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Wizard of Diaster  作者: 巡
第一章 運命始動
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第14話『模擬魔術戦:再戦 ────果たされし誓い -Be fulfilled oath.-』


 ――――――そして、この日が訪れた。




「………、」


 鐘の音がなる。それは、終礼を告げる音。

 がやがやと、喧噪に包まれる教室内。そんな中、僕は目を閉じる。


 ――気力は十分。身体も十全の状態。


 静かに、けれど熱く、心が昂ぶる。こんな感覚、久しぶりだ。

 ガタッ、と音を立てて、座っていたイスから立ち上がる。そしてそのまま、教室を出て、魔導館の方へ向かう。


「あ――」

「こんにちは」


 魔導館の入り口前。そこには、シア先輩が立っていた。



「……行くんだよね」

「はい」

「じゃあ、行ってらっしゃい」

「――はい。行ってきます」



 交わした言葉は、それだけ。それだけで、充分。

 もう、このひとには、沢山もらっているから。


 扉の取っ手に、力を込める。ギギィ、と。音を軋ませながら、扉が開く。

 そこには――。




「――よう、遅ェじゃねえか。ミルファク」



 

 いつかと同じように、ロート・ニヴェウスが、立っていた。


「……僕が遅いんじゃ無くて、おまえが早いんだよ、ロート」

「そこはお互い様だろ。まだ定刻まで十五分もある」

「たしかに」


 軽口を叩きあって、互いに笑い合う。


 ――ああ、この光景は、いつかの日常のようだ。



「……お、なんだ二人とも、早いな。どうする、もう始めるか?」


 オルフェ先生が、魔導館内へ入ってくる。


「はい、お願いします」

「お願いします」


 予定していた時間よりまだ早かったが、僕たちは先生の申し出に了承する。


「――――――、」


 一瞬だけ、ロートの顔を視る。


 ……言葉は要らない。そう思い、僕はロートに背を向け、所定の位置に着く。

 息を吐く。そして目を閉じる。どく、どくと、心臓の鼓動が聴こえてくる。



「――シオン(・・・)



 不意に、己の名を呼ばれた。

 その声に振り返る。僕達は、しかと互いに目を逸らすことなく、視線を交わす。

 ロートが、口を開く。


「ここは魔術師らしく、いっちょ名乗りを上げてみないか?」

「……いいね。それ」

「だろ。じゃあ――いくぜ?」


 笑い合い、僕達は正面から向き合う。そして僕は、『マナリング』を指に嵌める。

 ……刹那の静寂が訪れる。その静寂は、本当に一瞬であったが、僕達にとってはとても長く感じられた。

 その静寂が、終わりを告げる。






「───ライナリア魔術学院二年次生《中級魔術師(メディエ・ウィザード)》――シオン・ミルファク!」


「同じくライナリア魔術学院二年次生《中級魔術師(メディエ・ウィザード)》――ロート・ニヴェウス!」






 全く同時に、名乗りを上げる。

 その存在を示すために。

 最高の戦いの始まりを、告げるために。


「――模擬魔術戦、始めッ!!」


 そして、僕とロートの、本当の戦いが始まった。



 * * *



 開始と同時、ロートから大きく距離を取る。出来るだけ距離を取って、ロートの攻撃に対処するためだ。

 ロートの最大の強さは、その《速攻詠唱クイックスペル》の速さ、そして固有詠唱である《超速攻詠唱ハイ・クイックスペル》だ。速さに関して、僕が勝る部分はひとつも無い。

 だから、距離を取る。距離というアドバンテージがあれば、まだ対処の仕様がある。

 ――そう、思っていたが。


「甘ェッ!!」


 氷の槍が僕の横を貫く。それは僕の頬に掠り、頬からは血が若干出ている。

 過ぎ抜けた槍はそのまま僕の後方の壁にぶつかり、その折れる音を魔導館に響かせる。


「くっ……!」


 ――速い。詠唱の速さではなく、魔術の速さその物が、元のそれより速さが増している。

 今の魔術はきっと、彼が得意とする【氷槍アイスティリア】だろう。

氷槍アイスティリア】は至って単純な魔術だ。氷の槍を造り、それを発射する。ただそれだけ。


 だが、シンプルゆえに、アレンジ性と汎用性が高い。

 構造がシンプルな魔術は、術者の魔力操作で、『速度』・『威力』・『範囲』をアレンジすることが出来る。


 範囲を狭めることで速度と威力を上げたり、威力を減らすことで範囲を広げたり、今みたいに、他二つを犠牲に速度だけを上げたり、など。パターンは限られてくるものも、それは時と場合によっていくらでも相手の不意を突ける。


