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民営騎士団は眠らない  作者: 実乃里
第五章 ヤックハルスデイ
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アイの復讐

 本部には、いつもより多い顔触れが揃っていた。ベケットの団員に加え、クラークさん、パトリシアさん、そしてルーチェさんの姿があった。


「なんでルーチェがここにいるのよ?」

「お嬢さまが心配だからに決まっています。なんでもあの恐ろしい殺人鬼の捜査をしているそうではありませんか。また怪我をするのではないかと、ルーチェは不安で昼寝もできないありさまです」

「むしろあんたの方が心配よ。今街には殺人鬼がうろついているのよ。ターゲットは皆若い女なんだから、あんただって立派な被害者候補なのよ」


 ルーチェさんの顔色がサァっと青ざめる。


「いっ、言われてみればそうです! どうしましょう。怖くて外を歩けそうもないです」


 やれやれと、アイは深く溜息を吐く。


「犯行が行われるのは夜で、現場は人気のない裏路地よ。昼間に表通りを歩くぶんには問題ないから安心しなさい」


 ルーチェさんはホッと胸を撫で下ろす。


「えーと、ルーチェさんだったね。君の安心に水を差すようで悪いんだけど、そうとも言い切れなくなった」


 この発言はクラークさんだ。彼は後頭部を掻きながら、さも言い辛そうにしている。


「マイザ君たちと別行動を取っているときにわかったんだけど、どうも今回のヤックハルスは秘密基地を有しているようなんだ」


 秘密基地? どうやら別行動中、クラークさんたちはなにか掴んだらしい。


「六人目の犠牲者なんだけど、身元はすぐに判明したそうだ。数日前から行方不明になっており、警察に捜索願が出されていた女性さ」

「それにもかかわらず、死亡推定時刻は発見から二十四時間ほど前だそうよ。これがどういうことかわかる?」


 パトリシアさんからの問いに、僕は固唾を呑む。


「その女性は数日どこかに監禁されたのち、昨日殺害されたということよ……」


 シャロ姉さんが回答を出す。


「殺人鬼のお家にお泊りなんて、怖すぎますよぅ」


 エリーが体を震わせる。


「これで危険なのは夜だけとは言い切れない。昼のうちに拉致され、ヤックハルスの秘密基地で切り刻まれる可能性だってあるわけさ」


 クラークさんの話しを聞き、ルーチェさんは助けを求めるようにアイにしがみつく。


「こっちでわかったことはこのくらいかな。そっちはどうだったい? クロド氏はグローベルク君の知っている人だったかい?」


 僕はみんなにクロドさん宅でのことを伝えた。


「同一人物だったか……。なら、二十年前の事件と三年前の事件は関連があると見ていいね。今起きている事件も恐らく……」


 二十年前の連続殺人とアイのお父さんの暗殺事件、そして今回の連続殺人事。全て一連の流れの中にある。それがどんな流れかは不明だ。


「あのー、僭越ながら質問をよろしいでしょうか?」


 奥のデスクで作業をしていたアヤムが声をかけてきた。


「トーマス氏を暗殺した者と、現在市内を暗躍している殺人鬼は、同じ黒水晶のナイフを所持していたとのことですが。二十年前の事件ではどうなのでしょう?」

「さすがにそこまではわからない。二十年前の事件は目撃者が誰もいないんだ」

「……そうですか。ではもう一つ質問です。今回の事件についてなんですが。ヤックハルスはどこで凶器を手に入れたんでしょう? 砕けやすい黒水晶で、しかも実用に足る刃物を作るなんて相当高度な技術ですよ」


 アームズフェスタのとき、アイに尋ねられた武器メーカーの人も言っていた。不可能だと。


「えっ、帝国からでしょ?」


 アイはさも当然といったふうに語った。


「レストランでも言っていたじゃない。帝国には秘密機関があって、そこの工作員は黒いナイフを所持しているって。だからあのナイフを作ったのは帝国よ」

「まさか、クラークさんも噂だって言ってたじゃない。そもそも帝国がこの街で連続殺人を行う理由がないわ」

「アイちゃんは純粋すぎますぅ。天上人の空飛ぶ円盤や、異世界からやってきた異人たちとかの話しも簡単に信じちゃうんですからぁ」


 シャロ姉さんとエリーに否定され、アイは唇を尖らせる。

 ナイフの話しが出たことで、僕はあることを思い出す。クロドさんにナイフについて尋ねたとき、彼は妙なことを口走った。


「なあみんな、『クロコ』って聞いたことあるか?」


 全員の頭上に「はっ?」と、ハテナが浮かんだ。やはり誰も知らないらしい。

 僕が詳細を説明すると、クラークさんが深く興味を示した。


「なにか意味のある単語だろうね……よしわかった。黒水晶のナイフについては僕も興味があるから、独自にアプローチをかけていこうと思っている。その『クロコ』という言葉とナイフはセットになっているかもしれない。なにかわかったら知らせるよ」

