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民営騎士団は眠らない  作者: 実乃里
第五章 ヤックハルスデイ
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トモルからの依頼

 拭いきれない不安に動かされ、次の日、僕は朝一番でアイの家を尋ねた。

 応対に出てきたルーチェさんは、アイが朝早くに出かけたことを伝えてきた。なんでも明け方近くに出て行ったらしい。

 間違いない、アイはヤックハルスを探しに出かけたのだ。

 なんて無茶な。アイが強いのは知っている。腕っ節だけなら、体格のよい成人男性にも引けはとらないだろう。ただ昨晩のように、冷静さに欠ける行動を取ってしまったらどうだ。今度は右腕だけではすまないかもしれない。

 居ても経ってもいられず、僕はアイを探しに出かけた。

 ファキオワード市は広い。人を一人探すのは至難の業だ。自転車で市内を延々と走ったところで出会えるわけもない。探す場所を絞る必要がある。

 ヤックハルスが犯行を行う場所は裏路地だ。恐らくアイも裏路地を中心に捜し歩いていると考え、僕は自転車で裏路地を巡った。

 裏路地だけとはいえ、範囲は広い。ザウアー地区、スターム地区、ヴァクラム地区、スコフィールド地区。市内の裏路地を一通り回っても、アイの姿はなかった。

 さすがに無理か。次のピエトロ地区にいなかったら、一度アイの家に戻ってみようと考えていたとき、どこからか甲高い声が聞こえてきた。

 どこかアイの声に似ていた気がし、僕は大急ぎで声がした方にペダルを漕いだ。


「離しなさいよ! そんなに私に興味があるわけ、このロリコン男!」

「バカなこと言ってないで家に帰りなさい。今は殺人鬼がうろつき回っているんだぞ!」

「ひっぱらないでったら! 痛い痛い! 警察が市民に暴力を振るっていいわけ!」

「減らず口はもういい。早く名前と住所を言うんだ。あと通っている学校名も」

「ふん、他人に名前を訊くときは、まず自分から名乗りなさいよ」

「ああそうか。私はファキオワード市警のデューク・マクレーンだ。ほら君の番だ!」

「わっ、私は……、イリアス・ベルーログクよ……。住所はカリキュエクセ市の五番街。学校を中退して、今自分探しの旅の途中なの」


 なにがなんやらわからなかった。声の元を辿ってきてみれば、そこでは警察と揉み合うアイの姿があった。膝上の大部分が開けたミニスカートに、肌を強調した上着にアクセサリーをジャラジャラさせた格好だ。


