゃなきゃ面白くなさそうなんだ。だからさぁ、邪魔しないでおくれよ」

「……そうか。うん、おまえにとってはそうかもしれないな。――けど、オレの知ったことじゃねぇ」



 ――刹那、オルフェの姿が掻き消える。


 テイルムが瞬きした次の瞬間、彼は、テイルムの目前に立っていた。


「ッ!?」

「おまえはオレの生徒をボコった。だからオレはおまえをボコる。それだけだ。てめぇの面白さなんか知らねぇしどうでもいいよ。そんなの、ゴミ箱にでも捨ててろ」


 ――再びの全力殴撃。テイルムは情けなく、地に叩きつけられる。


「ごは……っ!?」

「おら、立て。まだ始まったばっかだぞ」

「チィ――っ!」


 舌打ちし、オルフェの追撃が来る前に体勢を立て直し、テイルムは距離を取る。

 そして――



風よ、虚空エクスィーテ・ヴィンティより起これ(・ゼロム・ホラシエロ)その鋭き一閃で(フィル・アクト)埋め尽くせ(ルフ・ラミナ)姿無き無数の刃クラリハイト・ツァールメル・ラミナいま彼のシュナイタール・トゥ・ザスト・者を刻め(ペルソン・ナオラ)―――【鎌風ノ鼬(ファルセ・ヴィアゼル)】ッ!!」



 軍用魔術アサルトマギア鎌風ノ鼬(ファルセ・ヴィアゼル)】を発動。不可視の刃はオルフェへ襲いかかる。



 ――疾走。オルフェは迫り来る刃の風を躱す(・・)



 魔術を以て対処するのではなく、完全に動体視力による回避のみ。

 時に刃が身体を掠めてようと、意にも介さない。動じないまま、オルフェは距離を詰める。


「~~~っ、………へぇッ!!」


 そんなオルフェの姿を視て、テイルムは嗤う。

 彼の姿が予想外だったのか――楽しそうに。


「前言撤回だ。なァるほど……キミも面白そうだッ!!」

「野郎に気に入られてもこっちは微塵も嬉しくねぇんだよ」


 接近しながら、オルフェは詠唱を開始する。



我が手に宿りしライハヌス・ヘビツス・煉獄の炎よ・フェゲトリウムフォニス・苦しみ嘆く(ソノウェム・ヴォイ・)者達を燃やし・ペイルマエロス・ブレンメ・清みの炎を与えよギヴェン・プルジェムフォニス――【天へ昇る為の炎ライセンド・へヴンディス】」



