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早い再開

「うめぇーな!この肉!」


父の元に馬を連れて戻ったオレは、当然ながら遅いと説教を受けた。

しかし、お詫びとして肉を差し出したら喜んで昼飯を始めた。


だが、まぁ、その肉の元々は父の物なのだがな。


「どこで手に入れたんだ?」


「ふむ。森でな」


先程まで居た森を指差しながら言うと、父は一瞬驚きの表情を浮かべてから、何かを悟ったような表情になった。


「アイツ等にも食わせてやりたい美味さだな。何の動物なんだ?」


オレならば味で分かるが、父には分からないのだろうな。

捌いて渡した事も分からない要因の一つなのだろう。


仕方ない。教えてやろうではないか。


「馬だ」


「…ん?なんだ?俺の耳がおかしくなったか?馬って聞こえた気がしたんだが…」


「間違ではない。馬だ」


「そうか!そうか!馬か!って、馬かよ!?馬って食えねぇだろ!」


む?何を言ってるのだ?


「馬は食用だぞ?何を言ってるのだ?」


「いや!いやいや!イクスこそ何言ってんだよ!馬は食用じゃねぇぞ!?誰だよ!そんな事教えたの!?」


「だが、美味いだろ?」


「ああ!美味いよ!コンチクショー!」


ふむ。何か気に障ったのかは分からんが、父がヤケ食いし始めた。


「因みにだが、父の馬だ」


「ブフォッ!」


む、突然吹き出すとは何事だ。

汚いではないか。



〜〜〜



馬が走る。

まるで、何かから逃げるかの如く、走る。


その速さには眼を見張るものがあるが、


「止まんねぇぇぇ!!」


「ふむ。遅いな。もっと速く走れぬのか?」


「ヒヒィィンッ!」


馬は一鳴き…いや、一泣きしてから、走る足を早めた。

どうやらオレの言葉が分かる馬みたいだ。


それと、父よ。これではまだ遅い方だ。何を振り落とされそうになっているのだ。

そんなのだと、竜に乗った際には一瞬で振り落とされてしまうぞ。


「ふむ。まだ遅いな」


オレは馬の側を並行して走っているが、馬が遅すぎて速度を合わすのに苦労するのだ。


オレの一声に、馬はより速度を上げる。

だが、それでもオレが満足行くような速度ではない。


いっそのこと、この馬も食用として他の乗り物を手に入れた方が…む?馬の走る速度がより一層速くなったな。


ふむ。この速度で満足してやろうではないか。


そんな調子で走り続け、草原が黄金色に輝く美しい景色になり始めた夕方。


ようやく街が見えてきた。


まだ距離は大分あるが、歩けば夜に到着出来るだろうな。

しかし、ここからでも良く見える半壊した塔には見覚えがあるような…。


それが目的地であるかは定かではないが、興味はある。


だが、今は”カルンカーレ”に向かうのが最優先事項である。


ふむ。父は馬の操縦が満足に出来ず、振り落とされまいとしがみつくので精一杯のようだったから、一度馬を止めて尋ねる必要があるな。


「馬よ、止まれ」


このままでは、満足に父とも話も出来ないと思って馬に命令を下したのだが、それが失敗だったのだろうか?


馬は急停止した。それは良い。しかし、背に乗せている父が反動で前方へと飛んで行ったのだ。


顔面からの不時着だ。

これ以上、頭を悪くしてなければ良いが…。


「な、なんだ!?何が起こったんだ!?」


ふむ。無事で何よりだ。

馬はヨダレをダラダラと垂らして疲れ果ててるみたいだがな。


しかし、父よ。先程までの記憶がないようだな。やはり、頭を悪くしたか?


「おっ!寝てるうちに着いてるじゃねぇか!イクス!アレが大都市”カルンカーレ”だ!」


ふむ。寝ていたのか。初めは必死だった筈だが、馬の上で寝る余裕まで出来たのか。素晴らしい根性と努力だ。

後は、より一層の努力で馬を扱えるようになるだけだな。


「さぁ!あと一息だ!行くぞぉ!!」


ふむ。走るのか。

馬には乗らないのだな。


だが、折角貰った馬だ。ここで捨て置くのも勿体無い。


「馬よ。父から逸れるな」


オレの言葉一つで、馬はバッと立ち上がって父の後を追い掛けて行った。

足元からフラついているのを見る限り、相当疲れているのだろうな。


街に着いたら存分に休憩させてやろうではないか。


ふむ。では、オレは一足先に向かうとするか。


「『スキル解放【瞬動】』」


足を一歩踏み出した刹那。一瞬にして景色が巡り、オレは”カルンカーレ”とやらの街の門の前に到着した。


しかし、わざわざスキルを解放しなければならないのは手間でしかない。

これからは、スキルを会得する事に努力を割く事にしよう。


それから暫く待っていると、息を切らした父と馬が到着した。


「な、なんて速さだよ…」


と、父は言っているが、オレが父の側を通り過ぎる瞬間を目視で確認できていた事に対して、オレは少々面食らっているのだ。


前世よりも力は劣っているにしても、【瞬動】を目で捉えるなど、至難の技なのだからな。


「ふむ。そんな事より、早く街に入るぞ。馬が疲れているようだしな」


「ああ…俺の心配はしてくんねぇのかよ…」


ボソリと小さな呟きが聞こえたが、無視して門の方へと向かうと、後から父と馬が追うように着いて来た。


街の中に入るには、何やら色々な手続きや金が必要だったみたいだと父から説明を受けたが、父がカードを兵士に見せるだけで簡単に中に入る事ができた。


初めの説明はなんだったのだろうか?