「つまり家出中ってわけか。すぐに署にくるんだ。家に送り返してやる」

「イヤだって。私にはまだやることがあるんだからあ!」


 アイは警官の手を振り切って、その場から逃げ出した。

 僕は自転車を走らせ、警官から逃げるアイの脇を並走させる。


「乗れ!」


 僕の突然の登場に驚きながらも、彼女は自転車の荷台に飛び乗ってきた。僕はそのまま表通りに出て、警官の追跡を逃れた。

 適当な出店でジュースを買い、アイから話しを聞く。


「なにやってたんだよ」

「あなた誰? 私はアイリス・グローベルクじゃなく、イリアス……えーと、ベ……ベルーなんとかよ!」

「頼むから真面目に話そうぜ」


 アイは頬を膨らませる。


「バレちゃしかたないわね。そうよ、私はアイリス・グローベルクよ」

「なにをやってたんだ」

「囮捜査の最中、あの警官に呼び止められたから振り切ったまでよ。てか、あんたはなんであの場にいたわけ?」

「お前が暴走するんじゃないかという気がして、今朝お前の家に行ったら案の定で、こうやって市内を探し回ったら、ヘンテコな服を着たお前が警官と揉み合ってたから助けた」

「褒めて使わすわ。じゃ私はこれで」


 ジュースの紙コップをゴミ箱に投げ捨て、アイは歩き出す。


「どこに行くんだよ」

「囮捜査の再開よ。ヤックハルスを誘き出し、やつに報いを受けさせるのよ。こうやって軽い女のふりをしていれば、あっちから寄ってくるに違いないわ」


 今朝家を出たあとその辺の店で買ったのだろう。よく見ると服にタグがついたままだ。


「危ないだろ。昨日みたいなことになったらどうするんだよ。今度は喉笛を切られるかもしれないだろ」

「昨日はたまたまよ。一晩経ったら頭も冷えたから大丈夫。今度は私のナイフがやつを切り裂くわ」


 アイはスカートの内側に隠していたナイフを取り出した。安っぽい登山ナイフだ。


「仇討は禁止されているだろ。もしヤックハルスを殺したらアイが罪に問われるぞ」

「大丈夫。向こうが私を殺しにくるんだから、じゅうぶん正当防衛が成立するわ」


 ナイフをスカート内に戻し、アイはクルリと後ろを向いた。


「待てって。話はまだ終わってないぞ」

「話すべきことは全て話したわ。あんたがなにを話そうと私の答えは変わらない。私はお父さんの仇を打つまでよ。……邪魔だけはしないでね。これは私の問題で、トモルには関係のないことなんだから」


 その後アイを呼び止めれなかったのは、グサッとしたものが胸に刺さったためだ。

「トモルには関係のないこと」。この言葉は意外に堪えた。そのまま家に帰り、気分転換に部屋の模様替えを行うくらいには心理的ダメージを受けていた。

 僕の中に湧いていた様々な思いがアイへの怒りに変換されたのは、ベッドに入ってからだった。

 関係ないだって。今まで散々贔屓してやったっていうのに、それはあんまりじゃないか。アイのやつめ、今に目にものを見せてやるからな。

 一夜明けた次の日、僕はさっそく行動を開始した。

 行先はベケット本部だ。セシールさんには電報で用件を伝えてある。

『本日休業』と札がかかっているベケットの入口を開けると、予定通りアイを除いた全員が集合していた。


「おはようトモ君。要望通りみんなに集合してもらったわ」


 僕は一度みんなの顔をざっと見回す。セシールさん、エリー、シャロ姉さん、アヤム。休日に呼び出されたにもかかわらず、みんなの機嫌が悪くなさそうなことに安心する。

 僕はまず一昨日のことを話して聞かせた。帰りにヤックハルスが殺人を行う場面に遭遇してしまったこと、その際アイが怪我をしたこと、掻い摘んで手短に説明した。

 各々驚きを口にするみんなに、僕は続ける。


「アイは今一人でヤックハルスの行方を追っている。詳しい理由はオレの口からは言えない。これはアイのプライベートな部分に触れてしまうからだ」


 唯一、セシールさんだけが顔色を変えた。恐らく彼女はアイのお父さんの暗殺事件を知っているのだろう。


「いくらアイとはいえ、一人で殺人鬼を追うなんて無茶もいいところだ。そこでみんなにお願いがある。……いや、これはお願いじゃなく依頼だ。依頼の内容はベケット全員でアイを手伝うこと。依頼人はこのオレで、依頼料はオレが受け取るはずだったバイト料全額だ」


 我ながら思い切った決断だ。みんなは一瞬面食らった顔を見せたのち、ニヤニヤと笑みを浮かべ始める。


「アイちゃんは幸せだねぇ。こんなにもトモ君から慕われて。嫉妬するですぅ」

「見せつけてくれるわね。年上の勤めとして、断れないでしょ」

「アイを巡るうえでトモ君は私のライバルですが、今回は花を持たせてあげましょう。わざわざ訊く必要もないでしょうが、社長もそれでよろしいですね?」

「当然よ、ベケットの総力を上げてアイちゃんの手助けを行うわ。依頼人はトモ君。依頼料は彼が受け取るはずだったバイト代、六万メント。了解よ。さあ仕事にかかりましょうか」


 かくして話は決まった。アイと一緒にヤックハルスを捕まえるべく、僕らベケットは動き出した。

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