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Wizard of Diaster  作者: 巡
第二章 霊獣覚醒
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第04話『賑やかな休日 -Part Ⅰ-』


 翌日。運良く学校も休みだった僕達は、イルのことを知っている人がいないか探すため、街の方まで出てきていた(ちなみにイルは、当面はうちで預かることになった)。

 依然として、この子の事情や生い立ちは判らない。王国魔導師団に頼ってもよかったけど、他ならぬイルがそれを拒んだ。


 ……たぶん、イルはまだ、僕達以外に対して、恐怖を覚えているのだろう。だから、他の人達に触れることを恐れた。

 その恐怖の理由が何なのか判らないけど――僕が安易に踏み込んでいい領域ではない。

 だから今は、彼女でもできることを。僕達が支えながらやっていこうという方針となったのだ。


「――というワケで、おまえ達にも協力してもらう」

「いやどういうワケだよ」


 僕の言葉に突っ込みを入れる白髪の少年――つまりはロートが、困惑を隠しきれない顔で立っていた。その隣にはリオやエメもいた。

 場所はアルサティア中心の噴水前。街は休日ということも相まって、人が多い。

 僕達――僕と、アンジェ――も加え、いつものメンツがこの場に揃っている。


「どういう、って。説明しただろ、ロート。人の話を聞いてないの?」

「聞いてるわバカ。リオじゃねぇんだから」

「なんで今オレを馬鹿にした???」

「なんとなく」

「なんとなく、じゃねぇよッ!?」


 流れるように、リオをイジるロート。

 実に鮮やかである。


「あー、はいはい。センパイうるさいですから少し黙りましょうねー」

「おまッ、エメ! ここぞとばかりに会話に入りやがって!」

「だってセンパイいじるの楽し………いえ、何でもないですよ?」

「いまのを本心と受け取っていいな? いいよな? ぜってぇ今度泣かす」

「きゃーこわーい」

「うっざ、この後輩うっざ!」


 そして、リオとエメによるじゃれ合い(いつもの光景)までが、ワンセットであった。

 相変わらずの二人だ。


「アイツらは放っとくか。……で、その子について何か知ってる人を探すんだっけか」

「うん。……といっても、この子はたぶんテヴィエス人だから、望みは薄いけどね」


 イルに聞こえないよう、ロートに静かな声でそう告げる。ロートは「なるほどね」といった表情を浮かべると、


「要は、またおまえのお節介ってわけだ。甘いね、相変わらず」

「……うるさいな。別にいいだろ」


 ……くそ、やっぱり言われた。


「でも、それが兄さんの良さですよ、ロートさん。それに、兄さんがこうなのは、ロートさんもよく知ってるはずです」

「ま、それ言われちゃ何も言えねえけどな」


 不意に、アンジェが僕とロートの会話に混ざる。その後ろにはイルが、アンジェにぴったりくっつくようにして隠れていた。時折、イルが僕達の様子を見るためか、ちらちらと顔を覗かせている。


