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民営騎士団は眠らない  作者: 実乃里
第三章 夏フェスに行こう
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盗まれた聖剣

 コンキスタ市警の行動は迅速だった。通報から十分ほどでフェスタ会場に到着し、現場検証が開始された。

 会場に集まっていた全ての人から事情聴取も行われた。僕ら三人も証言を取られたうえ、所持品チェックまで受けた。アイは不満を漏らすも、ことがことなだけに大人しく従った。会場にいる他の騎士たちも文句を言わずに警察の取り調べを受けている。聖剣盗難はそれだけ大事件なのだ。


「君たち三人はなにも知らないと……。では次の人」


 担当の警察はテキパキと聴取を続ける。


「お名前と国籍、今日ここに訪れた理由は? あと身分証があるなら拝見させてください」

「ロバート・アダムス、フリーの騎士です。国籍はフォルニア共和国で、今日は仕事できました。まあ仕事と言っても自由業ですから、自分で使うための武器を見にきただけですがね」


 丁寧に対応すると、ロバートさんはナイトエンゲージ証明書を警察に提示する。


「なにか気になるものは見ましたか?」

「気になるといえば、すごいスピードでドームから離れて行く馬車を見ましたが」


 警官の顔つきが厳しくなる。「詳しくお願いします」と、ロバートさんに先を促す。


「会場から避難しているときでした。そのとき私はメインホールの入口付近にいたため、いち早く外に出たのです。すぐに他の方々も外に出てきましたが、その際、ドームの脇に駐車してあった馬車の一台が急発進するのを目撃しました。消防に連絡しに行ったのだと思っていましたが、もしかすると、あの中には聖剣が積まれていたのかも……」


 話しを聞き終えるや、警官は大急ぎで上司の方に駆けより、なにごとかを告げる。


「大至急ホールスタッフを全員集めろ! 馬車を出した者がいないか確認だ!」


 上司の声により、会場にいる警官たちが慌ただしく動きを見せる。

 数分後、警察はこの件が窃盗事件であると正式に発表した。会場を蒸気で満たし混乱を誘発させ、その隙に聖剣を持ち去った。それが警察の見解だった。

 疑いようがない。蒸気の発生原は、ブースから紛失した二振りの属性剣だったそうだ。一振りは炎属性で、もう一振りは水属性。二本の刃が重なった状態で、ダクトの奥から発見されたらしい。


「大変なことになってしまいました。聖剣はどうなるのでしょう」


 アヤムは自分のことのように聖剣の行方を心配している。


「大丈夫よ。今頃警察が検問を敷いているでしょうから、犯人はすぐに捕まるわよ」


 反対にアイは至って平然だ。


「ところでフェスタはどうなるのかしら? こんなことがあったのに続けるわけ」


 多分中止になるだろう、と予想していると案の定、フェスタの一時中断を告げて回るスタッフの姿が見え始めた。再開は不明。事実上の中止宣言だ。

 動揺しつつも事態に対処するスタッフ。困惑するメーカーの担当者。落胆し、会場から引き上げる客たち。ここにいても仕方がないので、僕らもメインホールから出る。


「馬車はどれもいっぱいだな」


 フェスタに訪れていた客が一斉に帰路につくせいで、馬車乗り場には行列ができていた。


「帰りの汽車時間まではじゅうぶん余裕があります。気長に待ちましょう。なんなら歩いてホテルまで戻りますか」

「この暑い中、歩くなんてまっぴらよ。馬車が空くまで待つ方がマシ」


 僕らはドーム脇にある、涼しげな木陰で待つことにした。木に近づくと先客がいた。


「こんにちは三人共、とんだ事態になっちゃったわね」


 ベネッサさんだ。彼女は不貞腐れたような顔で、木の根元に腰を降ろしていた。


「なにかあったんですか? 元気がないようですけど……」

「私がしょげているんじゃないかって? 大正解。今私は大いに悲嘆に暮れているわ。わざわざエルフ自治区のアルボーレから出てきたっていうのに、フェスタが中止! まだ商談もしていなかったのに、これじゃなんのためにきたかわからないじゃない!」


 ベネッサさんは一呼吸で不満を吐露した。どうやら新武器の売り込みは失敗に終わったらしい。


「窃盗犯はとんだことをしてくれたわ。帰ったらみんなになんて言おうかしら」


 胸に抱えたアタッシュケースに顎を乗せ、深い溜息を吐く。


「結局、あなた方が開発した武器ってなんなのですか? この際だから拝見させてはくれませんかね」


 アヤムにせがまれ、ベネッサさんはアタッシュケースの蓋を開けて見せた。


「なにこれ? これが世界を変える武器なわけ?」

「なんというか、よくわからないものですね。どう使うのですか?」


 アイの失礼な物言いには及ばぬものの、アヤムも訝しげな表情だ。

 それもそのはず。アタッシュケースに納められていたものは見慣れぬ物体だった。L字型をした黒い金属の塊だ。刃がないのでナイフとも違うし、メイスのような鈍器とも違う。L字の片側がグリップになっていることが辛うじてわかった。