 だからこそ、アレンジ性と汎用性が高いのだ。

 おそらく、ロートは【氷槍アイスティリア】の速度だけを上げて僕に放ってきたのだろう。


「負けてたまるか……っ!」


 ――このままではいられない。

 ――全力で、飛ばして行く。


 魔術記憶領域ストレージを検索する。今、この場に相応しい魔術を瞬時に選択する。


轟け、穿て・(ホウル・トラキェンス)其の一条は(・ラス・ユノス・)雷神が槍の如し・ラキェス・ゼウシアム・ランツェスタ其の咆哮は(・ラス・ホゥリング・)雷神の怒りアス・ゼウシアム・イラエ――――――」


 詠唱を開始する。謳った魔術の想像イメージは『マナリング』の魔力に染色される。それと同時、『マナリング』が魔核の役目を果たし、魔術をこの世界に顕現させようとする。

 だが、それだけでは終わらない。

 魔術を創り、次はその魔術を変化させる。

 威力を中に。範囲は一点集中。速度は――最大。

 そうして出来た魔術を、いま、顕現する。



「――――【地を突き穿つ雷槍フルメラーク・サンディラス】ッ!!」



 右手から迸る一条の雷。魔術改変により本来のそれより速度が上がった雷槍は、ロートの下へ疾走する。


「ふっ――――ッ!」


 だが、そんな魔術でさえ、ロートには届かない。

 ロートは刹那の内に数本の【氷槍アイスティリア】を顕現し、それを【地を突き穿つ雷槍フルメラーク・サンディラス】にぶつけ、威力を落とす。そして一瞬出来た刹那の間に身をかがめ、雷槍を躱した。

 その瞬間的な判断力は、流石というべきか。


「――【突風ヴィンティ】ッ!」


 ロートが腰を落とすや否や詠唱し、風属性初級魔術【突風ヴィンティ】を行使する。しかし、魔術を放った方向は僕ではなく――ロートの後方。

 轟ッ!と一陣の風が吹く。そして、僕が瞬きした次の瞬間には――ロートは、僕の目前まで迫っていた。


「なッ――!」

「オラァッ!!」

「がっ……!」


 ロートに思い切り頬を殴られ、僕は情けなくぶっ飛ばされる。口の中が切れたのか、血の味がする。


(まさか――【突風ヴィンティ】を促進力に使うなんて)


 そう。ロートは【突風】を僕にぶつけるのではなく、あえて自らの後方へ放つことで、己が機動力に変換したのだ。


「どうした、そんなモンかッ! いいや、まだやれるだろう!?」

「っ――当たり前だッ!!」


 ロートの挑発に、僕は大声で返す。

 そうとも。こんなところで終わってなどいられない。

 まだ、アレを使ってすらいないのだから。


「ッ――」


 だが、まだだ。出し惜しみしているわけではないが、温存する。今はその時じゃない。


照らせ、澱んだ闇をイルミィゾ・ラエクル・・我は光を与えしものイド・ギヴェス・リィクス・・其の輝きを(ラス・リヒトス・)、今此処に(ヒィアス・ナオラ)――【閃く光輝(グリト・リヒトス)】ッ!」


