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民営騎士団は眠らない  作者: 実乃里
第五章 ヤックハルスデイ
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殺人鬼の正体

 商店街中に散っていたみんなを集め、再びパトリシアさんのアパートを目指す。

 ことの次第をノア警部に伝えるため、シャロ姉さんとアヤムは途中で警察署へ寄ってもらい、アパートへは僕とエリー、ルーチェさんとクラークさんとで向かった。

 アパート一階に住んでいる大家さんを説得してマスターキーを手に入れ、パトリシアさんの部屋に入る。


「パティは大事なものを寝室の机に保管する癖がある。手がかりがあるとすれば多分そこだ」


 言われたとおり寝室には机があり、僕は上から順に引き出しを調べた。

 上段には筆記用具が、中段には仕事のファイルが、下段には鍵がかけられており、開けることができない。ここが怪しい。


「鍵がどこにあるか知りませんか?」

「さすがにそこまでは……」


 クラークさんもわからないようだ。


「わたしが魔法で破壊しましょうかぁ。こんな机ぐらい簡単に壊せますぅ」

「いやダメだ。中身が消失する恐れがある。ここはオレに任せてくれ」


 僕は寝室の隅にある化粧台からヘアピンを二本摘まみ、机の鍵穴に押し込む。

 鍵のメカニズムは至って単純だ。内部には数本のピンが仕込まれており、これらのピンがシリンダーの回転を阻害し、ロック状態になっている。この邪魔なピンをそれぞれ定められた高さまで上げることができればシリンダーは回り、ロックが解除される仕組みだ。

 小さい頃に漫画の真似をして、自宅の棚鍵でピッキングの練習をしていたのはほろ苦い思い出だ。

自分の黒歴史に苦笑しつつピンを動かすも、なかなかシリンダーが回らない。この机の鍵はやたら複雑な構造になっている。


「ちくしょうダメだ。可愛げのない鍵だぜ」


 舌打ちを一つして、僕は開錠を諦める。


「すまないエリー。やっぱ魔法で破壊してくれ」

「任せてください。可能な限り力を絞りますですぅ」


 エリーが、炎を宿した掌を机に向けたときだった。ルーチェさんが前に出る。


「お待ちくださいブルーボーンさま。魔法を使う前に、一つ私に挑戦させてはいただけないでしょうか」


 そう言ってルーチェさんはメイド服の胸ポケットから束ねられた針金状のものを取り出す。それはプロ仕様のピッキングツールだった。

 ルーチェさんがピッキングツールを鍵穴に差し込むと、ものの三十秒ほどで鍵が開く。


「驚きだね。最近のメイドさんがこんなこともできるとは?」

「メイド学校で習ったのですよ。主人が鍵をなくしたとき対処できなくてはなりませんので。そんなことより早く中身を!」


 ルーチェさんは僕らの視線から逃れるように顔を伏せながら、引き出しを解放する。

入っていたのは革張りの小さな本で、取り出してみるとそれがアルバムであることに気づく。

 収められていた写真は全て十代くらいの女の子と、四十代くらいの男性を写したものだった。女の子はパトリシアさんの少女時代だと予想されるも、男の方に見覚えはない。痩せ形の体型に、影のある微笑みを浮かべている。

 ……とはいうものの、この男が誰なのかは、なんとなく予想はついていた。適当に一枚取ってみると、裏には『私とジャンおじさん』と書かれており、予想が正しいことを知る。

 ノア警部を連れたシャロ姉さんとアヤムが到着したのはこのときだ。


「この男がジャン・シッカートか……。帝国の裏切り者にして、公国のヒーロー、そしてファキオワード市の狂った殺人鬼」


 クラークさんは全てをノア警部に話したらしい。


「警部、現在市内を騒がせている殺人鬼の正体はパトリシア・コーウェン、彼女に間違いありません」

「いや、この写真だけではなんとも言えん。二十年前の殺人鬼の知り合いということでしかない……だが、こちらの写真は興味深い……」


 そう言って警部は下段の引き出しに手を入れ、写真を拾う。どうやらアルバムの下になっていたらしい。

 写真は二枚あり、一枚目に写っているのは見知らぬ若い女性だ。意識があるのかないのか、両目に虚ろな光を湛え、床に座り込んでいる。

 警部が二枚目に目を通したとき、写真を覗きこんだアヤムが、「ヒッ」と顔を背け、僕も「ウッ」と身を引く。

 写っていたのは一枚目と同じ女性だった。ただしこちらは様相が異なっている。虚ろだった両目からは完全に光を失い、床に仰向けに寝そべっている。胸に刺さる黒水晶のナイフと、周りに流れている血が悪い意味で刺激的だった。


「ハンナ・ミールベルト。今回の事件の最初の犠牲者だ」


 警部は肩を震わせながら口を開いた。


「パトリシア・コーウェンを今事件の容疑者と断定する。すぐに署に連絡し、全警官を動員して身柄を確保しろ! 手配書も忘れるな!」


 控えていた警官に素早く指示を出し、自身も慌ただしく動き始めた。


「……パティがヤックハルスだったなんて……」


 クラークさんは床に座り込み、気の毒なくらい落ち込んだ声を出した。

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