「その子が、イルか」

「っ!?」


 ロートがイルに声をかけると、イルは肩をビクッと震わせ、再びアンジェの後ろに隠れてしまう。


「……俺、嫌われてんの?」

「目付き悪いし、仕方ないね」

「さっきの仕返しやめろ」

「冗談は置いといて、まだ怖がってるんだよ。だから優しく声かけてくれ」

「優しく、ねぇ……」


 そう、ロートは小さく呟くと、


「……よ、よぅ?」

「ぶはっ」


 引き攣った笑みを浮かべながら、イルに声をかけていた。

 ちなみに、そんなロートの姿に僕は思わず吹きだした。

 見れば、隣に居たアンジェも横を向いて口許を抑えている。


「笑うな!!」

「だって……くっ、ははっ! ギャップが、すごい……」

「仕方ねぇだろ……子供は苦手なんだよ。どう接すればいいか判らねぇし」


 ロートがそう告げた、その時だった。


「………ふ、ふふっ」


 微かに聞こえる、誰かの笑い声。

 それは、アンジェのすぐ傍から聞こえてきて。


「……イル?」

「ぁ……その、ごめん、なさい………わらっちゃって……」


 そう。その笑い声の主は、他の誰でも無い――イルのものだった。


「……やったじゃん、ロート」

「微妙に喜んでいいのか判んねぇのがまた」

「あ、ぅ………ごめんなさい」

「あー違う、謝らなくていい。別に気にしてないから」

「そうだそうだ、こんなヤツのことなんか思う存分笑っていいんだぜ?」

「この人のコトも笑っていいですよー」

「よくねぇわ」


 リオとエメも会話に混ざってくる。二人はイルに近付くと、しゃがみ込み、イルと視線を合わせる。そして、笑いながらイルに向かって挨拶をしていた。


「よっ、こんにちは。オレはリオ・ウルフェンっていうんだ。よろしくな」

「あたしはエメリア・フェイツェっていうの。エメって呼んでね?」

「エメ……? リオ……?」

「おう。――おい、ロート。おまえだけ名前言ってねぇだろ」

「……すまん、言い忘れてた。俺はロート・ニヴェウス。……その、なんだ。よろしく」

「――――…………、」


 ロート達三人に挨拶され、イルはどうすればいいか判らない、といった様子で僕に視線を向けた。その手は固く、アンジェの服の裾を握っている。


 イルの視線に対し、僕は何も言わなかった。

 視線だけを返して、イルの言葉を待った。それだけで、イルは僕の真意が伝わったのか、小さな声でロート達に返事をした。


「……………、うん。…………よろ、しく?」

「なぜ疑問形なのか」

「でも可愛いからおーけーですよぅ。それで、シオン先輩。なんであたし達、まだここに居るんです? イルちゃんを知ってる人探し、しないんですか?」

「ん、もちろんやるよ。でも、まだ全員揃ってないからね」

「全員、って…………あぁ、なるほど。先輩も抜け目ないですねぇ。このこのぅ」

「いたっ、痛いってエメ。肘で突くな」


 ――そう、いつものメンバーで揃っている僕達だが、今日ここにはもう一人、合流する予定となっていた。

 その人物は、間もなく現われるはずで――


「シオンくーん」


 噂をすればなんとやら。ほぼ反射的に、声がした方向を振り向くとそこには……


「………二人・・?」


 外出用に変装をした緋色の少女――シアと、その横にもう一人、並んで立っていた。


「ごめんね、少し遅れちゃった」

「いや、気にしなくていいよ。それより、その人は――」


 シアの隣に立つ少女に視線を向ける。

 肩口まで伸ばされた、綺麗な桃色の髪で、おっとりとした印象を受ける赤色の眼。

 何処かで見たことがある人物だった。記憶の糸を探り、彼女が誰かを思い出す。


「えっと……フィリア先輩、だっけ?」

「うん。ほら、ちゃんと自己紹介して」

「はぅ、急かさないでくださいよぉ……えっと、フィリア・クロヴァーラって言います。三年次生で、シア様のお付き兼護衛をさせてもらってます。その、えっと、よろしくお願いしましゅ(・・)!」


 ……この人、前も噛んで無かったか?

 自分が噛んだのが恥ずかしかったのか、フィリア先輩は顔を真っ赤にして俯いている。


「うぅ……シア様ぁ、私、もう帰っていいですか?」

「ダメに決まってるでしょ。何の為に連れてきたと思ってるの」

「――そうだ。いったい、なんでフィリア先輩を?」

「イルちゃんのことを聞いて回るのなら、人が多い方がいいかなって思って。ロートくん達も来るって聞いたし、わたしもこの子を連れて行くかーっていう感じなのです」


 そう言うやいなや、シアはロート達の方へ向き直る。


「こんにちは。ロートくん、リオくん、エメちゃん」

「ちわっす、先輩」

「こ、こんにちは!」

「こんにちはー」


 ロートとエメは至って普通に。リオだけ、がちがちに緊張して挨拶を返していた。


「あはは。リオくん、そんなに緊張しなくて大丈夫だよ?」

「で、でも。やっぱりまだ慣れないというか……あのシア先輩が実はこんな砕けた性格だったとか、未だに信じられないっていうか……何よりシオン(こいつ)の彼女ってのが一番信じられねぇ……」


 ――そう。実はシアの本当の姿を知っているのは、もはや僕とアンジェだけではない。僕とシアが付き合い初めてすぐ、シアの方から『彼らには教えておきたい』と言ってきたのだ。


 ……曰く、『その方が後々、気を遣わずにいちゃつけるから』らしい。

 理由が可愛すぎた。


「ざーんねん。わたしは元々こういう性格だし、そして今はシオンくんの彼女なのです。あの(王女)わたしも、間違いなくわたしなんだけど……あれは、仮面だからね。仮面を脱いだわたしが、いまキミの目の前にいるシア・シーベールなの。……って言っても、やっぱり簡単に切り替えれないコトってあると思うから、ゆっくり、このわたしに慣れていって欲しいな」

「ぜ、善処します!」


 笑顔を浮かべているシアに、そう言われたリオは、未だに緊張しつつ慌てながらも、しっかり返事していた。

 ……あの笑顔は、やっぱり反則ズルだと思うんだよなぁ。


「後は――アンジェちゃんと……それに、イルちゃん。一日ぶりだね」

「はい、一日ぶりです」

「………シア?」

「うん、シアだよ。こんにちは、イルちゃん」

「……………んっ」


 シアはアンジェ達の方へ近付くと、挨拶を交わしていた。イルも、シアにはあまり恐怖心を抱いてなさそうだった。


「さて……これで全員かな」


 合計八人。随分と大勢になってしまった。

 とはいえ、目的が目的だ。人が多いに越したことはないだろう。


「―――、」

「? ロート、どうかした?」


 隣にいたロートが急に黙り込んだことに気付いた僕は、彼に声をかける。見れば、ロートの視線は、別の方を向いていた。その先には……


(フィリア先輩――?)


「……いや、なんでもない。それより、ほら。はやくしねぇと時間が無くなるぞ」

「えっ――あ、うん。そうだね。……よし、それじゃあみんな、行こうか」


 ロートにそう促され、僕はみんなに声をかける。


 どうして、あいつがフィリア先輩を見ていたのかは判らないけど……まぁ、大きな意味があるわけじゃないだろう。そう、僕は判断した。




 ――――そうして、賑やかな休日が始まった。




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