 詠唱を完了する。

 次の瞬間、閃光が煌めいた。


 光属性初級魔術【閃く光輝(グリト・リヒトス)】。これは、俗に言う攻撃魔術ではなく《阻害魔術》と呼ばれる類のものだ。

 視界を遮るものや、聴覚を鈍らせるもの――つまり五感を阻害する魔術が《阻害魔術》と呼ばれる。

 いま、この場においてコレを使ったのは、もちろんロートの視界を奪うため。一時的なモノでしかないが、隙を突くには充分なはず。


「づうッ!」


 予想通り、ロートは突如として顕れた光に目が眩み、たたらを踏んでいた。


「・――燃え上がれ紅き柱ブレズ・ルブレゾイムナ! ――【噴き上がる炎柱(エルクリクシィ)】ッ!」


 火属性中級魔術【噴き上がる炎柱(エルクリクシィ)】。座標を指定し、そこから炎の柱を噴出させるという魔術だ。


「チィ――ッ! 【水流ロイクシオ】ッ!」


 だが、ロートは目眩みが直ってないにもかかわらず、その場から離れ、水属性の魔術を二度三度――おそらく直感だけで――放ってくる。

 僕の足下まで流れてきた水は、じわりと僕の靴を侵食していく。

 鎮火する炎柱。静まる空間。ぴちょん、と。水滴が落ちる音。そして――


「【氷槍アイスティリア】ッ!」


 間髪入れず、次の攻撃が来る。

 ただ速さに特化した初級魔術。ゆえに、躱すのは容易だ。

 そう思ったのが、悪手だった。


「かかったなッ!」

「―――!?」


氷槍アイスティリア】を避けるべく、右に躱す。その先には、


「水溜り……っ!?」

「最初に放った【氷槍アイスティリア】を溶かしたものと、さっきの【水流ロイクシオ】で出来たモンだ。そして今、お前はその水溜まりに足を踏み入れた。つまりな――」


 パキパキと、足元が凍っていく感覚。下を見やれば、水溜りに踏み入れている足が凍っていっている。


「おまえは既に、俺の術中だ。――氷結化フリージア開始イニティエト


 徐々に凍っていっていた足が、ロートの言葉により一気に加速する。数秒後には、僕の両足は完全に凍りついて動けなくなっていた。


「くそっ!」


 元ある物質――この場合は水――を、魔術による冷却で状態変化を起こす。それによって僕の両足を凍らせる。実にシンプルで、かつ効果的だ。


「ッ、【小さな焔(クラウム・フォニス)】!」


小さな焔(クラウム・フォニス)】で足を凍らせていた氷を融かす。融かして、ロートが攻撃する前に急いで回避をしようと試みる。だが、


「早く、融けろ……っ!」


 僕の足を凍らせている氷が、中々融けてくれない。その間にもロートは次の魔術の詠唱を開始している。

 響く魔の詩。それは、一歩一歩完成へ近付く。アレが完成したら、僕は負ける。


(どうする――!?)


 このまま氷を融かすことを続けるか、あるいはこちらも魔術を練ってロートに対抗するか。

 普通なら、このまま氷を融かし続けて動けるようにし、ロートの魔術を回避して確実に自分の攻撃を決めるべきだ。

 しかし、圧倒的に融かす為の時間が足りない。

小さな焔(クラウム・フォニス)】以上の火属性魔術を使えば楽なのだろうが、あいにく僕は攻撃系、しかも広範囲の炎属性魔術しか使えない。下手にそれらを使ってしまうと、自分の足まで使い物にならなくなってしまう。

 時間はない。刹那の選択。僕が選んだ答えは――。


(―――――アレを、使う)


 温存していたモノを。創り上げたあの魔術を、ここで使う。


「―――、っ」


 舌が乾く。急に、心拍数が上がる。本番で使うという事実に対して、臆病な心が顔を出す。




「さぁ行くぜ、シオン、仕上げだ。

 ――頼むぜ、ここで終わってくれるなよ? おまえ、この期に及んでまだ本気出してねぇだろうが。ビビってるなら、そんなモンさっさと捨てちまえ」




 だが、親友のその言葉で、そんなモノは消えた。



「―――――、ああ。そうだった」


 これは、模擬魔術戦。しかし、いくら模擬とは言えど、これは戦いであることには変わりはない。


「【銀雪崩壊ニウェレ・ルイヴァス】ッ!!」


 ロートが、魔術を顕現させる。瞬間、発生する小規模の雪崩。小規模であれど、この狭い魔導館を満たすには充分だった。



「――――――――――」



 迫り来る白銀の奔流を見据えながら、僕は考える。


 そう。これは僕達にとって最高の戦いでなければならない。

 ならば僕は、僕の全力を以て、ロートに応えないといけない。出し惜しみだとか、温存だとか、そんな選択自体がそもそも間違っていた。


 いいや――結局のところ、僕はまた、怖いからその選択から逃げていただけだった。

 逃げないと、心では決めていたつもりでも、無意識に逃げていたんだ。


 ……けど、それが人間というモノだろう。昨日の今日で簡単に変われるほど、人間の心は強く出来ていない。苦しんで、藻掻きながら、それでも前に進んで――無数の選択をしながら、人は変わっていく(生きていく)


 今が、選択の時だ。失敗を恐れ、何もしないか。己を信じ、戦うか。


(僕は――どうしてここにいる?)


