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民営騎士団は眠らない  作者: 実乃里
第三章 夏フェスに行こう
26/63

夏フェス開始

 次の日、朝早く僕らはフェスタ会場へと向かった。

 会場はコンキスタドームで行われる。公国民なら誰でも知っている有名な建物で、カーテンが連なったようなデザインから、『ストレッチカーテン』の異名で呼ばれてもいる。


「フギャ!」


 真下からドームを見上げたアイが、変な声を出した。


「痛たた! 首に、首にピーンときたぁ!」


 どうも、上を向いたせいで寝違えた首に激痛が走ったらしい。


「だから痩せ我慢しないで二人で寝ればよかったのに」

「うるさいわね。床は涼しくって快適だったわよ」


 昨日の夕食のあと、僕らは眠るベッドをクジで決めた。結果、アイが床で寝ることになってしまった。僕はベッドを譲ろうとしたけれど、アイは頑なにクジの結果を受け入れたのだ。

 入口の回転ドアを潜り、ドームの中に入る。受付で入場チケットを提示し、中枢広場に続く通路を進む。


「すごい、まるでお祭りみたい……」


 アイが言うとおり、フェスタ会場はお祭りそのものだった。

 広大な空間には各メーカーのブースが設置され、最新の刀剣がずらりと展示されている。ブース内で商品の説明をする担当者。行き交う人々に愛嬌をふりまくコンパニオン。ダミーに向かって試し切りを行う見学者。なんとも賑やかな光景が広がっている。


「意外に人が少ないな。もっと込み合っているものだと思ってた」

「今日はビジネスデイですからね。会場を訪れているのは全員が業界関係者ですよ。私たちのような各国の騎士団員や、刀剣雑誌の編集者などですね」


 自分が業界の一員となっていることが、未だに信じられない。


「一般公開が始まる明日から込むでしょうね。なんたって聖剣アスラームが公開されるんですから。除幕式まで時間がありますので、それまで会場を見て回りましょう」


 とりあえず手間のブースに足を踏み入れる。


「ここのブースはエスパールのようですね。『エスパール・アーマーインダストリー』。社名のとおり防具類に力を入れているメーカーです」


 アヤムが言うように、展示されているのは全て鎧や盾などだ。


「この軽装備、うちのと似てるわね」


 アイはマネキン人形に着せられている鎧を指差す。


「そのとおりですよ。ベケットで使用している防具はこのメーカーですから。そこにあるのはアイやシャロ姉さんが着ているものの最新モデルですね」

「ようこそエスパールブースへ」


 不意にブース内の男性から声をかけられた。スーツにネクタイとビジネスマンスタイルだ。メーカーの営業担当者だと思われる。


「聞きましたところ、わが社の鎧を使用されているとか」

「ええ、うちの騎士団では貴社の軽装備、『ジョナアーマー』を使っています」


「恐縮です」と、彼は丁寧にお辞儀をする。


「今お客さまが目にしているものは、ジョナアーマーの最新モデルではございません。別バージョンと言われるのが正解です」


 先程の話しは聞かれていたようだった。


「ほう、別バージョンと言いますと?」

「ジョナアーマーより更に軽く、軽量を重視した作りになっています。名前は『ジョナアーマーエアー』といい、スピードを生かした軽戦士の方を対象とした商品です」

「それは防御力的に問題があるのではないでしょうか?」

「いいえ、材質には希少金属のミスリルとの合金を使用しております。自社で行った実験では、ヘビーアックスの直撃にもじゅうぶん耐えられましたよ。内側には特殊樹脂を編んでありますので、衝撃の吸収率も申し分ありません」

「興味深いですね。候補に挙げましょう。パンフレットを頂いてもよろしいでしょうか」

「もちろんです。是非ご検討ください」


 アヤムは男性からパンフレットをもらう。


「では次に行きましょう」


 隣のブースに入ると、ビキニアーマーという過激な出で立ちのコンパニオンさんたちの歓迎を受けた。


「なにデレデレしてんのよ」


 アイは僕を一睨みするや、有無を言わさず脇腹を抓ってきた。


「ここは『シャルロッテ・ブレイドカンパニー』のブースですね。去年、バトルダガーがモーラ王国聖堂騎士団のサイドアームとして正式採用されるなど、最近頭角を現してきたメーカーです」