 顕現する黄金の焔。ゆらゆらと揺らめくそれは、儚げな美しさがあった。


 火属性高等魔術【天へ昇る為の炎ライセンド・へヴンディス】。およそ火属性というカテゴリにおいて、トップクラスの威力を持つ魔術だ。


 高等魔術という最高位に分類される魔術であるにもかかわらず、オルフェはこれを容易に行使する。

 それすなわち、彼の力量が遙かに高位であることを示していた。


「燃えろよ」


 無慈悲に、オルフェは告げる。


 ――容赦はしない。


 おまえらはこの世界に存在してはいけない『悪』だから。

 何より――おまえらは、オレの生徒を傷付けたから。


「だからなくなれ。早急にな」


 ゆえにオルフェ・ウルフェンは、殺すつもりで炎を放つ。

 金色の焔は、テイルム・ヘクサを燃やし尽くす――その、前に。



「――【大瀑布ハイア・カティラマルース】ッ!!」



 瞬間、テイルムの頭上に出現する巨大な青色の魔術陣スクエア。そこから、膨大な水がテイルムを飲み込むように――流れ出した。


 同時に、流れ出した水は、テイルムに纏っていた黄金の焔を消火させる。

 水属性高等魔術【大瀑布ハイア・カティラマルース】――こちらもまた、水属性というカテゴリにおいて、トップクラスの威力を持つ魔術だった。

 それこそ、【天へ昇る為の炎ライセンド・へヴンディス】を相反できるほどの威力を持つくらいには。


「………高等魔術には高等魔術を、ってか」

「ニヒ。当たり前じゃん。それにしても……まさかこんなに遠慮無く殺しに来るなんてねぇ。キミ、いいね! さっきの彼とは違う面白さがある!」


 ビッ、と。テイルムは己がひと差し指をオルフェに突きつける。

 そんなテイルムを見て、オルフェは、心底嫌そうな顔を浮かべ、テイルムを睨んでいた。



「――あぁ、そうかよ。だが生憎と、オレは天辰理想教おまえらが昔から嫌いでな。全ッ然嬉しくねぇよ。……あぁ、クソ。その白い衣、吐き気がするぜ。なんでおまえらはまだるんだよ」

「………きひっ。キミも、ぼくたちに何か因縁でもあるのかい? まァ、どっちでもいいけどぉ……それよりもさ、続きやろうよ―――」



 と、テイルムが告げた瞬間だった。




 目を開けられぬほどの光が、ソラより降臨した。




「――!?」


 オルフェとテイルム。彼ら二人の背筋に怖気が走った。


「なんだ……いまの……」


 肌に伝わる異常なまでに重い圧力。膨大な魔力の奔流が、どこかひとつへ収束していっている。


 その方角は、浜辺の方。

 いったいあの先に、何があるというのか。


「………へぇ! そうか、そういうコトか!」


 だが、ただひとり。

 この状況を理解している者がいた。


「――なんだよ、てめぇ。いまのが何か知ってるのか?」

「うん? まぁ、知ってるっちゃ知ってる、というか今理解したけど……教える義理は無いしね。教えなーい。

 そういうワケで。ごめんね灰髪の人。今回はもう遊べないや。すごい短い時間だったけど、楽しかったよ。また今度、どこかで殺し合おう(あそぼう)よ」


 ニコッ、と。

 先ほどまでの狂った笑みではなく、ひとの善い笑みを浮かべ、テイルム・ヘクサは告げる。



「――ふざけんなよ。ここで逃がすと思うのか?」

「でも、今は見逃しておいた方がいいんじゃなァい? ここで追ってきたところで、消耗戦になるだけだし……だったら、はやいトコそこの彼を医療施設かどっかに連れて行きなよ。うん、というかぼくがそうして欲しい」

「………どういう意味だよ?」


「だってさァ、ここで彼を生かせば、彼は絶対(・・・・)もう一度ぼくに(・・・・・・・)挑んでくれる(・・・・・・)。うん、その方が面白い(・・・・・・・)。それだけだよ」


「……っ」


 その発想は、狂っている。


 だが、テイルムの言うことにも一理あった。

 ロートの消耗は、端的に言って激しい。

 命に関わるまではないだろうが、早急に治療に当たったほうがいいのは確かだ。

 いくらオルフェが回復魔術を使えるとはいえ、きちんとした施設で看るのが一番だ。


 ゆえに、テイルムの言っているコトは別段間違いではなくて――だからこそ、恐ろしい。

 見逃すのか見逃されるのか。もはや判らないから。


「………、」


 静かに、オルフェは背を向ける。

 嫌々だが……真に救うべきは、己がすべきコトは、ひとつしかなかったから。




「――あぁそうそう。ひとつ教えておこうか。

 天辰理想教アルカディアは終わってなどいない。組織のカタチを喪くそうとも、我々は進み続ける。

 そう――――理想郷に至る、その日まで」




 不意に聞こえた狂人の言葉。


「なに――?」


 その真意を尋ねるべく、オルフェが振り向いた時――既にそこには、テイルムの姿は無かった。


「――――、」



 ……何かが、始まろうとしている。


 自分の知らない何か。自分の予想もつかないような大きなコトが、始まろうとしている。

 漠然と、オルフェはそう思った。


「……考えても仕方ねぇ、か。それよりも――」


 思考を隅へ追いやる。

 そしてオルフェは、意識を失ったロートと、彼を看ていたフィリアの下へ足早に駆けていった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

WoD本編の設定資料集です
『Wizard of Diaster : Material』
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