列車の旅2
汽車に揺られて一時間ほど経つと、さすがに退屈になってくる。
読みかけの本を家から持ってはきたものの、三十分ほどで読み終えた。窓から望む景色も、田園ばかりでつまらない。僕はすっかり時間を持て余してしまった。
隣のアイは売店で買った漫画を読んで時間を潰している。表紙には、『魔女っ娘エンジェル ミラクル・レムリン 11』と書かれている。
最近、アイはこの漫画にどっぷり浸かってしまった。なんでもアスリットちゃん宅で読んだ際、ハマってしまったらしいのだ。
「ふうっ」
溜息を吐いたのち、アイは漫画を閉じた。薄らと目に涙を溜めていることに驚く。
「感動する作品なのか、それって?」
「感動っていうか、悲しい作品よ。今巻でとうとう、レムリンは大親友だったカスミちゃんの命を奪っちゃったわ」
そう言ってアイは涙を拭いた。
「ちょい待ち。大親友の命を奪うとか、殺伐しすぎだろ。どんな作品だよ、それ――」
「悪魔の陰謀に利用された、五人の悲しい少女たちの話しよ。メントゥム大陸に住むマナミちゃんって子が主人公なんだけどね、この子には仲のよい友達が四人いたの。ある日、五人でピクニックに出かけた際、彼女らは悪魔に誘拐されてしまうわけ。この悪魔はライプストってやつで、メントゥム大陸侵略を企む大悪党なわけよ。ライプストは五人を生体兵器『魔女っ娘』に改造し、大陸に侵攻する算段だった。肉体改造が終了し、いよいよ洗脳という段階になったとき、ライプストの協力者だったモギズ教授が、良心の呵責から某班を決めたのよ。教授のおかげで洗脳前に逃げ出すことができたマナミちゃんは、以後、正義の魔女っ娘レムリンとして、侵略してくる友達を迎え撃つのでした……」
大雑把な説明だったけれど、大よそ内容は理解できた。
「ずいぶんヘビーだな。ぜんぜん幼児向けじゃねえよ、それ」
「なるほど、そういうストーリーでしたか」
アヤムはアームズフェアのパンフレットから顔を上げた。
「読んでみるなら貸すわよ?」
「でもそれ十一巻ですよね。どうせなら最初から読みたいですね。帰ったら社長から借りることにします」
「よっしゃ、普及成功!」
アイはグッと拳を握った。
なんとなく退屈だったため、僕はアイからレムリン十一巻を借り、ページを走り読みしてみた。なかなかの画力だ。可愛らしい魔女っ娘たちのバトルが、細かく描写されている。
作者の名はモシキ・ライトさんという人で、最終ページにある製作裏話を読むに、どうも女性のようだ。衝動買いが趣味で、よく息子に叱られるとあるので、結婚しているのだろう。
この作者の息子とは気が合いそうだと思いつつ、僕は席を立つ。
「どこ行くのよ」
「退屈だから少し歩いてくる。確か前方の車両に売店とか色々あるんだろ」
「なら、ついでにキャンディーお願いね。ミルク味のやつ」
アイからお金を受け取ったのち、僕は汽車内を歩き始めた。
案内標識を見るに、汽車は十両で編成されているようだ。全体を牽引する汽車本体、僕らが座っている客車、売店が入っている小売車、他の街に運ぶ荷物が詰めてあるコンテナ車、といった打ち分けだ。
僕は中央の小売車へと赴き、売店でミルクキャンディーと文庫本を一冊購入した。コンキスタへはあと二時間ほどで到着する。文庫が一冊あればじゅうぶん凌げるだろう。
席に戻るとき、通路の前方から女性が一人歩いてきた。赤い髪と尖った耳、エルフだ。スーツ姿で、手には小さなアタッシュケースを提げている。出張に向かうOLといったところか。
その女性と擦れ違うときだった。汽車がカーブに差しかかり、僅かに車両が傾く。
彼女は短い悲鳴を上げて、僕の方に倒れてきた。
「ああ、ありがとうございます」
咄嗟に支えた僕にお礼を残し、彼女は歩いて行った。
僕は「おやっ」と思い、彼女の後ろ姿を目で追った。アタッシュケースに貼られているステッカーが目についたからだ。
『アームマーク』と呼ばれるもので、武器類を公共の乗り物に持ち込む際に必要となる。
あのアタッシュケースの中は武器らしい。サイズからするとナイフかショートソードだろうか、もしかするとメイスかもしれない。
すっかり騎士団に染まりつつある自分に苦笑いし、僕は席へと帰った。




