Epilogue『日常 -The new Days of Wizards-』
――あの決戦から、一週間が経った。
あの日以降、僕の日常はちょっとだけ変わって……そして、元に戻った。
「――うっす、おはよ、シオン」
朝の通学路にて。アンジェと一緒に登校しているとき、誰かに挨拶される。
振り向くとそこには、白髪の少年。
親友にして、好敵手。
「ん、おはよ、ロート」
ロート・ニヴェウスが、通学鞄を片手に立っていた。
「おはようございます、ロートさん」
「おはよ、アンジェ。……あぁそうだ。ずっと言おうと思ってたんだけど――こいつ焚きつけるとき、アンジェの名前使ってごめんな?」
「いえいえ。全然気にしてませんよ? ロートさんのおかげで、兄さんは成長を遂げたのですから。わたしの名前使うくらいなんてことないです」
「それでも……いや、ここは好意に甘えておくよ。ありがとう」
「そうしてください。それじゃ、行きましょうか」
和やかに、アンジェとロートが挨拶を交わす。
「―――、」
その光景が、僕にとっては何事にも代え難いモノだった。
「あっ、シオンせんぱーい! ロートせんぱーい! アンジェー! おはようございまーーーーすっ!!」
学院の近くまで行くと、僕達の名前を呼ぶ元気な声。声がした方を見やれば、そこには青髪の後輩――エメが手をぶんぶん振りながらこちらへ向かってきていた。後ろには、リオもいる。
「おはよう、エメ。それにリオも」
「おはようございますっっ!!」
「おう、おはようさん。つーか、うるせぇんだよこの馬鹿」
「バカとはなんですかバカとはぁっ!」
「そのまんまの意味だ」
リオとエメは相変わらずの様子で、今日も喧しく言い合っている。二人が加わることで、一気に賑やかさが増した。
けど、この光景も、僕にとっては大事なモノだ。
二人に一人加わって。三人に二人が加わって、五人になる。
以前は無かった光景。現在だから在る光景。
かつての日常がカタチを変え、新しい日常となっていた。
――そして、この新しい日常には、もうひとつ、大事なモノがある。
「―――――あ」
学院の門を潜り、校舎への入り口の前までやってきたとき、その人物が視界に入った。
「……ごめんみんな、先に行っていい?」
「先輩、またですかぁ?」
「お熱いことで」
「おまえら見てないかもだけど、コイツとあの人、告白するときすっっっっげぇ熱かったんだぜ?」
「え、マジ? ちょ、ロート。そん時の様子詳しく教えろよ」
「ロート先輩、あたしもー」
「………おい、ロート」
急にとんでもないことを言い出すロートに釘を刺す。
……こいつ、実は負けたのが悔しくてこんなことやってるんじゃないだろうな?
「………、兄さん。はやく行ってあげてください。この人達はわたしが何とかしておきますから。――シアさん、待ってますよ?」
「――うん。ありがとう、アンジェ」
やはりよく出来た妹にひとこと礼を告げ、僕は入り口前まで急いで歩く。
そして――そのひとの名前を呼ぶ。
僕の新しい日常。その中でも、最も欠かせない存在の名前を。
「―――シア!」
――最愛のひとの、名前を。
「シオンくんっ!」
僕を目に留めるや否や、シアは顔を明るくさせ、僕の名前を呼んでくれた。
この瞬間が、この日常が訪れるまで、とても長かった。
迷い、悩んで、苦しんで、立ち止まって――それでも、小さな勇気をもって、一歩踏み出した先に、この日常は在った。
だから、後悔はない。
もしかしたら、また何か苦難がこの先僕を待ち受けているかもしれない。
けど、大丈夫だ。だって、周りには親友達がいる。隣に、彼女がいる。
だから立ち止まることはあっても、進むことは恐れない。そう、決めた。
今日もまた、一日が始まる。
――――何事にも代え難い、陽だまりのような一日が、始まる。
第一章 運命始動/了
これにて第一章完結です! 第二章開始は未定ですが、なるべく間を空けないうちに始められるよう頑張ります!