「これはこれは、お若いお客さまで。歓迎いたしますよ」


 コンパニオンさんの奥から、ノーネクタイのカジュアルなスーツを着た男性が現れた。


「シャルロッテって、もしかしてシャロ姉さんのアイスレイピアってここの?」


 シャロ姉さんが所持している特殊レイピアだ。氷の属性が備えられているのだ。


「アイスレイピアということは、『CBC WRザークリーチ』のことですね」


 営業さんにはしっかり伝わったようだ。


「五十年前、大陸で初めて武器に属性を持たせたのは、なにを隠そうわが社なのですよ」

「本当なの! ものごとを最初に行うって凄いことよ!」


 アイは素直に驚きを示した。


「お誉めにあずかり光栄です。当時、我が社は属性武器を多数作りましたが、中でもザークリーチはとくに素晴らしかったそうです。かのセプテムアハト修道会のマザーも欲したそうですよ。属性武器のパイオニアと言えましょう」


 自社を褒められて嬉しいらしく、営業さんは急に饒舌になった。


「そして、今までに積み重ねた属性武器作りのノウハウを結集させてのがこれ。『CBC WLガリーナ』です。


 営業さんはウエポンラックからロングソードを取り出して見せた。


「どうぞ試し切りを」


 言われてアイは鞘から剣を抜き、「おおっ」と驚きを露わにする。

 それもそのはず。鞘から引き抜かれた刃は炎に包まれていたからだ。誰だってビックリする。

 アイは気を取りなおし、試し切りを行う。慣れた手つきで剣を構えたのち、一閃させる。すると次の瞬間、切りつけられたダミーが炎に包まれた。


「ちょ、ちょっと、大変! 早く消火しないと!」

「ご心配なく。燃えているダミーに触れてごらんなさい。更なる驚きが待っています」


 営業さんは極めて落ち着いていた。アイは恐る恐る燃え盛るダミーに手を触れる。


「あれっ、熱くない。なんで?」


 アイの驚愕に満足したのか、営業さんがポンと手を打った。


「属性武器最大の問題は、攻撃対象の周辺にも効果が及んでしまうことでした。火属性武器を建物内で使用したためのボヤ。雷属性武器を振るえば、使った当人も痺れてしまう。水や氷の属性武器が好まれている理由がここにあります。ですが、我が社は新技術によりこの難点を克服しました」


 僕はアヤムの方を見た。彼女は目を輝かせて聞き入っている。よくわからないけど相当すごいことらしい。


「ピンポイント・アトリビューション・テクニカル・アタック。『PATA』と命名し、先月特許を取得しました。今後の属性武器の標準となることは明白です」


 その後、興に乗ってきた営業さんは自社自慢を始めた。アイが真剣に耳を傾けていることに驚く。


「これは大きな声では言えない話なのですが。ここの属性武器って、同じ商品でも当たりハズレれがあるんです」


 アヤムが僕にそっと耳打ちしてきた。


「当たりハズレ?」

「はい。武器に属性を乗せるには魔法石を使用します。正確には、魔法石を加工した専用のチップを内蔵するのですが、これが問題なのです。シャルロッテは、『ルミナーガ』と『アデュル』の二社から魔法チップを買いつけています。ミルナーガ製は高品質で問題ないのですが、アデュル製のチップは今一パッとしないと、愛好家の間では有名です」

「つまり、ルミナーガ製なら当たり。アデュル製ならハズレというわけか。選べないのは厄介だな。そういうのって、購入する際にメーカーに相談できないのか?」

「できませんね。メーカーとしては取引のある会社に角が立つことはしたくないでしょうから。ただ購入後に自分で改造することは可能ですよ。シャロ姉さんのザークリーチがまさにそうです。年代物ですが、内部チップを最新のものに換装してあるため、現行の型にも引けは取りませんよ」


