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民営騎士団は眠らない  作者: 実乃里
第五章 ヤックハルスデイ
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聞き込みと鐘の音

 電報を打ってから約一時間後、ベケットの全団員が本部に集まった。みんなもアイの居所に心当たりはないらしく、いよいよ事態は深刻になってきた。


「みんな聞いて。これよりベケットは総力を上げ、アイちゃん、およびパトリシアさんの捜索を行います。各自は全ての作業を放棄し、この任に当たってください。これは団長命令です。拒否は許されません」


 ここに異議を唱える者はいない。エリー、シャロ姉さん、アヤム、そして僕。みんなアイが大好きなのだから。

 本部を出るとき、ちょうど警察への説明を終えたクラークさんが現れた。彼と合流し、僕らはスコフィールド地区へと馬車を走らせた。


「オレとクラークさんはここでアイと別れたんだ」

「僕とマイザ君は地区の西側へ向かい、パティとグローベルク君は北側へ歩いて行った」


 昨日、アイたちと別れた場所に立ち、そのときの状況を皆に伝える。


「アイたちが酒場を回っていたのなら、店に聞き込みをすれば足取りを掴むのは難しくないですね。早く行きましょう。私の可愛いアイにもしものことがあったら事です!」


私の可愛いうんぬんは別として、アヤムの言うことはもっともだ。行動は早いに越したことはない。僕らは手分けしてアイたちの足取りを追った。

 昨日、アイたちは何件の店を回ったのかは不明だけれど、こっちは六人だ。北側にある店をしらみつぶしに当たるのは難しくはない。クラシックな酒場、オシャレなアルコールカフェ。店という店で聞き込みを行った結果、アイたちのことを知っている人は大勢いた。


「ピンクのロングヘアーの子と、カメラを携えた女性ですか。ええ、その二人なら昨日きましたよ。十年前の常連客のことを尋ねてきましたね。知らないと言うと帰って行きましたが……」


 得られる回答は概ねこんな感じだ。二人は訪れたものの、ジャンの手がかりを得られず帰って行った。ここらは昨日の僕らと同じ状況だ。

 では二人になにが起きたのか? どこかの店を訪れた際に違う状況、つまり手がかりを得たのではないだろうか。そしてそれが元でトラブルに見舞われ、身動きの取れない状況に陥った……。

 様々な憶測を並べてていると、隣りの居酒屋からルーチェさんが出てきた。 


「どうでした? なにかわかりましたか」

「肝心なことはなにも……。お嬢さまとコーウェンさまのことは色々な店の店員が覚えていましたけど、店を出たあとのことは誰もわからないようです」


 ルーチェさんは歯痒そうに後ろを見渡す。

 不意に遠くから鐘の音が聞こえてきた。


「教会の鐘ですね」

「そういえば朝ラジオで言っていました。今日の正午、事件の犠牲者を悼むため、市内の教会が一斉に鐘を鳴らすらしいですね」


 最初一つだった鐘の音は、次第にその数を増やす。遠くから風に乗ってきたり、山から反響してきたり、どこか神秘的ですらある。

 正午になったら、いったん集合することになっている。僕とルーチェさんが待ち合わせ場所に歩くと、すでにみんなが集合していた。


「どうでしたかぁ。アイちゃんの行方にかんするヒントはありましたかぁ!」


 僕とルーチェさんは首を振るった。それを見た全員がシュンと肩を落とす。みんなの結果は訊くに及ばずだ。


「マイザ君とルーチェさんは、担当した通りの店は網羅したかい?」

「ええ、ちょうど真ん中辺りの酒場でルーチェさんとぶつかりました。アイとパトリシアさんは間違いなくあの辺りの店を訪れたようですけど、肝心のその後の足取りが掴めません」

「こちらも同じようなものさ……。ただ昨日二人が最後に訪れたと思われる店は特定できた」


 僕は少しだけ顔を上げた。この際どんな些細なものでもいい。


「私が担当した路地に玩具屋があるんだけど、そこにアイとパトリシアさんの二人が聞き込みに現れたらしいわ」


「あの店よ」と、シャロ姉さんは通りの向こうを指差す。

 確かにそこには玩具屋の看板が出ていた。その脇にはジュースの路上販売も行われており、いかにも子供向けといった感じだ。


「現れたのは閉店間際の遅い時間だったみたいだから、多分、ダメ元で訪れたのね」


 僕は店先をジッと見つめ、店から出てくるアイとパトリシアさんを想像する。次に二人はどこへ向かったのだ?


「隣のヴァクラム地区に向かったのかもしれないね。この通りはポーセリン商店街にも続いているし」


 クラークさんは掌を庇のように額に当て、通りの彼方を見やる。


「なら次は商店街で聞き込みです。幸いあそこの商店街会長とは仕事で面識がありますから、頼めば協力を得られると思います」


 苦い記憶が蘇ったのか、アヤムの言葉に、シャロ姉さんが微かに震える。


「あのー、もしかしてアイちゃんは友達のところに泊まっているなんてオチはないですかねぇ。トモ君は一度クラスメートを当たってみてはどうでしょうかぁ」

「ありえませんね。集合の約束をすっぽかし、わざわざクラスメートのところに泊まる理由がありません。パトリシアさんも連れているのですよ。確率の低いことは除外すべきです」

「フリントロック君に賛成だ。こういう場合はフレームを狭め、ある程度物事を決めつけて行動するべきだ。グローベルク君とパティは、ヤックハルスに拉致されたと断定してしまおう。僕らが行うのは彼女らの捜索ではなく救出だ」


 覚悟はしていたものの、断言されると重みが増す。

 それは結局、ヤックハルスを追うという当初の目的、いわば振り出しに戻ったにすぎない。ヤックハルスの正体を暴くことが二人を救うことになるのだが、それがわからないため、僕らは昨日から足掻いているのだ。


「とにかく商店街に急ぎましょう。アイたちの情報を得るのです」


 先頭を歩くアヤムに続き、僕らはポーセリン商店街へと歩く。

 ヴァクラム地区に入ったときだった。急に響いていた鐘の音が大きくなる。

 それもそのはず、教会はこのすぐ近くなのだ。音源に近づけば音がよく聞こえるのは道理だ。

 ……教会か。僕はジッと鐘の音に耳を傾けながら、ある可能性を吟味した。


「なあ、一時的に別行動を取ってもいいか? ちょっと思いついたことがあるんだ」


 みんなが怪訝そうに僕を見る。


「それはどういったものですかぁ? なんならみんなで行った方が効率がいいのでは?」

「いやまったくの検討違いかもしれない。むしろ空振りに終わる可能性の方が高いんだ。だからオレ一人で行おうと思う。みんなは聞き込みの方に注力してくれ」


 僕はみんなに背を向ける。


「いったいどこに行くの!」

「デロリスさんのところです!」


 僕はそう言い残し、ヴァクラム地区教会に走った。

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