日常のひととき
ホテル・オールドハンツは立派なホテルだった。五階建ての勇壮な佇まいと、王宮のごとく贅沢な内装。五つ星の豪華ホテルだ。……ただし、全ての部屋がそうとは限らない。
ホテルに入るや、僕らは地下に案内された。豪華絢爛な地上とは打って変って、地下は地味な限りだった。それもそのはず、地下にあるのは安価なビジネスクラスなのだ。
ホテル・オールドハンツは、貴族階級ばかりでなく、庶民にも門を開く、度量の広いホテルらしかった。
「思いっきり社会格差を突きつけられた気分よ」
アイはベッドに寝転びながら不満をぶちまける。
「ベケットの予算には限りがありますから。切り詰めるところは切り詰めないと」
そう言ってアヤムは眼鏡の位置をなおす。
「別にこの部屋に文句はないわよ。ただ私が言いたいのは、なぜ三人で一部屋なのってことよ。トモルは男なのよ」
ホテルの部屋を予約する際、アヤムは一つミスを犯した。
「すいません。ついいつもの癖で、女だけの旅行のつもりで考えてしまいました。トモ君が男であることを考慮していませんでした。重ねてお詫び申し上げます。このとおり」
アヤムは床に膝をつき深々と頭を下げる。
「というわけでこの件は終わりです。私のミスはサラリとお忘れなさいませ」
アヤムは何食わぬ顔で立ち上がった。なんて安い土下座だ。
「うーわ。誠意の欠片すらないでやんの」
アイはベッドから跳ね起き、アヤムの方を向く。
「でっ、冗談は抜きにして具体的にどうするの? 部屋にベッドは二つだけ。私たちは三人。誰かが床で寝なきゃいけないわ。なにで決める。じゃんけん、クジ引き、それともコイントス?」
「いいって。オレが床で寝るから」
一応は男だ。こういうときの貧乏クジは率先して引くべきだろう。
「ダメよ。あんた自分が男だから損な役を買って出たんでしょうけど、そうはいかないわ。私はね、女だからって軽く見られるのが一番イヤなの。男女の偏見はなしで、ものごとは公平に決めるわよ」
アイが強く異議を唱えた。
「ていうか、アヤムが床で寝るべきよ。あんたのミスが原因なんだから」
「お断りします。誰が地ベタでなど寝てやるものですか。もしそうなったなら、夜中にどちらかのベッドに潜り込みますよ。それでもいいのですか? これはマジな話です」
アヤムは涼しい顔でアイの提案を拒否した。
「そうだ。いっそのことトモ君とアイが一緒のベッドで寝ればいいのですよ。これぞ妙案。みんなが得をする素晴らしい選択です!」
「ふざけないで! 誰がこんなやつと一緒に寝るもんですか」
アイは一際激しく反論した。結構傷つくものがある。
「では私がトモ君と寝ることにしましょう。トモ君、今宵は優しくお願いしますね」
そう言ってアヤムは頬を赤らめる。
「アヤム。私は、『ふざけないで』って言ったわよ……」
「そうですか、ではアイと一緒に寝るということで手を打ちましょう。私は激しいですよ。今晩寝かせませんから覚悟なさい」
アヤムは相当浮かれているようだった。ベケットにいるときとは違い、惜しみなく茶目っ気を表に出してくる。これが彼女のプライベートの顔なのかもしれない。
「というわけでアイの体は私のものです、それ!」
「バッ、バカ、胸に触るな。すぐったい!」
すなわち変態アヤム……。なんだかな……。