 シャロ姉さんのレイピアにそんな秘密があったとは。ザークリーチカスタムといったところか。それは別として、改造という言葉にどこか引きつけられるものを感じた。


「というわけで、我が社の製品を是非ご検討ください。これがパンフレットです」


 営業さんの話は終わったようだ。僕らは次のブースに向かう。

 次は、『デレック&イーノス』というメーカーだ。なんでも、大陸最大規模の武器メーカーとのこと。見学客がやたら多いのも納得だ。


「二人共見てください。これはすごいものですよ」


 ブースに入るなり、アヤムは展示棚に駆け寄り、歓喜した。

 彼女が示したのは禍々しいデザインの刀剣だった。鍔にドクロの装飾が施されていたり、柄が骨を模したデザインになっていたりと、全体的にダークなイメージだ。


「ダークナイトこと、剣聖クラリス・ルースウェインがプロデュースした剣ですよ」


 知らない名だ。僕は疑問符を浮かべる。


「トモ君はご存知ないようですね。『剣聖』は知っていますよね。神がかり的な剣の達人に送られる、最強騎士の称号です。現時点で大陸には七人います。その中には唯一の女性、クラリス・ルースウェインという人がおり、彼女はダークナイトの異名で呼ばれています」


 僕は質問をする。「なぜなんだ?」


「ヒールだからですよ。革製の上着を着て、ドクロの刺青なんか体に施し、毎晩バーに出かける荒れた生活を送っているとのことです。喧嘩が原因で警察の世話になった話も聞きますね。そんな素行の悪さから、ダークナイトと呼ばれている人です。この不気味なデザインの武器は、彼女の意見を元に作られたそうです」


 世の中には様々な人がいるものだ。子供たちの憧れ『剣聖』の中にもそんな破天荒な人がいるとは。剣聖とはいえ、人間には違いないのだな、と思った。


「すいません! この剣の刃はなにでできているんですか!」


 アイが急に声を荒げた。ブースにいるメーカーの人の袖を掴み、こちらに引っ張ってくる。


「どっ、どうか落ち着いて。展示品は逃げも隠れもしませんから」


 メーカーの人はアイの強硬な行動に酷く困惑しているようだった。

 僕とアヤムから指摘され、アイは手を離し、謝罪を入れる。


「お気になさらずに。我が社の製品を見て興奮するのは当然です」


 メーカーの男性は、「はっはっはっ」と笑って見せた。


「もう一度尋ねます。ここに並んでいる剣、えーと……」

「『D&E モデル・クラリス』です。ダークナイト、クラリス・ルースウェインとのコラボ商品です」

「それは知ってるわ。私が訊いているのは、刃に使われている材質よ。真っ黒で透き通っているけど、これって黒水晶だったりしない!」


 ハッとした。アイは以前、公園の出店で同じことを尋ねていた。確か小さい頃の記憶がどうとか言っていたけれど。


「いいえ、これは黒水晶ではなく、特殊ガラスです」


 否定され、アイの顔に落胆の色が指す。


「嘘っ、ガラスで刃を作ったんですか!」


 大きな反応を見せたのはアヤムだった。信じられないものを見るように、モデル・クラリスを凝視する。


「我が社の刀剣技術は大陸一ですから。金属並みの強度を備えたガラスの開発だって熟してしまうのです」


 ガラスを金属並みの強度にするとは驚きだ。世の中には信じられないことを成し遂げる人たちがいる。きっとこういう人たちが社会を動かしているのだろう。


「あなたの会社なら、黒水晶でナイフを製造することも可能かしら?」

「黒水晶ですか……。お世辞にも刃物向きの素材ではありませんね。ただ、やれるかやれないかと言うことでしたら、『不明』としか答えようがありません。なにせ試したことがないもので。試行錯誤を重ねれば可能にする方法が見つかるかもしれませんし、見つからないかもしれません。いずれにせよ、現時点での我が社にそのようなノウハウはありません」


 アイは三秒ほど思案するように目を空中に泳がせたのち、説明に対するお礼を述べた。


「ヴィクトモンス公園の露店でも同じこと訊いてたよな。黒水晶のナイフがどうしたっていうんだよ?」


 アイは険しい表情で、きつく奥歯を噛み締める。怒りに震えているのがわかった。質問が気に障ったのかと思ったけれど、どうも違うようだ。怒りの矛先は僕ではない。彼女の目は微かな虚ろを湛えている。それはまるで過去を見つめているかのように感じた。

