教会にあるものは?
「恐らく、目撃されたゾンビは本物だと思いますぅ。あの司祭さんが死霊術を行い作成したに違いありません」
「でもなんだってそんなことをするんだ? ゾンビ作成は違法行為だろ。発覚したら逮捕だ。わざわざ教会の評判を落とすようなことをする意味がわからない」
一旦本部に戻った僕らは、これからの打ち合わせを行っていた。
「教会の雑用を任せているのではないでしょうか?」
アヤムが推測を口にする。
「女性の司祭なら力仕事とかは苦手だと思います。それで使役したゾンビにやらせていた可能性はないでしょうか?」
どうもピンとこない。
「でもそれなら人を雇えばすむことじゃない。なんで死人を使うのよ?」
アイに突っ込まれ、アヤムが考え込んでしまう。
「経費を削減するためというのはどう? 教会の運営には意外とお金がかかるのよ。市民からの寄付や市からの補助金だけじゃ足りないでしょう。人を雇う余裕がないため、やむなく死霊術に手を出したとか……」
これはセシールさんだ。経営者としての意見はどこか生々しい。
「結局ここで議論していても答えは出ません。その辺りのことも踏まえて、お二人には潜入捜査をお願いしますぅ」
エリーの考えはこうだった。あの司祭がゾンビ出現にかかわっているのは間違いない。しかしその証拠がないため、問い詰めても否定されるだけだ。そこでシャロ姉さんを教会に泊め、内部から動かぬ証拠を掴もうというのだ。
「なんで私なのよ……」
シャロ姉さんは血の気の引いた顔で疑問を口にする。
「この任務にはシャロ姉さまの聡明な頭脳が必要かと判断したのですぅ」
褒められたため、シャロ姉さんも不満は言い辛いようすだ。
「でっ、オレも選ばれたわけは?」
どういうわけか僕も一緒に教会に泊まることとなった。
「宿泊は二名までオーケーだったので。それにトモ君は過去にあそこで司祭の仕事を体験したそうじゃないですか。内部の構造に詳しいのではないかと思いましたぁ」
効率を重視するなら正しい判断なのだろう。個人的には面倒で仕方がないけれど……。
「でもなにを探せばいいんだ? 証拠と言われても検討がつかない」
「現場を押さえればいいのですぅ。死霊術に最適なのは明け方です。明け方近くになったらこっそり司祭を監視してください。ゾンビ作成の確証が得られれば、あとは警察の仕事ですぅ」
みんながウンウンと頷く。すでに話は決まってしまった。こうなっては仕方がない。僕とシャロ姉さんは一旦自宅に戻り、宿泊の準備をしてから合流した。
待ち合わせ場所に現れたシャロ姉さんは、青い顔をしていた。具合が悪いのかと心配するも、本人はなんでもないと否定する。
釈然としないものを感じつつ、僕らは馬車に乗り、再度教会へと向かう。途中で雨が降り始め、ゴロゴロと雷が鳴り出したのはなにかの予兆か、それとも……。
「お待ちしていました。ようこそヴァクラム教会へ、歓迎しますよ、お二人さん」
デロリスさんは笑顔で出迎えてくれた。どこか秘めたものを感じる笑みだ。
「マイザ・トモルです。お世話になります」
「シャロン・セミーリャです。お手柔らかにお願いします」
僕らはデロリスさんと握手をする。ゾッとするくらい冷たい手だった。まるで体温がないかのようだ。
「存分に羽を伸ばしてください。きっと楽しい一夜になることでしょう」
僕らは今晩宿泊する部屋へと案内された。
「夕食は六時からですので、それまで好きに内部を見学してください。もしなにか用があるのであれば、私は聖堂にいますので……」
デロリスさんが出て行くと、シャロ姉さんがホッと息を吐いた。
「不気味な人よね、あの司祭……」
「ええ、どこか気味悪くはありますね……」
教会、墓地、ゾンビ、邪悪な司祭、雷雨、一晩の宿。古典ホラーの典型パターンが揃っている。
「それより仕事に取りかかりましょう。早いとこ死霊術の証拠を見つけ、警察に出動してもらいましょう」
「そっ、そうね……。まずはどこから当たろうかしら」
「二手にわかれましょう。僕は一階を探索しますから、シャロ姉さんは二階をお願いします」
教会の敷地は広い。三階建てで、部屋数も相当だ。中央には中庭まで有するほどだ。
「私は反対ね。こういうときバラバラに行動するのは危険よ。トラブルに見舞われた場合、一人では対応できないこともあるわ。常に一緒に行動するべきよ!」
シャロ姉さんはいつになく強い言葉で僕の案を拒否した。
確かに彼女の言うことにも一理ある。バラバラに行動するのは危険かもしれない。
僕が承諾すると、シャロ姉さんはホッと胸を撫で下ろした。
「では行くわよ。常に周りに気を配り、冷静に行動しましょう」
そう言ってシャロ姉さんが部屋のドアを開けると、部屋の前に仁王立ちしているデロリスさんの姿があった。ちょうど窓の外がピカリと光り、彼女の瞳が雷光を反射する。
悲鳴を上げて、部屋の奥にダッシュするシャロ姉さん。
「言い忘れたことがありました。聖堂の隣にある部屋は私のプライベートスペースですので、けっして入ってはなりませんよ。それでは……」
今度こそデロリスさんは行ったようだ。
「さてと、準備運動もすんだことだし、張り切って行くわよ。おっ、おほほ」
シャロ姉さんは脂汗びっしょりの顔に、取り繕うように乾いた笑みを浮かべた。




