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民営騎士団は眠らない  作者: 実乃里
第三章 夏フェスに行こう
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消えた聖剣

 どれくらいのブースを回っただろうか。アヤムはパンフレットをもらえばそれでいいと言っていたものの、それではさすがに愚鈍すぎる。後学の意味でも、多少の知識に触れるべきだろう。そんなわけで、わからないまでも商品の説明文を吟味しつつ、各ブースを回っていた。

 結果として得たのは武具にかんする検知でなく、多大な肩こりと疲労だった。

 とにかく一度頭の中をリフレッシュしなくてはならない。十分ほど休憩を取ることを決め、僕は屋上の展望スペースに向かう。

 入道雲が鎮座する夏空を見上げつつ、風に当たる。なかなか快適だ。北からくる季節風は夏でも微かな冷気を帯びており、火照った体と頭をほどよく冷やしてくれる。

 コンキスタの街を見ようと視線を下げたときだった。ドームの物資搬入口に横付けされている馬車に目が行った。運送業者のものらしく、装花が降ろされている。よく式典の入口などに飾られる花飾りだ。大がかりなタイプのようで、大きな土台をドーム内部に運んでいる。しばらくして搬入を終えたのか業者人は馬車で帰って行った。

 小休憩を終えて会場に戻ると、先程の装花は聖剣の周りに並べられていた。送り主はコンキスタ市市長や各種行政機関のようで、聖剣を市内に入れることへの祝福の言葉が添えられていた。さすがは聖剣。見かけは微妙だけど、由緒ある聖遺物には違いないのだ。

 ブース回りを再開したとき、ロバートさんと会った。いつの間にか肩からバッグを提げている。


「こんにちはまたお会いしましたね」

「ああ君か。悪いが今取り込んでいてね、話ならあとにしてくれると助かる」


「オレも遊びでここにきたわけじゃないからね」と、ロバートさんは歩いて行った。


 つまり今は仕事中というわけか。僕らと同じく武器の選定でも行っているのだろう。提げていたバッグの中にはパンフレット類が詰まっていると見た。


「あっトモルじゃない」


 前方のブースに入ろうとしたとき、アイと鉢合わせになった。


「ついさっきアヤムとも会ったわ。もうすぐ全て回り切るってことね」


 それは朗報だ。ゴールが見えたおかげで、もう一がんばりする気力が湧いてきた。

 せっかくなので、僕はアイと一緒に目の前のブースに入った。

 ブース内はざわついていた。なにかトラブルがあったらしく、フェスタの運営スタッフとメーカーの担当者が話しをしている。

 近くにいた運営スタッフに訊いてみると、どうも展示品の一部が紛失してしまったのだそうだ。なくなったのは属性剣が二振りで、窃盗の疑いがあるとのこと。


「泥棒ってやつはどこにでも紛れ込むものね。油断も隙もあったもんじゃないわ」


 まったくだ。タチが悪い。

 パンフレットを取り、そのブースをあとにしたときだった。会場に鐘が鳴り響いた。


「これって警鐘よね。なにかあったんだわ」


『なにか』はすぐに判明した。会場の天井が白煙に包まれているのだ。

 ――なんてことだ、火災じゃないか。

 大声で火災発生を報じる運営スタッフ。すぐに客の避難誘導が始まる。当初は動揺が広がっていた会場だったものの、集まっている人間の大半は現役の騎士だ。パニックに陥ることもなく、速やかに退避行動に移る。


「ああよかった。二人共、無事でしたか」


 避難の途中、幸いなことにアヤムと再会することができた。


「なにがどうなっているの、いったい。出火原因はなんなわけ?」

「わかりません。とにかく外に避難しないと。真夏日に焚火を囲む趣味はありませんから」


 ――んっ? ちょっと待てよ。

 僕はふと気づき、煙が充満するメインホールに踵を返した。


「バカなにやってんのよ。バーベキューになりたいわけ?」

「いや、なるなら蒸し物だろうな。これは煙じゃなく水蒸気だ」


 僕の声を聞いていた誰かが足を止め、煙に近づく。


「坊やの言うとおりだ。……おいみんな、これは水蒸気だ。火災なんか起きてないぞ!」


 その人の言葉が瞬く間に伝わり、周囲の人が一人一人と立ち止まり、煙に手を触れる。


「本当だ。煙じゃないわ」「ああ、ただの蒸気だ」「なんだってこんなものが?」


「誰か風の魔法を使えるやつはいないか。この蒸気を吹き飛ばすんだ」


 どこからかそんな声が発せられるや、心得がある人たちが次々前に出てくる。

 メインホールの入口に一列に並んで詠唱を開始し、全員が一斉に魔法を放つ。内部を覆っていた水蒸気が晴れるや、運営スタッフが会場を調査し始める。

 どうやら天井のダクトが発生元のようだ。柵がついた長方形の口からは、今も蒸気が溢れている。

 不意に、会場から悲鳴が上がった。悲鳴の主はフェスタの主催者で、それはとても悲痛な叫びだった。


「誰かきてくれ! 聖剣が、聖剣アスラームがないんだ! ケースから消えている!」


 かくして事態は厄介な方向に向かうのだった。

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