「じゃあ、宿探しだ!」


街に入っての父の第一声がこれだ。


「ふむ。馬よ。良い宿を知ってるか?」


「ブルルッ」


ふむ。首を縦に振ると言う事は知っているのか?


「ならば、案内してくれ」


馬はオレの言葉に頷いてから、先導して歩き始めた。

その後をオレ達は付いて行く。


「なんで馬と会話できてんだよ…」


父が呆れたような声音を発しているが、気にしないで良いだろう。


暫く馬の後に続いて歩いていると、一軒の建物の前に辿り着いた。なにやら見覚えのある馬車が前に止まっているが、気にせずに中に入るとしよう。


「ちょっ!待てってイクス!そこはダメだ!」


「なぜだ?わざわざ馬が案内してくれたのだぞ?」


「その宿屋は高いんだよ!もっと安い所知ってるから、そこに行こうぜ!な?」


ふむ。そう言うなら仕方ない。

馬が折角案内してくれたと言うのに、無駄足だったのだな。


「済まぬな、馬よ。父の我儘に付き合わせて」


「ブルルッ」


ふむ。『別に構わない』と言った風な感じだな。


「それでは、父よ。案内してくれ」


「ああ、場所はすぐ近くだから、すぐ着くからな」


ふむ。ならば、そこへ先に案内して欲しかったものだ。


「む?」


父が歩き出したので、オレもそれに続こうとしたら、服の裾を引っ張られる感じがした。


オレの勘が告げている。振り返ってはならない。今すぐにこの場を離れろ、と。


「どうしたイク……ほほぉー、やっぱり、イクスも男だな」


オレが付いてこない事を不思議に思ったのだろう。父が振り返って尋ねて来たが、なぜ納得したような顔をするのだ?


「けどな、イクス。まだお前は子供なんだ。そう言う事はもう少し大人になってからだな」


「ふむ。父よーー」


話が長くなりそうだったので、途中で区切ってやろうとした。

だが、それは別の声によって阻まれた。


「おお!イクスじゃないか!さっきぶりだな!ガハハハハッ!」


ふむ。この声はアークだな。

と言う事は、オレの服の裾を掴み続けているのは、オレの考えてる人物で間違いないだろうな。


振り返って確認してみると、


「約束した。今が今度。結婚」


やはり、リリルだった。


「ふむ。今日では決めれぬ」


「じゃあ、明日」


「それは早急すぎると言うものだ」


「………いつ?」


「ふむ。ならば、お前が大人になってから考えてやろう」


「分かった」


リリルには困ったものだ。

出会ってすぐに恋を語るなどバカのする事ではないか。


それでは、本当の恋なのかさえハッキリしない。


だからこそ、オレは大人になってからと指定した。それだけの猶予があれば、他に好きな人を見つけて恋を語るだろう。


「ふむ。その目でオレを見るな、父よ。…それと、アークよ」


その気持ち悪い瞳を向けるでない。


「なぜだ!?息子の晴れ舞台じゃねぇか!」


「分かってるじゃねぇか!娘の愛の告白を見守ってこそ、父親ってもんだ!」


「そうだそうだ!」


どうやら、父親と言う肩書きを背負った二人は意気投合したみたいで、手を組み合って…ガシッと抱き合った。


ふむ。要は、アレだ。

男と男のラブコメ的なやつだな。


「よしっ!今から近くの酒屋で飲みながら、子供について深く語り合おうじゃねぇか!」


「その話、ノった!」


ふむ。父よ。なぜ、許可したのだ?

仲良くするのは全く構わないのだが、息子を放置して行くのか?

オレは宿屋までの道を知らんぞ。


「ってなワケで、俺等は用事があるから、子供は子供同士で仲良くしてるんだぞ!」


「イクス。間違っても女の子を泣かすんじゃねぇぞ?それと、これは宿代だ。その辺の路地を適当にほっつき歩きゃ、”オオウの宿”って言う宿屋があるから、そこで泊まるんだ」


それだけ言うと、父親の肩書きを背負った二人は、肩を組んで歩き去って行った。


ふむ。


「……ふむ」


オレの手元には、銀色の硬貨が一枚。

どれ程の価値かは知らぬが、これで宿屋を使用できるのだろうな。


しかし、父には困ったものだ。


「貴方も大変ね」


「む?」


声のした方へ視線を向けると、そこにはミーネが立っていた。

その側には執事のラッテンも居る。目が合うと、ラッテンは深く頭を下げた。


しかし、不意に声を掛けられて驚くとは、オレもまだまだ未熟だな。


街中だからと気配察知を使っていなかったが…これは甘えと言うものか。常に気配察知を使っている状況にしておくようにしよう。


「先程振りでございます、イクス様。して、旦那様は…?」


「ふむ。オレの父と呑みに行ったぞ」


「そうですか。それは後で奥様に報告しなければ、ですね」


ふむ。やはり、男は女の尻に敷かれるものなのか?

父が母に怯える姿を良く見かけるし、そのような気がするぞ。


「では、イクス様。宜しければ、こちらで御一泊されては如何でしょうか?」


「ふむ。良いのか?」


オレには銀色の硬貨がある。

それで、どこぞの宿屋で泊まれるのだが。


「はい。現在、この宿は貸切となっておりますので空き部屋は沢山あります。それにですね、旦那様が御不在の為に料理が余って勿体ないのです」


ふむ。そう言う事ならば遠慮する事ないな。


「ならば、頼もう」


オレは貰える物は遠慮なく貰う主義である。

その理由は、その後、何をしても手に入れれなくなる事が多々あったからに他ならない。


勿論、前世の話だがな。

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