 自らの心に、問い掛けた、そのとき。




「―――――シオンくんっ!!」




 その声が、聞こえた。


「――――」


 刹那の内に、様々な感情が僕の中を駆け抜ける。

 僕が今、ここにいる理由。

 それは、アイツの期待に応えたいから。――アイツに、勝ちたいから。

 そして――先輩に××だと、言いたいから。

 だから僕は――



「――ここまで、這い上がって来たんだッ!!」



 ゆえに詠え。己が魂を懸けて生み出した、唯一無二の詠唱を。

 彼女と編み出した――僕の【固有魔術オリジンマギア】を。







「――――Est() wehlects() las() anukreis.()






 

 紡がれる一つの詠唱ウタ。それは、僕だけに許されたモノ。


 ――魔術という術の根幹に『大小宇宙照応理論だいしょううちゅうしょうおうりろん』というモノがある。


 大宇宙すなわち世界と、小宇宙すなわち人は、本質的には同一のモノ。全は個であり、個は全。上と下に在るモノが互いに照応しあう。この時、主観と客観――世界と自身の間を媒介するモノ、それこそが「言葉」……つまり、アリスィア語での詠唱である、というものだ。

 ヒトの深層心理に魔術イメージを刷り込ませ、詠唱で意識を改革し、結果として対応する法則に介入する。魔術を起こせるのは、ひとえにこの考え方が魔術の根幹にあるからだ。



 ――ここで、視点を変える。



 世界と人は同一。ゆえに、魔術師は世界法則を変えることができる。


 ――ならば、自己法則・・・・を変えることはできないのか?


 魔術とは詠唱を以てセカイの法則に、"結果"として介入する技だが――『己自身の法則』へ、介入することも可能なのではないか?


 己という小宇宙セカイを縛るほうそく。これを変革することも、詠唱によりまた可能なのではないか?

 そう、考えた。




Finiteus(選択) vehl()ecting.()




 そして僕は――いいや、『僕達』はそれを可能とする魔術を、創った。


 詠唱を以て、結果として介入する法則を、世界ではなく『自己』に当てる。



 すなわち、世界法則ではなく(・・・・・・・・)自己法則を(・・・・・)変革させる魔術(・・・・・・・)を生み出す。それこそが、シオン・ミルファクが出した答え。



 法則を変革し、導き出す結果は――『己が脳内にある双つの魔核アステルを、同時に扱う』というもの。

 僕の欠陥は本来なら一つしかない『魔核アステル』が双つ在るせいだ。実際にそうなのかは未だ判らないままだが――その仮定を元に魔術を創り、結果として、コレは僕の欠陥を克服させるに至った。

 ゆえにコレは、正解ではなくとも解であることに変わりはない。



『詠唱に世界を変える力があるのなら、自分自身をも変えれる力があるのかもしれないね』

『わたしは、それだけの力が"言葉"にはあると思うよ』



 発想の基は、彼女の言葉。

 詠唱コトバに世界を変えられる力があるのならば、自身をも変革させる力もある。そう考え、編み出したモノ。


 既存のモノに、普遍的な思考に縛られず、常識から脱却する。それは大多数の人間から見たら異常と呼ばれる存在。しかし、何かを生み出し世界にその跡を遺してきた者は、得てして異常な者ばかりだ。

 たとえばそう、眼前の好敵手(ロート・ニヴェウス)でさえ、異常の枠に入る。

 ならば、その異常と渡り合うためには、通常を捨て異常へ至らねばならない。


 ――――されど、その異常こそが、己にとっての通常ならば。


 迷いはない。元よりこの身は欠陥の躯。ゆえに、躊躇いこそすれ決断こたえを違えることはない。


 この場に相応しい回路ミチを。

 迫り来る一撃を粉砕するための回路カタチを。

 変革し望む結果を、ここに引き起こす。




Est'll in()itiet con()nexienden.(、開始)




 接続を開始する。脳に存在する双つの魔核を、望んだカタチへと変える。


「――――っ、あ」


 それはつまり、己の中に在る魔核の在り方を、根本的に変えるということ。ゆえにこれは、人の在り方を変える魔術。


 身体が――正しく言えば、脳が――悲鳴を上げる。それも当然。これは本来ならば有り得ないことなのだから。

 有り得ないことを、有り得ない力を以て、成り立たせているのだ。


 これは世界に存在するあらゆる魔術の中でも、未知数の危険を孕む魔術。前人未踏の領域に他ならない。常に痛みは傍に在り、異常へ至る道を歩んでいる。


 脳が絶え間なく痛みを訴えてくる。だが、それがどうした。そも、代償無くして勝利など有り得ない。そう考えれば、これくらい安いモノだ。



Finiteus() connex(続完)ienden()―――」



 勝つ――、そう決めた。

 僕を信じてくれた、少女のためにも。

 この痛みは、勝利のための痛み。

 この力は、あいつを超えるための力。



Las omnis-(全工)procesia() endeed.(終了)



