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民営騎士団は眠らない  作者: 実乃里
第五章 ヤックハルスデイ
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パトリシア・コーウェン

 スコフィールド地区には教会がない。この地区の人たちが教会を利用する場合、恐らく隣のヴァクラム地区にある教会に足を運ぶと思われる。教会では日曜礼拝だけでなく、冠婚葬祭も執り行う。ジャンが死亡したときも葬式くらいは行われたはず。親しい人物ならこれに出席したのではなかろうか。教会に記録されている、参列者名簿を調べればヒントが得られるかもしれない。運がいいことにヴァクラム地区教会の司祭、デロリス・シルバーバーグとは面識がある。

 教会に着いた頃、ちょうど鐘が鳴り止み、楼閣から降りてきたデロリスさんの姿があった。


「おお少年じゃないか。久しいね」


 デロリスさんは友好的に迎えてくれたものの、僕がここにきた事情を説明すると難しそうな顔をした。


「そんなんダメに決まってんでしょうが。部外者に葬儀の記録を見せたなんて知れたら、あたしが教会本部からボコボコにされちゃうよ」


 個人情報の漏洩がまずいことはわかる。ただこちらとしても引き下がるわけにはいかない。


「人の命がかかっているんですよ。いっそ二人の人命と引き換えにボコボコにされちゃったらどうです。教会が教える自己犠牲精神そのものじゃないですか。もし司祭をクビになったらベケットで雇ってもらえるようセシールさんに口添えしてあげますから頼みますよ」


 僕の不届きな要望に、デロリスさんはお腹を抱えて笑い出した。

 お腹を押さえたまま聖堂の奥に引っ込んだのち、分厚いファイルを持って戻ってきた。


「君は今から我が教会のボランティアスタッフだ。というわけで、過去の葬儀記録の確認作業を頼みたい。終わったら呼んでちょうだいな」


 そう言ってデロリスさんはテーブルの上にファイルを置くと、プライベートフロアに引っ込んで行った。

 無理を叶えてくれたことに感謝し、僕はファイルを開いた。

 ファイルは年を基準に管理されているようだ。まず年ごとにフォルダで分けられ、それから葬儀が行われた月と日の順番で記載されている。

 僕は今から十年前、新西暦一九八九年の欄から目を通した。

 書かれている名前をザッと眺めるも、それらしきものはない。一年前に飛び、八十八年の欄を確認していたとき、ある名前に目が留まった。ジャンではないが、僕がよく知る人と同じ名前があったのだ。

 記録では八十八年の三月、四十七歳で死亡とある。どうやら同姓同名の別人らしい。あの人は今も健在なのだから……。

 脇道に逸れてしまった思考を本筋に戻し、ジャンの名前を探す作業を再開させる。

 八十八年の十一月にジャン・シッカートという名を見つけ、僕は右手をギュッと握り締めた。

 ついに見つけた。これで手がかりが掴めると思いきや、参列者名簿は空欄ではないか。どうやら参列者を交えずに式を行ったようだ。

 目論見は外れたものの、落胆はない。もっと興味深い内容が記載されていたからだ。

 葬式を執り行うとき、家族なり親類なり、近い人物が喪主というものを務めなければならない。いわゆる葬式の主催者だ。クロドさんが言うにはジャンには家族がいないということだが、この記録によると個人の喪主がいる。女性のようで、名前はミーナというようだ。

 セカンドネームを見たとき、心臓が凍りそうになった。加えて、喪主の配偶者欄の名前を確認し、背中にゾクリと寒気が走る。

 僕は大急ぎで教会を飛び出し、商店街へと走った。

 みんなの姿を探していると、手前の家具屋からエリーが出てきた。


「エリー! クラークさんはどこか知らないか!」

「クラークさんならぁ、あそこの本屋さんで聞き込みをしていますぅ」


 僕はすぐに本屋に入り、店主と話していたクラークさんを外に引っ張り出した。


「いったいどうしたっていうんだ。教会でなにかあったのかい?」

「ありましたよ、重大な発見が! なんとしてでもパトリシアさんを探し出しましょう」

「同感だ。パティを一刻も早く探し出してやろう。ただ彼女がどこに監禁されているのかわからないのが問題だ。だからこうやって足取りを追っているんじゃないか?」


「監禁ではなく、潜伏かもしれませんよ」


 表情を強張らせるクラークさんに、僕は教会で知ったことを話す。


「そんな……。パティがジャンと面識があるなんて、にわかには信じられない……」

「でも事実です。ジャン・シッカートの葬儀の喪主は、ミーナ・コーウェンという人でした。多分パトリシアさんのお母さんでしょう。親族欄にパトリシア・コーウェンの名もありました」


 クラークさんは押し黙る。


「これからパトリシアさんのアパートを調べましょう。彼女がヤックハルスだとしたら、必ずなんらかの手がかりが出てきます」

「パティは本当にヤックハルスだろうか……」

「それを確かめるんです!」


 クラークさんはぎこちなく頷いた。

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