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民営騎士団は眠らない  作者: 実乃里
第五章 ヤックハルスデイ
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居場所特定

 その後、アパートの部屋は警察に封鎖され、僕らは外へと追い遣られた。クラークさんはノア警部と一緒にファキオワードポストへと戻った。上司への報告と、本社にあるパトリシアさんのデスクなどが調査されるのだろう。

 パトリシアさん……、いやもう『さん』づけの必要はない。パトリシアの負けは確定した。あと数時間もすれば公国全土に手配書が回る。逃げ切れるわけがない。彼女の逮捕は時間の問題だろう。

 とはいえ、問題はアイだ。アイの無事が確認されない以上、なにひとつ事態は好転していない。

僕らは一旦ベケット本部へ戻り、セシールさんへの経過報告をすませたのち、再びアイの捜査へと赴く。

 今度は五人バラバラに動くことにした。正体不明の殺人鬼という、ヤックハルスにとって最大のアドバンテージが崩れた以上、やつの危険度は激減したからだ。

 人探しは、対処となる人物が最後に見かけられた場所から探すのがセオリーだ。そんなわけで僕は自転車に乗り、アイが最後に訪れたというスコフィールド地区の玩具屋の前にきた。

 ここからの足取りが不明だ。ポーセリン商店街に現れなかったのなら、ヴァクラム地区へは向かっていないと思ってよいだろう。ではどこに……。

 玩具屋の軒下で通りを眺めながら思考に耽っていると、


「そこの兄さん、さっきから難しい顔だね。ここはひとつ、うちのジュースでも飲んで気分を紛らわすってのはどうだい」


 脇にいる屋台の店主から声をかけられた。子供向けのジュース屋台だ。


「おじさん。昨日もここで商売してました?」

「していたとも。昨日どころか一昨日も、その前の日も。私は毎年カニスの日になると、この場所でジュースを売っている」


 とりあえずお金を渡し、オレンジジュースを一本注文すると、店主は上機嫌に顔を緩めた。


「ヤックハルスのせいで商売あがったりだ。せっかくのカニスの日だってのに、子供連れがさっぱり通りかかりゃしない。今年は最悪のカニスの日だな」


 店主は愚痴を零しながら紙コップにジュースを注ぎ、こちらに手渡してきた。

 別に咽が乾いていたわけじゃない。話しを訊くには相手の機嫌を取った方が円滑に進むと踏んだだけだ。アイとパトリシアを最後に目撃したのはこの店主に違いない。


「昨日の遅くなんだけど、ピンクの髪の女の子と、肩にカメラを担いだ女の人がこなかった?」

「覚えているとも、昨日訪れた唯一のお客だ。コーラを二本買ってくれた」


 ……アイたちがこの場所を訪れたのは集合間近だ。小休憩にしてはタイミングが適切でない。それにアイは炭酸が苦手なのだ。好んでコーラを買うとは思えない。

 そのときの状況を詳しく尋ねたところ、どうもコーラを買ったのはパトリシアのようだ。玩具屋から出てきたところ、パトリシアが屋台に歩いてきて二人分のコーラを購入し、片方をアイに手渡したというのが正確な状況らしかった。


「コーラを買ったあと、二人はそこの十字路を左にまがって行ったよ」


 僕は飲み終えたジュースのパックを路地のゴミ箱に捨てると、店主に教えてもらった方向に自転車を漕いだ。

 路地はまっすぐ伸びている。そのまま進めばステアー地区に行着くことだろう。二人はステアー地区に向かったようだ。

 僕は建物同士の隙間に気を配りながら路地を進んだ。変わり果てたアイが横たわっていないことを強く祈りながら……。

 そうこうしているうちステアー地区に到着する。前方には大通りが広がり、僕は今日何度目かの途方に暮れた。

 このあとアイはどこへ向かったのだ。この辺の店に入ったのか、それとも裏路地に誘導されたのか、またはこの地区は通過しただけなのか。とにかく選択肢が多すぎる。

 近くにあったゴミ箱を蹴飛ばした瞬間、ふと気づく。

 僕はゴミ箱のフタを開き、中のゴミを引っかき回した。

 シェイクのパックにシュークリームの包み紙を掻き分け、あるものを探す。

 目的のものは見つからず、次のゴミ箱を調べる。

 アイとパトリシアの二人は、先程の屋台でコーラを買ってあの路地に入って行った。ここで一つ思うことがある。ジュースの紙コップはどう処分したのだろうか、と……。アイはだらしない性格だけれど、ゴミのポイ捨てだけはしない。コーラを飲み終えたのち、紙パックはきちんと路地のゴミ箱に捨てたに違いない。

 まず炭酸が苦手なアイは路地を歩きつつ、顔を顰めながらチビチビとコーラを飲んでいる。アイはキライなものを口にするとき時間をかける癖があるのだ。少しずつコーラを飲み続け、飲み干した頃にはステアー地区に到着していたと予想する。このあと空っぽになった紙コップを手短なゴミ箱に捨てたはずだ。紙コップが見つかれば、二人の進行方向を特定できるはずだ。

 僕は通りにあるゴミ箱を次々調べる。通行人に怪訝な顔を向けられようと構わず続けた。そしてついに、大通りから右に入ったところのゴミ箱から、ジュースの紙コップを発見した。

 あの屋台の紙コップだ。店名が書かれているので間違いない。個数は二つで、中には僅かに残ったコーラが確認できる。店主の話しでは、昨日はアイたちしか客がなかったようなことを言っていた。加えて今日はゴミの回収が休みだ。ゴミ箱は昨日のままだと予想される。

 あの路地を歩いてきたアイとパトリシアは、この道を通ったのだ。

 僕はゴミ箱から顔を上げ、道の向こうに広がるステアー地区の森を眺めた。

 瞬間、閃くものがあった。パトリシアの父はマリンヒャーワイン工場の旧オーナーだったらしい。現在は別の街に移転してしまったが、当時のワイン工場はステアー地区の森にあり、今も工場跡は廃墟として残っている。パトリシア・コーウェンと森の中のワイン工場跡は繋がるのだ。

 半信半疑ながら森に近づき、森の入口に残った足跡を見つけたとき、確信に変わる。

 地面の土が柔らかいおかげで、靴裏の模様もはっきりと確認できる。足跡は二人分あり、一つはアイのものに間違いない。何度となく靴磨きをさせられたから模様もしっかり覚えている。

 僕は自転車を乗り捨て、森の中へ踏み込んで行った。

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