「これは『銃』といって、まったく新しいカテゴリーの武器よ。アルボーレに生息する大蛇の名を取り、『プロタゴR10』と名づけたわ。思想としては弓に近いわね。遠くから相手を仕留める飛び道具。ただし威力は桁違いよ」


 そう言ってベネッサさんは銃とやらを握り、尖端と思しき方をこちらに向けてきた。僕は空いている小さな穴の中を覗く。


「これが『弾』といって、弓でいえば矢に該当するものよ。相手に飛んで行き、傷を負わせる」


 それは円柱の小さな金属だった。尖端が丸みを帯びており、どこかアクセサリーのようにも見える。


「そしてこれが『マガジン』といい、今見せた弾を詰めるものよ」


 ベネッサさんは長方形の金属プレートに弾を詰め、それをグリップの下から銃の中に押し込む。


「これで装填は完了。この状態でスライドを引き……」


 銃の上部分を後ろに引くと、カチッと音がした。


「あとはここのトリガーを引けば、さっき詰めた弾が尖端の穴から発射されるわ」


 親指が当たる位置にある小さなレバーを指示し、説明は終わりのようだ。

 どうもピンとこない。これはそんなにすごいものなのだろうか?

 アイとアヤムも同じ感想なようで、二人共訝しそうな表情を浮かべている。


「またまた。弾だっけ。こんなちっちゃなものが飛んできたってなんでもないわよ」

「アイリスさんはわかっていないようね。これを使えば小さな女の子でも、筋肉ムキムキの重騎士を倒すことができるのよ。わかる、この意味が」

「ぜんぜんわかんないわ。そんなにすごいなら、私に向かって試してみてよ。きっとなんともないから」


 アイの挑発にベネッサさんは首を振るう。


「そんなことしたらあなたがタダじゃすまないわ。命の危険もあるんだから。軽々しく使用していいものじゃないのよ」


 そう言ってベネッサさんは銃からマガジンを取り外し、アタッシュケースに戻した。


「ちょっ。マジにならないでよ。冗談なのに」

「冗談というのは、周りの空気を読んだうえで発するものよ。アイリスさんのはただの悪ふざけっていうのよ」


 ムッと口を噤むアイ。どうもアイは年上の女性に弱い節があるようだ。


「あらっ。ねえ三人共、あの裏に停車してあるのって客馬車じゃない。あれに乗車できないかしら」


 ベネッサさんはドームの裏口を指差した。

 彼女が言うとおり、ドームの裏には馬車が一台停車していた。周りに客の姿はない。


「なんであんなところに停車しているのでしょう?」


 アヤムが首を捻る。確かに謎だ。表に行けば大勢の客を得ることができるのに……。


「そんなのどうでもいいわよ。他の人が見つけてないなら今がチャンス、あれに乗るわよ」


 ごもっともだ。この機会を逃す手はない。僕ら四人は馬車に歩く。

 手前まで近づいたところで、馬車の側面に花屋の店名が表記されていることに気づく。どうやら市内の花屋が業務で使用しているもののようだ。客車と同じタイプの馬車なので見間違えてしまった。

 荷台には会場に飾られていた装花が乗せられている。フェスタ中止に伴い、引き上げにきたのだろう。


「期待して損したわ」

「やはりそう都合よくはありませんね。木陰に戻りましょう」

 

 引き返そうとしたときだ。僕はふと、荷台から聞こえてくるモゴモゴとした音を耳にした。

 積まれている木箱の隙間から足が伸びていることに気づき、荷台に上がる。

 そこには体を縛られ、猿ぐつわをされた男女が二名いた。

 いったいなにがあったんだ。驚きで頭が混乱しているなか、同じく荷台に上がってきたアイが、「トモル、これ見て!」と、僕の肩を揺する。

 それは会場で装花が置かれていた土台だった。上蓋がずれ、中が露出している。本来なら空洞になっているはずのところに、思わぬものが入れられていた。


「これってアスラームじゃないか! なんでこんなところに」


 会場から盗まれた聖剣アスラームがそこにあった。


「少年、少し静かにしてくれないか。外に聞こえちまうだろ」


 荷台の入口には、いつの間にかロバートさんが立っていた。

 ただ立っていただけなら挨拶の一つでも交わすところだけれど、そうもいかない。彼はアヤムを後ろから押さえつけ、咽元にナイフを宛がっているのだ。


「せっかくここまで気づかれずに運べたってのに、台無しにされちゃ叶わないからな」


 ロバートさんはウインクを一つしてきた。

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