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民営騎士団は眠らない  作者: 実乃里
第二章 ビッグフレンドデーモン
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経緯はこうだ

 かくして猫探しから始まったデーモン騒動は終結した。 

 そして日付が代わった今日、僕はベケット本部で事件の真相を打ち明かすことにした。


「結論から言うと、あのデーモンはアスリットちゃんのお父さんが関与していた」

「てことは、お父さんやっぱ生きてたの! 今どこにいるのよ?」


 アイはソファーから身を乗り出す。


「いや、そうじゃない。お父さんは間違いなく四年前に他界している」

「じゃあどういうことよ。もったいぶってないで教えなさいよね」

「そうですよぅ。私も知りたいですよぅ」

「みんなトモ君の話しに興味津々ね」

「市内で行われた召喚術。しかし術者はすでに故人ときたものです。まさにミステリーですね」


 アイだけでない。エリー、シャロ姉さん、アヤム、外出しているセシールさんを抜かした全員がこの場にいる。


「お父さんはあくまで関与しているだけで、昨日デーモンを呼んだのは別の人物なんだ」


 みんながいっせいに疑問符を浮かべる。


「正確には『人物』とはいわない。人間じゃなくて猫だからね」

「猫って、もしかしてピッピ? あの猫が召喚を行ったわけ。なわけないでしょうが。エリーも前に言ったでしょ、召喚術はものすごく難しいって。ねえ」

「はい。人間の魔導師でも困難ですぅ。ピッピちゃんは可愛いですが、どうがんばってもデーモンの召喚は不可能かと思いますよぅ」


 エリーもアイに同意する。


「おいおい。オレは召喚したなんて言ってないぜ。ピッピはあくまで『呼んだ』にすぎないんだ」


 僕はみんなに話して聞かせた。アスリットちゃんのお父さんが開発していたという、新召喚術の概要を……。

 昨日アスリットちゃんを家まで送った際、メルビュさんに事情を話し、お父さんの遺品を拝見させてもらった。

 運がよいことに、お父さんは仕事をするうえで頻繁にメモを取る人だったようだ。仕事上で起きた問題点や改善策など、事細かに記録されていた。

 メモを読み進めるうち、大よその内容が理解できた。


「名称は決まっていなかったみたいだけど、開発チームでは仮に、レトルト召喚と呼んでいたらしい」


 耳慣れない名称に、みんなが首を傾げる。


「レトルトシチューみたいで、なんだか手軽にできそうな感ね」


 シャロ姉さんはいいところを突いてくれた。


「そうです。まったくその通り。……エリー、魔法が廃れてきている理由をもう一度話してくれないか」

「えーとぉ。魔法は習得に膨大な時間とお金がかかり、今や趣味の分野になっています。あとは……」

「ありがとう、それでじゅうぶんだ。……エリーの言うように、魔法が衰退した最大の理由は手間がかかりすぎることだ。人間は基本的に面倒臭いことはやりたがらないものなんだよ」


 身に覚えが多々あるようで、アイが大きく頷く。


「魔導協会もそのことは理解していたんだ。それで、誰でも手軽に使える魔法を開発していた。その一つがレトルト召喚さ。手順はこうだ。まず召喚師が通常どおりの儀式でデーモンを召喚する。そして召喚したデーモンに命令を下したのち、封印を施す。なんでも特殊な魔法石に封じるらしい。青い色をした小さな石だ。覚えはないか?」


「ピッピの首輪じゃん!」


 アイが柏手を打つ。


「正解だ。ピッピの首輪についていた石、あれがそうだ。恐らく、内部の封印が解放されると色が落ちる仕組みになっているんだろうな」


 公民館で見たとき灰色になっていた説明がつく。


「私から一つ疑問をいいでしょうか。その封印はなぜ解かれたのですか? 封印というからには偶然で解かれるとは思えません」


 黙っていたアヤムが突っ込んだ質問を投げてきた。


「いや、解除は偶然だ。それもオレたちの目の前で行われた。場所はヴィクトモンス公園、ちょうどお昼を食べたときだ」


 アイ、エリー、シャロ姉さん。その場にいた三人が考え込む。


「封印を解除するには魔法陣を使用するとメモには書かれていた。魔法陣といっても精巧なものは必要ない。紙に印刷されたものでじゅうぶんらしい」


 エリーが「おおっ」と声を上げる。


「トンプスンアロマの袋ですぅ。あのとき、ピッピちゃんは私の香水の袋を引っかいたですぅ」


 デーモンが出現した時刻とほぼ一致する。あのあとすぐ雷鳴が聞こえ。少しして空から降ってきたのだ。


「缶詰を想像してもらうとわかりやすいな。調理された料理が魔法石というブリキ缶に納められ、使用する人間は魔法陣という缶切りを振るうだけ。専門の知識も技術も必要ない」