 どう声をかけていいのかわからないでいると、フェスタ会場にラッパの音が響いた。メガホンを持った運営スタッフが、これから聖剣の除幕式を行うことを告げて回る。


「おおっ、ついにこのときがやってきましたか。聖剣を直に見れるなんて、私はなんて幸せなのでしょう。参りましょう二人共」


 アヤムに手を引かれるまま、僕らは聖剣の展示スペースへと向かった。

 聖剣が置かれている場所は会場の一番奥だ。壁に向かって半円型のひな壇が形成されており、一番上の段に布で覆われた長方形の物体がある。あれがそうなのだろう。


「うーわっ、人工密度ヤバ……」


 アイがげんなりした声を出した。

 聖剣が公開されるとあって、フェスタに訪れている人の大半がこの区画に集まっている。とても聖剣には近づけない。やむなく僕らは一番後ろから眺めることにした。


「おやっ、君たちは昨日の……。なぜここにいるんだ?」


 一人の男性がやってきた。金髪碧眼の美形な男だ。今日はタキシードではなく、動きやすい夏服を着ている。


「ロバートさんじゃありませんか。あなたも聖剣を見にきたんですか?」


 ロバート・アダムス。昨日ホテルのレストランでアイとぶつかった男だ。


「ああそのとおり。オレの目当ては聖剣さ……」


 そう言って彼はひな壇の方を向く。

 ふと、僕は彼の視線から、どこか邪なものを感じた。小さな子供が悪戯を企んでいるような。


「そんなことより、今日って一般人も入場オーケーなのかい。業界関係者ばかりだと思っていたけど?」


 ロバートさんは僕、アイ、アヤムの三人を順番に視線をくべてきた。やはりどこかイヤな目つきだ。なにか探られている気がしてならない。


「私たちは業界人です。ほら」


 アイがライセンスを提示すると、ロバートさんはヒューと口笛を吹く。


「こいつは驚いた、まさかお嬢さんが騎士とは。若いのに大したもんだ」


 昨日に比べ、言葉遣いや態度がフランクになっている気がした。どこか裏表がある人のように思えた。

 そうこうしているうち、除幕式が始まったようで、ひな壇の上にフェスタの主催者が上がってきた。僕らは会話をやめ、スピーチに耳を傾ける。

 主催者は、今回のフェスタで聖剣を展示できることの喜びと、貸し出しを容認してくれたヨセミニアン博物館への感謝を簡単に述べたのち、布がかけられた聖剣に近づく。


「それではご覧入れましょう。かの、勇者ヒューゴ・モーゼルが女神イソベメグミから賜り、魔王オウガイツトムの野望を打ち砕いた神聖なる刃、聖剣アスラームです」


 布が取り除かれ、ガラスケース越しに聖剣がその身を曝け出すと、会場がざわめいた。


「……なんか微妙だよな」

「そう……ね。予想していたものとだいぶ違うわ」


 聖剣アスラームは、なんとも武骨なデザインだった。肉切り包丁のごとくやたら太い刃と、これまた太い握り部分。刃の下部には円盤のようなものがついており、そこを基に刃部分を通過するスリットが伸びていた。


