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Wizard of Diaster  作者: 巡
第一章 運命始動
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Prologue_F『星空の下、昔日の約束 -a promise-』


 ――――それは、数多の星が輝く、美しい夜の日のことだった。



「わたしね、もうすぐここから出て、家の方に戻るの」


 星空の下、二人の少年少女が、肩を並べ座っていた。

 そこは隔絶された二人だけの世界。ここにいるのは彼と彼女の二人だけであり、それ以外のモノは存在しなかった。


「帰っちゃう……の?」


 そう聞き返した声に、少年はどうしても寂しさの色を隠せなかった。


「うん。ここにいられるのは、あと二日くらいかな」

「………そ、っか」

「もう、そんな顔しないの。男の子でしょ」


 少女は苦笑しながら、少年を宥める。

 少年とさして年齢は変わらないはずなのに、彼女の方が一歩大人に見える。

 彼女はいつもそうだった。何処か常に大人びてて、自分を弟のように扱ってくる。そしてそれが、少年は決して嫌なわけではなくて。


 ――少年は、そんな彼女のことが、好きだった。


 だから、離れるということが、嫌で嫌で仕方なかった。


「でも僕、××が居なくなるの……寂しいよ」

「……わたしも、だよ。本当はここに居たい」

「だったら――!」

「でもね。それじゃだめなの」


 少年の想いを理解しつつも、少女は強く、その願いを否定する。


「わたしたちが一緒に居たいと願っても、周りがそれを許してはくれない……だからわたしは、行くしかないの」


 その時、少女が言った言葉の意味を、その時の少年はひとつも理解できていなかっただろう。

 それくらい、彼はまだ、幼かった。


「よく……わからないよ」

「そっか。……うん。いまは、わからなくてもいいよ。だけどもっと大きくなって、このことを思い出した時に、わかってくれればいい」


 短く、そして何処か諦めの意を含んでいた言葉を聴いたとき、少年は形容しがたい不安を感じた。

 もう逢えないのではないか。ここで、彼女とはお別れなのではないか――そんな不安が過ったから。

 だから――。



「じゃあ、僕が××を迎えに行くよ」



 一握りの勇気を振り絞って、彼女にそう言った。

 少女の、空のように蒼い両目が、大きく見開く。視線が右へ左へ彷徨っている。

 まるで、いまの少年の言葉が信じられないものであるかのように。

 だから、少女の不安を断ち切り、肯定するために、少年は言葉を紡ぐ。


「大きくなって、もっと魔術の腕も上達して、そして父さんみたいな立派な魔術師になったら……必ず、××を迎えに行く。ぜったい、約束する」


 それは、本心からの言葉だった。

 子供の時分ではあったけれど、それでもこの想いに――彼女を好きだという想いに、偽りはなかった。

 そのとき、彼女がどんな顔をしていたかは覚えていない。笑っていたかもしれないし、そうじゃないかもしれない。けど少年は、笑っていて欲しいと思った。

 ……そうして、少し経ったあと。


「――ねぇ、シオンくん」

「うん。なに?」

「ぜったい……約束、してくれる? 本当に、迎えに来てくれる?」

「絶対に、迎えに行く。どれだけ時間がかかっても、かならず××ちゃんのところまで行くよ」


 迷わず、はっきり。そう答える。

 そんな少年を前に、少女は夕日のような緋色の髪を指先でいじりながら、少し照れくさそうに、


「……うん、待ってるね。ずっと、ずっと」


 そう、答えてくれた。

 風が吹き、木々が揺れる。

 上を見上げれば、幾百もの星が散りばめられていて、まるで黒い布に白い点を何百も何千も打ったみたいだと、少年はぼんやり、そう思った。

 ただ、目の前に広がるこの景色がとても美しいということだけは、少年でも理解できた。


「……すごく、きれい」


 少年の隣で、少女が夜空を見上げながら、小さく呟く。

 その横顔を見て、少年は固く誓った。

 絶対に、約束を果たすと。


 心の芯に――魂に、そう刻んだ。



 数多の星が煌めいていた、夜の日。

 それは、少年と少女がひとつの約束を交わした時の記憶で。




 ――そして、いまはもう、思い出せない記憶。



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『Wizard of Diaster : Material』
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