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民営騎士団は眠らない  作者: 実乃里
第一章 バイト先は騎士団本部
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彼女の過去

 アイリスと一緒にベケットに着くや、セシールさんにからかわれた。男女の間を彷彿させる下世話な内容だったせいか、アイリスは強く否定した。


「酷い言いがかりです! 誰がこいつと関係を持ちますか! こんな腑抜けた男子、ぜんぜん好みじゃありませんから!」


 非情に傷つく言い方だった。胸にグサグサ刺さるものがあった。


「こいつがどうしても私を送りたいと言うから、仕方なく送られてあげたんです」


 なんと横暴な。すさまじい上から目線だ。


「ということは、アイちゃんがトモ君に気を許したのは事実なのよね。アイちゃん、滅多なことでは人の好意に甘えないじゃん」


 エリーさんが話をややこしくし、


「そうね。アイは少なからずトモ君に心を開いている証拠だと思うわよ」


 シャロさんが火種を蒔き、


「トモ君、これからもアイのことをよろしくお願いしますよ」


 アヤムさんが油を注いだ。


「あー、もう、わかったわよ。みんながそう言うなら、こいつと仲よくしてやりますよ!」


 そしてアイリスがブチ切れた。


「あんた今日から毎日私の送り迎えお願いね。それと学校にいるときも私の身の回りの世話しなさい。団員を助けるのも雑用係の仕事って、自分で言ったんだからね」


 凄まじく身勝手で、一方的な話だった。即座に拒否しようとするも、


「キャー、アイちゃんがデレたわ」「これって一種の告白だよねぇ」「アイはトモ君のことを気に入ったようね」「私はお二人を応援します」


 拒否することが許される空気ではなかった。猛獣の飼育係を押しつけられた気分だ。


「というわけで、これからコキ使ってやるから覚悟しなさいよ」


 かくしてこの日を境に、僕のバイトは激務へと突入したのだった。

 まず登下校をアイリスと共にするハメになった。朝はいつもより早く家を出て、アイリスの家に寄る。彼女を自転車の後ろに乗せ、学校まで走る。この時点で重労働極まりない。僕の家から見て、リバーヒル地区は市内の反対側だ。寄るだけでも大幅な遠回りになってしまう。おまけに人を一人乗せるのだ、学校についた時点で体力は尽きている。

 学校にいるときはいるときで大変だ。購買へジュースやパンを買いに行かされたり、お昼休みに市内のスーパーへ走らされたこともあった。まさに専属奴隷だ。


「お前、なんだってアイリスの下僕になり下がっちまったんだ?」

「社長からの命令なんだから仕方ねえだろ。その分自給は上げてもらったから悪い話じゃねえんだよ」


 あのあとセシールさんから、アイリスの面倒を見ることを正式な業務として命令された。どうもセシールさんはアイリスのことを特別気にしている節がある。

 その辺について尋ねてみたところ、意外な事実が判明した。アイリスのお父さんは、ベケット騎士団が市営だった頃、騎士団長だったらしい。上級公務員だ。立派な屋敷に住んでいたのも頷ける。名前はトーマス・グローベルクで、セシールさんのお父さんとは親友同士だったそうだ。親が親友なら娘も同じだ。セシールさんにとってアイリスは妹みたいなものなのだ。

 話しを聞いてみて、気になることがあった。二人のお父さんの関係だ。『親友同士だった』と、過去形になっていることだ。

 イヤな予感を覚えてみれば案の定で、三年前、トーマス氏は故人となったのだそうだ。母親はアイリスが赤ん坊の頃に病死していることも、セシールさんは話してくれた。

 ……アイリスは孤独なのだ。

 同情という感情により、僕は彼女のわがままを受け入れていた。

 学校やプライベートでは横暴の限りを尽くすアイリスだけれど、ベケットでの仕事ぶりは熱心だ。お客さんには丁寧に対応するし、与えられた仕事は完璧にこなす。今日などは暗くなるまでかけ、商店街のドブ掃除を完了させ戻ってきた。


「先に帰っていてもよかったのに……」

「お前を家に送らなきゃならんだろうが」

「そっ、そうか……。いっ、いつも悪いな。たっ、助かっている……ぞ」

「気にすんな。これも仕事だ。残業手当が出るから問題ない」

「ああ、そうか! 仕事だから仕方がないな。このっ!」

「ウェッ! 首を絞めるんじゃない。苦しい!」


 僕はもがきながら自転車を夜の市内を走らせた。

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