「私は一旦本社に戻るわ。そのときデスクには説明しておいてあげる」


 クラークさんとパトリシアさんはベケット本部をあとにした。


「では、わたしたちはどう動きましょうかぁ? また今夜も囮捜査でもやりますぅ?」

「気が進まないわ。ヤックハルスが昼夜問わず犯行に及んでいるのであれば、余り効率的とはいえないわね。あの作戦は発生場所と時間をある程度絞れたからこそ効果が期待できたのよ」


 シャロ姉さんは顎に手を当てる。


「今のところ、ヤックハルスへ至る唯一の手がかりは黒水晶のナイフだけね。クラークさんだけに任せないで、私たちもこのナイフについて調べてみない?」


 他にできそうなこともない以上、それがもっともベストな行動かもしれない。僕はシャロ姉さんに同意した。


「徒労に終わる可能性が高いですよ。私が散々調べても手がかりなしだったんですから……」


 アイは今一つ乗り気ではないようだった。


「具体的にどんな調査をしてきたのかしら?」

「えーと、武器メーカーのカタログを眺めたり、街の刃物屋とか鍛冶屋とかに尋ね回ったり、あとは博物館の古代武器コーナーとかにも足を運びました」


 五秒ほど本部内に沈黙が訪れた。僕、エリー、シャロ姉さんは言葉を無くし、ただ茫然とアイに視線をくべる。


「なっ、なによ? どうしたわけ? みんな黙っちゃって?」

「なっ、なんでもないわ。なんでもないの……」

「そっ、そうですよぅ。なんでもないのですぅ。この沈黙に意味はありません」

「ありがとな、アイはみんなに希望を与えてくれたんだ」

「えっ、そうなの? よくわかんないけど私に感謝しなさい! ……でもどうして?」


 アイの調査が穴だらけなことが判明したおかげで、追加調査によって新たな手がかりが得られる可能性が高まった。これは希望に他ならない。

 なにはともあれ、やるべきことは決まった。僕とアイは市立図書館へ、エリーは自宅の蔵書を漁り、シャロ姉さんは在籍している大学の図書館を調べることとなった。

 有益な情報が得られることを祈りつつ、今日は解散となった。

 帰りはアイの他にルーチェさんを交えた三人だ。三人乗りは無茶なので、仕方なく自転車を手で押し、徒歩でアイの家まで行くことになった。クラークさんの話しに怯えているのか、市内を歩いているとき、ルーチェさんは終始アイの腕にしがみついていた。その姿はまるで姉に助けを求める妹のようだった。

 玄関を開けると、アイは、「あー疲れた」と一人で二階に上がって行ってしまった。


「それじゃオレはこれで」


 踵を返したとき、ルーチェさんに呼び止められる。


「折り入ってマイザさまにお願いがあるのですが……。お嬢さまを止めては頂けないでしょうか」


 いつになく深刻そうな態度だった。


「お嬢さまは、お父さまの復讐を遂げるおつもりです。本人はヤックハルスを捕まえ、警察に突き出すと言っておりますが、恐らく建て前でしょう。お父さまの命を奪ったナイフをジッと見つめる姿を何度か目撃しました。覚悟というのでしょうか、あの表情からはそんな意思が汲み取れました」


 ルーチェさんは僕の手を取る。


「復讐という行為がお嬢さまに取ってプラスになるとは思えません。もしお嬢さまがヤックハルスを相手に本懐を遂げようとしたなら……。止めてはもらえないでしょうか」


 僕としてもアイに人殺しなんかさせたくない。ヤックハルスは警察に引き渡し、法で裁くのがベストだ。


「可能な範囲で努力します」

「マイザさまらしい答えです」


 ルーチェさんは口元を緩めた。

 僕らしい答え、ときたか。ルーチェさんは僕のことをどう思っているのだろう? ふとそんなことを考えながら、再度踵を返す。


「あのー、今更ですが、マイザさまは一人で帰られて大丈夫なのですか? 今のところヤックハルスは若い女性しか襲っておりませんが、これからもという保証はありません。マイザさまが襲われたりしたらどうしましょう」

「平気ですって、ほら帰りは自転車ですから。やつと鉢合わせになっても余裕で逃げ切れますよ」

「なるほど、お嬢さまもマイザさまのことを、『あいつ逃げ足だけは早いのよね』と、褒めておりました」


 ……アイのやつめ、影でそんなことを言ってやがったのか。


「それに、いざとなればオレにはこれがありますから」


 僕はポケットから銃を取り出して見せた。見慣れない物体に、ルーチェさんが首を捻る。

 百聞は一見にしかずとばかりに、僕は近くに重ねてあった古いレンガに向け、引き金を引いた。

 粉々になるレンガを目の当たりにし、ルーチェさんが唖然する。


「エルフ製の最新武器です」


 そう言い残し、僕は帰路についた。

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