登校
早く寝たおかげでたっぷりと睡眠がとれた。寝起きの気怠さもなく、悪くない気分だ。
軽い柔軟体操をしたのち、パジャマから制服に着替え、リビングに降りていく。
案の定、母はまだ寝ている。母はデザイン関係の仕事に就いており、自室が仕事場となっているのだ。夜型人間で、いつもお昼近くまで寝ている。
リビングのカーテンを開いたのち、ジャムを塗ったパンとコーヒーで朝食をすませる。
登校時間まで間があったので、ドアポストから今朝の新聞を取り、書かれている記事を眺めてみた。
『ファキオワード市警 強盗団捜査に難航』『ステアー地区の不審者に注意』『トンプスンアロマコーポレーション ファキオワード市での新規市場開拓に展望』
記事の中身は、昨晩のラジオニュースで読み上げられた内容とほぼ同じだった。情報の早さにかんしてはラジオに分があるようだ。
そうこうしているうち、時計の針がだいぶ進んだことに気づく。そろそろ学校へ行くか。
母の分のコーヒーをポットに残し、僕は家を出た。
ウィンターサイド高校は市内の外れに位置する。僕の家からは自転車で三十分ほどの距離だ。
創立時に公国から贈与されたらしい立派な校門を潜り、初代校長、ジョン・モーゼスの彫像を左に折れ、駐輪場に自転車を止める。
自転車を通学に利用する生徒は少なく、駐輪場はいつも空いている。学生定期があれば公共馬車に無料で乗れるため、多くの生徒はそちらを利用するのだ。みんなにしてみれば、わざわざ疲れる移動手段を使う僕は変わり者でしかない。
自転車にU字ロックを施し、昇降口から教室へと向かう。
教室の前まできたとき、反対側から歩いてきたアイリスとバッタリでくわしてしまった。彼女も今登校してきたところだろう。
「……おっ、おはよう」
湧いてきた逡巡を押しやり、僕は右手を軽く上げ挨拶をした。
アイリスはもの凄く不機嫌そうに顔を顰めたのち、「ふん」と鼻を鳴らし、教室に入って行ってしまった。
昨日のことを相当根にもっているようだ。
「珍しいこともあるもんだな。アイリスとはかかわらないんじゃなかったのか?」
オーブリーが後ろに立っていた。
「意図せずかかわり合いになっちまったんだよ」
ヒューと、オーブリーが口笛を鳴らした。
「興味深いな。是非とも詳細を知りたい」
僕は自分の席で、昨日のことを話して聞かせた。
「アイリスが騎士団員とはね。驚くより、むしろ納得できたな。雄々しさの説明がつく」
「誰にも言うんじゃないぞ。彼女にとって秘密事項かもしれないからな。オレから話が広まったと知ったらどんな目に遭わされることやら。命にかかわりかねん」
そもそもオーブリーに話した時点でアウトかもしれない。
「安心しろ。竜神トクナガシュウヤに誓って他言はしねえよ」
オーブリーはエルフ族の守護神の名前を呟き、胸の前で聖印を切ってみせた。
僕はアイリスの方を見た。彼女は一人椅子に座り、仏頂面を浮かべている。なにがそんなに気にいらないのだろう。別にみんなから無視されているわけでもない。無礼な男子をとっちめてくれるクールな姉御として、むしろ女子の間では人気があるくらいだ。
「大人しくしていれば可愛いのにな」
僕はオーブリーにも聞こえないくらい小声で呟いた。