「まるで重戦士が使用するバスターソードよね」


 アイの意見に同感だ。神秘さの欠片もない。聖剣に対して抱いていたイメージとはかけ離れている。


「長さは百四十センチ、幅は二十五センチくらいか。問題は重さだな……。まったく予想外の代物だぜ……」


 隣にいるロバートさんは、なにやら独り言を発していた。聖剣が期待していたものと違うことに落胆しているのだろうか。


「そうですよ。まさに予想外の代物ですね」


 僕が相槌を打つと、ロバートさんはギョッとした顔をする。


「あっ、ああ、まったくだ。もっとこう、スマートなものだとばかり思っていたよ。物語に登場するような」


 彼は慌てて喋ると、きつく唇を閉じた。独り言を訊かれていたことが恥ずかしかったのだろう。


「ねえアヤム。あれって本当に聖剣なわけ? 偽物だったりしない。なんて言うか、『これじゃない』のよね。上手く言えないけど……」


 アイと同じことをこの場に集まっている全員が思っていることだろう。見渡すと、皆首を傾げるなど、曖昧な反応を示している。


「フォルニア共和国のヨセミニアン博物館は、大陸でもっとも権威がある考古学の研究施設ですよ。そこで厳重に保管されているくらいですから、まごうことなく本物でしょう」


 言われて僕は聖剣に目を凝らす。

 聖剣はモノトーンで構成されている。柄から刃まで純白の塗装が施され、スリット部分にのみ黒が使われている。よく見ると円盤部分は銀色だ。塗装が剥げたのか、最初からなされていなかったのかはわからないが。


「女神イソベメグミから賜ったという割に、残念なデザインよね。鋼の大斧の方が強そうよ」


 アヤムはアイの目の前で、「チッチッチ」と指を振るった。


「仮に鋼の大斧と聖剣を互いにぶつけたら、大斧は粉々になるでしょうね。実際、過去に聖剣の強度実験は何度か行われたそうです。調査した学者が著書で言及していますよ。『アスラームの素材を調べようにも、我々の力ではサンプルの摘出すら叶わなかった』と……」


 つまり傷一つつけれなかったということか。見かけはダサいが、やっぱりすごいのか。


「メッチャクッチャ堅いわけね。なにでできてるわけ。あれって」

「有力なのは、フォルニア国にある大陸最高峰、ナハイム山脈から採掘されるルナストーン説ですね。この鉱石は月の光を何世紀も浴び続けることにより、どんどん硬度を増していく魔法的性質があります。色も純白と、共通する部分が多いので、十中八九間違いないでしょう」

「つまりそれを使えば聖剣の量産が可能なわけね。なんで作らないのかしら」


 僕もアイと同じ疑問を抱いた。そんなすごい素材があるのなら、様々な用途に使用できるはずだ。例えば割れない食器とか、穴の空かない鍋とか、傷がつかないフライパンとか。日常生活が便利になるのは確実だろうに。


「堅すぎて無理なのです。溶鉱炉で溶かすこともできないので、金属に精製できないんです。イソベメグミはどうやって剣の形にしたのでしょうね?」


 まさに神のみぞ知るだ。


「ねえ君。さっき聖剣を調査した学者がどうとか言っていたけど、その著書には聖剣の重量にかんする記述はあったかい?」


 ロバートさんかがアヤムに尋ねる。


「はっきりとした数値は書かれていませんでしたが、あのサイズにもかかわらず驚くべき軽さとのことです。なんでも博物館の女性職員が一人で持ち運べたとか」


 ロバートさんが僅かに口元を緩めた。


「ありがとう、神さまってのはすごいもんだな」


 そう言うと彼は僕らに背中を見せ、去って行った。

 除幕式が終わり、集まっていた人たちも離れて行く。


「さて二人共、提案があります」


 アヤムが手を上げる。


「私たちがフェスタにきたのは、ベケットの次期装備を選定するためです。実のところただの方便ですが、それを理由に社長から旅費をもらった以上、無視するわけにはまいりません。しかし会場は広いです。とても今日一日で全てを回るのは不可能です」


 現在僕らは三社のブースを尋ねている。会場の規模からして、この調子では半分も回れずに帰りの汽車時間になることだろう。


「そこで、三人で手分けをしましょう。三人がかりなら残り半日でブースをあらかた制覇できるかと予想されます」


 まあそれしかないだろう。僕とアイは頷く。


「賛成だが一つ問題がある。最近勉強しているとはいえ、オレの武具にかんする知識はまだまだ貧弱だ。どれがベケットに見合ったものかなんて見極める術がない」

「それなら大丈夫です。パンフレットをもらうだけで構いません。むしろパンフレットこそ絶対必要です。帰ったら全員で決めなければなりませんから。忘れないでくださいよ、とくにアイ」

「なんで急に私の名前が出るのよ。そんなこと言われなくてもわかってるわよ。それよりさっさと取りかかりましょう。私は入口から時計回りに進むわ。トモルは反時計回りでお願い」

「では私は中央部から渦状に回りましょう」


 話しは決まった。かくして僕らは担当区画へと散って行った。

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