 全ての工程はここに終了した。

 この術は、その名を紡ぐことにより完成する。




「――――Anfatim(起動)――――」




 己の内に眠る全てを解き放て。

 ここに紡げ。シオン・ミルファクにのみ許された、唯一無二の魔術の名を。

 其の名は―――




Aster(同時) wiltus(魔核) erldio(処理)――――"las serie(【直列) anukreis(回路】)."ッ!!」




 ――【同時魔核処理アスタ・ヴィルトゥス・エアレディオ】。僕の脳内に存在する双つの『魔核アステル』を、同時に扱う為に彼女と創った、僕の固有魔術オリジンマギア


 意識が切り替わる感覚。視界がクリアになり、頭が冴え渡っている。思考が高速化する。並列思考をいとも簡単に行い、演算を繰り返す。


紅く、(ルブレ・)朱く、(ルブレ・)赤く、燃え盛れ(ルブラトゥブレンメ)・――」


 詠唱を開始する。紡ぐ魔術は、眼前の銀雪を融かし尽くす魔術。

 通常、魔術発動のプロセスとはイメージを持った魔力が魔核を通ることで初めて魔術が成る。


 だが――その過程で、魔核を(・・・)二回通った(・・・・・)としたら(・・・・)


 答えは簡単だ。



「――【烈火よ、猛々(イグナトゥス)しく燃えろ(・フィレクシア)】――」



 ――――威力が、増幅する。


『――――――、!!』

 爆炎。そして轟音。

 獰猛なる烈火が迫り来る銀雪を跡形も無く融かし尽くす。

 じゅわあああ、と。雪が蒸発する音が、耳朶に響く。


 これこそが今の僕の魔力回路――【同時魔核処理アスタ・ヴィルトゥス・エアレディオ直列回路セリエ・アニュクレイス】の真髄。


 それは、脳内に在る二つの魔核を連結させて、一つの魔術回路にするというもの。

 これによって実現するのは、ある詠唱。



(――《二重詠唱ダブルスペル》。この回路のみで使える、固有詠唱)



二重詠唱ダブルスペル》とは、要は『魔術の重ねがけ』だ。魔核を通って完成した一つの魔術を、もう一度魔核に通す。そうすることで、威力が二倍になる。これは二つの魔核を連結させた状態である【直列回路】状態でなければ使えない、固有詠唱だ。


「な……ッ!?」


 ロートが、目を見開く。今しがた起きた現象に、驚愕を隠せない様子だ。


「……ロート。確かにおまえは強い。天才と言っていい。僕が追いついたと思っても、おまえはまた更に上を行こうとする。それはあの時から、変わってない」


 眼前に立つ氷の魔術師に、僕は告げる。

 それは、彼に対する、真の宣戦布告。

 同じ土俵に立ったということを告げる為の、布告。



「確かに、一度は立ち止まった。諦めようと思った。本当は止まるんじゃなくて、進むことで、おまえと同じ景色を見たいと思っていたのに。なのに、僕は止まってしまった……っ!

 ――それでもっ、僕は這いつくばりながら、ここまで来たッ。だって、おまえが、僕の背中を叩いてくれたから!! だから僕は――」



 正面からロートを見据える。

 彼の眼には、今の僕がどう映っているのだろう。

 何となく、今のロートの顔と、同じ顔をしているんじゃないかって思った。

 だってほら、今のロートは、


「――全力で戦って、おまえという憧憬あこがれを超えて、そして勝つ!!」

「――おもしれェ。ここからが本番だ」


 あんなにも、笑っているのだから。


 僕は、指に嵌めていた『マナリング』を外し、ポケットの中に仕舞う。

 もうコレは、要らない。


 再び、僕達は開始位置のラインへ並び、向かい合う。

 今までの戦いは前哨戦に過ぎない。

 ここが、ここからが真の決闘。僕達のすべてをぶつけ合う場に他ならない。

 ゆえに――さぁ、行こう。





「行くぞ親友ロート。おまえの期待に応えてやる」

「来い、親友シオン。おまえの本気を見せてみろ」





 そして――僕達の戦いが、真の意味で幕を開けた。



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