 まさに誰でも手軽に使える魔法だ。レトルトなんてユーモア溢れる名称も、なかなか適切だったりする。


「でも肝心の部分が説明できないわ。なんでデーモンは幼児向け玩具を強奪したのよ?」


 アイの言葉に全員が頷き、僕に説明を求めてくる。


「ここからは完全にオレの想像だから、そのことを踏まえて聞いてくれ。お父さんは生前、仕事が忙しくて家族の時間を余り取れなかったらしい。アスリットちゃんを構ってやれないことを気にしていたそうだ。多分、彼は試作品ができたとき、召喚したデーモンに試しにこう命令したんじゃないかな。『娘を喜ばせてくれ』とか……」


 身に沁みる部分があったのか、アイが微かに目を細めた。


「偶然の悪戯により公園で召喚されたデーモンは、命令を実行すべく行動を始めた。あのとき、アスリットちゃんはレムリンステックをほしがっていた。デーモンは考えたすえ、その願いを叶えることが命令の遂行に繋がると判断したんじゃないかな。『なぜアスリットちゃんが召喚主の娘と判断できたのだ?』とかは訊かないでくれよ。さすがにわからないから」

「じゃあ私たちを狙って馬車や公民館を襲撃した理由は?」

「狙ってたわけじゃない。あれは手に入れたレムリンステックをアスリットちゃんに届けようとしただけさ。それをオレたちが邪魔したからデーモンは些細な攻撃を加えてきたんだ。よく考えれば、あいつがその気になれば馬車なんて一瞬で粉々になってるよ。相当手加減してくれていたんだろうな」


 相手から加減されていた事実にプライドが疼いているのか、アイが面白くなさそうに頬を膨らませる。


「デーモンが叶えるべき願いは、更にもう一つあった。ピッピだ。アスリットちゃんはピッピの行方を気にしていたからね。これにはさすがのデーモンも難儀したことだろう。裏路地や、森の中を必死に捜索したことは想像に難くない。昨日ザウアー地区に現れたのも、ピッピを追ってきた可能性は大いにある。公民館でアスリットちゃんとピッピを発見したときは歓喜に沸いたことだろうな。ようやく命令が達成できるんだから」


 少し咽が乾いた。僕はテーブルのアイスコーヒーを一口飲んだ。


「すったもんだの挙句、昨日デーモンはようやく任務を達成した。アスリットちゃんの手にレムリンステックとピッピがあるのを確認し、満足げに魔界に帰って行きましたとさ。めでたしめでたし」


 全て言い終え、ソファーにもたれかかった。


「警察に本当のこと言わなくてよかったの?」

「素人の憶測で警察の捜査を妨害するのはまずいだろ。警察は警察なりの事実に行着くだろうぜ」


 昨日の事情聴取にも、僕は見た限りのことしか伝えていない。すなわち、アイが剣でデーモンを突き刺したら、デーモンが消滅した、と……。

 第三者の目撃証言もあることから、警察はデーモンの驚異が去ったと判断したようだ。今日になり、警戒は解除された。


「アスリットちゃんの家族が責任を問われることはないだろうから安心していいぞ」


 なにせ証拠がほとんどないのだ。警察がリンドグレン家を疑う理由はなにもない。


「いずれにせよ、デーモンはベケット騎士団の女騎士が退治したんだし、結果オーライさ」


 テーブルには今朝の新聞が置かれ、アイの写真が見出しを飾っている。


『ファキオワード市、若き女騎士により救われる』


 明日学校が再開するのが楽しみだ。アイは更なる恐怖の対象にされるに違いない。上級生も廊下で道を譲ることだろう。


「ただいま。今帰ったわよ」


 セシールさんが帰ってきた。


「手に入りましたか?」


 セシールさんは紙袋を掲げて見せた。「バッチリよ」


「メルーオーダの名はダテじゃないわよ。流行の玩具の一つや二つ、メーカーから直接手配してもらうくらいわけないわ」


 どうやら首尾よくレムリンステックを入手できたようだ。さすがは我らが社長だ。


「ではトモ君とアイちゃんに任務です。今すぐザウアー地区に向かい、これをアスリットちゃんにプレゼントしてきなさい」

「了解です。行くわよトモル。自転車を出しなさい」

「へいへい。人使いが荒いことで」


 ボクはプレゼントをカゴに、アイを後ろに乗せ、ザウアー地区に向かって自転車を走らせた。

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