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民営騎士団は眠らない  作者: 実乃里
第一章 バイト先は騎士団本部
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バイト初日

 駐輪場に停めていた自転車に跨り、バイト先へとペダルを漕ぐ。

 バイトに選んだのは、この街に本部を構える騎士団だ。あくまで雑用係として雇われたにすぎず、僕が剣を握るわけではない。今は平和な時代だ。騎士団事態、剣を使用することは稀だろう。そもそも『騎士団』という名称も間違いなのだ。正式な名称は、『ベケット総合ライフサービス』だ。

 元々、僕らが住む『ファキオワード市』には、『ベケット騎士団』なる団体があった。文字通り鎧を着て、剣を振るう人たちの集団だ。統括していたのは市役所の地域安全課で、人里に下りてきた魔物や猛獣に対処するための組織だった。

 この組織の民営化が決まったのは二年前だ。どういった経緯や思惑があったのかは、子供の僕にはわからない。ただ確かなのは、経営が民間に委託されたおかげで、僕みたいなごく普通の高校生でも雇ってもらえるということだ。

 今年の春に高校デビューを果たし、環境の変化に心躍らせていたとき、バイトの求人広告を見かけた。中学のときは禁止されていたけれど、高校ではバイトも許可されている。ちょうどいい社会勉強だと思い、勢いで履歴書を郵送してみたところ、二日後に合格という趣旨の手紙が送られてきた。なんと書類審査だけで求人が決まってしまったのだ。

 六月初めの心地いい空気を浴びながら、レンガ道を自転車で進み、市の中心部を目指す。

 たくさんの露店が並ぶ、ファキオワード市名物の『ヴィクトモンス公園』を抜け、街の中央を北南に伸びる遊歩道に入る。

 長い遊歩道が終わったとき、前方に白壁の建物が現れた。ここがベケット騎士団の本部だ。可愛らしい猫を模ったシンボルマークに親しみを覚えつつ、自転車を建物の脇に停める。

 入口のドアを開けると、ドアベルの音色に誘われ、奥から女性が一人歩いてきた。年齢は二十代後半くらいで、生地の薄いサマージャケットを羽織っている。


「いらっしゃいませ。ベケット騎士団へようこそ」


 女性は笑顔で近づいてきた。この人は受付のお姉さんだろうか。


「ご依頼はなんでしょう。ベビーシッターから魔物駆除まで、どんな些細な要望にも対応したします。今はサービス期間中なので、町内クーポンが使用可能ですよ」


 女性の話しが途切れたのを見て、僕は事情を説明する。


「あらあら、アルバイトの子だったのね。そういえば今日からだったわね。うっかりしていたわ」


 テヘッと、女性は自分の頭を小突いた。なかなか愛嬌のある人だ。


「えーと、確か名前は……」

「マイザ・トモルです。よろしくおねがいします」

「そうそう、トモル君だ。名前の前に家名がくるなんて珍しいネームよね」


 女性は頬に指を当て、繁々と僕の顔を見た。


「私はセシールよ。セシール・メルーオーダ」


 女性の自己紹介を受け、僕はハッとした。


「メルーオーダって、もしかして、ここの社長さんですか?」


 セシールさんは、「ピンポーン」と正解を示す。

 求人票に書かれていた取締役の名がメルーオーダだったので、もしやと思ったのだ。どうやら社長直々に出迎えを受けてしまったようだ。


「すいません。社長さんとは知らずに」

「いいっていいって。みんなからそう言われてるから。『こんな若い女性が社長とは驚いた』とか、『若さ溢れる社長さんで羨ましい』とか、『その若さで騎士団を切り盛りするのは大変でしょう』とか。そう、私はまだまだ若いのですよ!」


 セシールさんは『若い』を強調した。


「社長。お客さんですか?」


 奥からもう一人出てきた。こちらも女性だ。ショートのブルーヘアーに眼鏡が映える、知的な印象の人だ。女性というより少女と言った方が適切だろうか。年齢は僕と大差ない気がする。


「紹介するわ。こちら、今日からうちの雑用をしてもらうことになったマイザ・トモル君よ。親しみを込めてトモ君って呼んでね」


 なぜか勝手に愛称が決まってしまった。


「前に言っていた雑用係のアルバイトですね。よろしく、トモ君。私はここの事務を担当しているアヤム・フリントロックです。アヤムと呼び捨てで構いません」


 そう言ってアヤムさんは右手を差し出す。僕は彼女と握手を交わす。


「ときに、トモ君が着ているのはウィンターサイドの制服ですよね?」


 ウィンターサイドというのは僕が通っている学校の名前だ。ファキオワード市立、ウィンターサイド高等学校。僕らの国、フェンスター公国が運営する公立高校の一つだ。


「そうよ。彼を雇用するのを決めた理由の一つね」


 セシールさんの話しに、アヤムさんは考え込むように顎を触った。

 どういうことだろう? 僕は首を捻ったとき、不意にドアベルが響いた。


「たっだいま~。任務完了ですぅ」

「イヤリングは庭木の上にあったカラスの巣にあったわ」


 入ってきたのは二人組で、これまた女性だ。

 最初に入ってきた方は、ゆったりとしたローブを羽織った金髪の少女で、あとからきた方は栗色の髪で、軽装の鎧を身に着けた背の高い女性だ。腰には剣を携えている。


「お疲れさま二人共、紹介したい子がいるからこっちにきて」


 セシールさんの手招きに従い、二人が僕の前に立つ。


「前に話していたマイザ・トモルこと、トモ君よ。今日から私たちの身の回りのお世話をしてくれるわ」


 僕は二人に自己紹介をした。


「やったぁ、男の子だぁー。やっぱり異性が身近にいないとねぇ。トモ君にはぁ、恋人さんとかいますかぁ?」


 絡んでくる金髪の子への対応に困っていると、


「エリー。トモ君が引いてるわよ。異性に飢えているのはわかるけど、初対面でそれは印象が悪いわよ」


 一緒にきた軽装の女性が助け舟を出してくれた。


「私はシャロン・セミーリャ。みんなからはシャロって呼ばれているわ。あなたもぜひそう呼んでちょうだい。私もあなたをトモ君と呼びたいから」


 シャロさんは礼儀正しい人だ。お姉さんといった感じだ。


「わたしはエリーゼ・ブルーボーンですぅ。エリーって呼んでください。歳は十六で、現役の女子高生魔導師ですぅ」


 彼女は僕と同い年だ。ウィンターサイドでは見かけない子だから、他校の生徒なのだろう。


「そういえば、アイはまだきていないの?」


 シャロさんの疑問に、アヤムさんが頷く。


「少し前に電報を受け取りました。なんでも服を汚してしまったので、一度家に戻って着替えてからくるそうです」


 彼女らの話しからするに、どうやら団員の一人が遅れてくるようだ。


「そうね。アイちゃんとの面合わせは後にして、先にトモ君への業務説明を始めましょう。こっちにきて」


 セシールさんに連れられ、僕は本部の奥へと歩いた。

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