殺人鬼の捜査
まずはもう一度アイと接触する必要がある。
さてどうやって探し出そうと考えていると、向こうから連絡がきた。
僕らはアイの身柄を引き取るべく、ファキオワード警察署に出向いた。
「迂闊だったわ。まさか待ち伏せされていたとは。あの警官、多少はできるようね」
アイが睨みつける先には、昨日の警官、デューク・マクレーンさんがいた。
「これで自分探しの旅から解放されたな。イリアス・ベルーログクちゃん」
どうやらアイを補導したのは彼のようだ。見事昨日の雪辱を晴らしたようで、デュークさんは勝ち誇った顔でアイを見送った。
「これで勝ったと思わないことね!」
捨て台詞を残して警察署を出るアイ。どんな勝負だ、いったい。
「えーとみなさま、この節はお世話になりました。私は大切な用がありますのでこれで」
「待て、今日は逃がさんぞ」
僕は逃げ出そうとするアイの肩をガシッと押さえた。続いてエリー、シャロ姉さん、アヤムも同じようにアイの体を押さえる。
「アイちゃん、とりあえず私たちの話しを聞いてくれないかしら。別にアイちゃんの邪魔をしようってわけじゃないから。むしろ協力してあげるわ」
セシールさんは困惑するアイの前に歩み出て、ことのなりゆきを説明する。
「はあっ、バイト料を全額使った。バカじゃないの!」
「パアッと使っちまっただけさ。ほら、オレって度量ある男だから」
半ば呆れ返ったように、アイは閉口してしまった。
「アイちゃん一人だけヒーローになろうなんて甘いですぅ。わたしたちも一つ手柄を立てて、みんなからチヤホヤされたいですぅ」
「ヤックハルスは今や市民の驚異よ。騎士なら放っておけないでしょ」
「ヤックハルスを捕獲したとあれば、我々ベケットにとって最高の宣伝になります。これを逃す手はありません」
「受けた依頼は必ず達成させるのがうちのやり方よ。アイちゃんだってよく知っているでしょ。だから諦めて私たちに手伝われなさい」
いかにアイとはいえ、これを断ることはできない。彼女は「うん」と小さく頷いてみせた。
話が決まったそのときだった。一匹の馬が警察署の敷地に飛び込んできた。乗馬しているのが警官であることから、市警の馬だろう。
「伝令! 伝令! フランキ地区で一人の遺体が見つかった!」
馬から飛び降りた彼は、叫びながら署内に駆け込んで行った。
すぐに警察署から大勢の警官が飛び出し、止めてある馬車に乗り込み緊急出動して行く。
「フランキ地区って、すぐそこじゃないか」
警察署前の路地を三区画ほど進めばフランキ地区だ。市警の目と鼻の先で犯行を行うとは大胆な。
「私たちもいくわよ」
アイは今にも駆け出しそうな雰囲気だ。
セシールさんとアヤムは本部に戻り、僕とアイ、エリーとシャロ姉さんの四人でフランキ地区へと向かった。
事件現場はすぐに判明した。大勢の野次馬の中を掻き分け、僕らは現場に近づく。
「なんだ君らか。いったいなんのようだ?」
現場の指揮を取っていたのはノア警部だった。余り寝ていないのか、目の下に小さな隈ができている。
「私たちもヤックハルスを追っているのよ」
ノア警部はアイの服装に一瞬だけ面食らったのち、露骨に渋面を作った。
「なんだってベケット騎士団がやつを追っているんだ? 意味がわからん」
「我々の方にヤックハルスの正体を探ってくれとの依頼が持ち込まれました。それでこうして動いているわけです」
シャロ姉さんが話に参加する。
「いったい誰がそんな依頼を?」
「クライアントの情報は秘密事項ですよ、警部?」
そう言ってシャロ姉さんはこっちにウインクをして寄越した。
僕らに引く気配がないと見て、ノア警部は諦めたように肩を降ろす。
「民間とはいえ君らは正式な騎士団だ。我々市警には君たちの行動を阻止する権限はない。だからこれから私が言うことは、友人としての意見と思ってくれ」
ノア警部は一度呼吸を整える。
「この事件、余り深入りせん方がいいかもしれんぞ……」
苦虫を噛み潰したような面持ちだった。
警部がタバコを咥えたとき、野次馬の中が騒がしくなる。
「またあの記者たちか」
一昨日警察署に現れた記者がやってきたようだ。ファキオワードポストの記者、名前は確か、クラーク・クリプトンとパトリシア・コーウェンといったはず。
「あっ、ノア警部、ちょうどよかった。被害者の身元は判明したのですか?」
「今調査中だ」
ノア警部はクラークさんに対し、いかにも面倒そうに対処する。
「ついに五人目の殺人を許してしまいましたが、市警は今後どういった対策を練るのでしょう?」
警部はムッとした表情でパトリシアさんを睨む。
「我々は常に最善を尽くしている。今後も最善を尽くすだろう。それ以外に言うべきことはない」
「ですが市民は怯えています。不安を取り除く意味でも、なにか展望になるようなことを発表すべきではないでしょうか」
ノア警部に睨まれるも、パトリシアさんは怯むことなかった。
「では一つだけ教えよう」
「本当ですか、ありがとうございます」
「今君たちは我々の捜査を妨害している。即刻黄色いテープの外に退散していただきたい。私からは以上」
話しは終わりとばかりに、警部は踵を返す。
「二十年前の事件のときもそうでしたが、ファキオワード市警はヤックハルスの逮捕に二の足を踏んでいるという噂は事実でしょうか?」
パトリシアさんの言葉に、ノア警部は一度足を止めるも、そのままビニールシートの奥に消えた。
「行こうぜ。ここにいても仕方ない」
「そうね、警察がなにか情報をくれるとは思えないし」
「なら一旦本部へ戻りましょ。がむしゃらに動いたって成果は出ないわ。予定を立てて行動しましょ」
今後の作戦を立てるため、僕らは一旦本部へと帰還した。




